体にいいからいいけれど……家に届いた大量のサプリメント

美沙さんの熱意に押されるように、サプリメントを購入することを決めた。

「せいぜい3セット程度、15万円程度だと思っていたのですが、初回は20セットからの販売だという。断ろうとしたら“最初にお譲りしたサプリセットは、ホントは5万円で私が買ったの。あなたのためを思って、差額は私が払ったのよ”と言われると、悪いような気がして、購入してしまったんです。100万円を振り込んだときに、口座からお金が目減りして、すごく悲しくなったことを覚えています」

その後、大量のサプリメントが届いた。

「家庭内別居前だったら、主人に隠していたんでしょうけれど、堂々と部屋に置けることは嬉しかったですね。専業主婦時代は自分のものを買うと、働いてくれた主人に悪いような気がして、こそこそと隠していた。そこだけはよかったと思います」

サプリメントを購入したら、美沙さんともっと仲良くなれるのかと思っていたら、購入後は距離を置かれているようにも感じたという。

「“忙しいのよ。またね”みたいな感じ。あれだけいろんなことを話し合ったのに、本当にさみしかったです」

それから1か月後、美沙さんは職場に来なくなった。

「親しい社員さんに話を聞くと、美沙さんは解雇されていたんです。原因はサプリメントの勧誘。私は100万円ですが、総額300万円分も購入して、それを別の人に勧誘するようなことをする人もいたようです。いわゆる“ねずみ講”ってやつです」

美沙さんはこの施設に3年間勤務していたという。その間も何度も注意を受けていたが、それでも広めていたこと。

それに加えて、美沙さんの勧誘を受けていた30代のスタッフが断れないことを思い悩み、夫に相談。夫は介護施設の施設長に相談するのではなく、本社にクレームを出した。そのほかにも、消費者センターや業界団体、被害者の会などに妻の窮状を訴えた。

「たぶん、わざとおおごとにしたんでしょうね。男性って痛快なシナリオが好きだから。美沙さんがやめてわかったのは、彼女が重ねていたウソ。本名も別にあり、“美沙”というのは仮名だったんです。施設には“DVの夫から逃げているので、本名で働きたくない”と言っていたそう」

昌枝さんの購入額は100万円。それなりにいいものだから、100万円でもいいかと割り切っている。

「カモにされたとはいえ、魅力的な人なんですよね。でも、年を取ってから友達をつくるって難しいですね」

魚心あれば水心という言葉ではないが、ネットワークビジネスや投資話、宗教などの勧誘はいたるところにあふれている。「まさか自分はそうはならない」と思っていても気を付けなければならない時代になっているのかもしれない。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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