束縛夫がいなくなったら、何も残らない
夫は異常に久美子さんを縛るものの、久美子さんの両親には優しく、外面は完璧。いつまでも新婚のときと同じように愛情表現をしてくれていました。久美子さんの中にも夫への愛情があり、次第に夫に相談することなく周囲との連絡を断るようになっていったとか。
「夫にお伺いを立てて、一度不機嫌になった夫をなだめて、女友達とのお茶でも友人の写真と周囲を入れたカットを送らないといけなかった。あまりに寄りのカットだと『景色が入ってない!』と撮り直しの電話がきます。この写真は大丈夫かなとか思いながらお茶しても、楽しくないんですよ。
私は周囲から夫のことを異常者だと思われたくなくて、体調が悪くて認知症になった義母がいると嘘をついて面倒を見るという理由で約束を断っていました。親族に体調を崩している人がいる人をあんまりしつこく誘う人はいません。徐々に誘われなくなっていき、1年にも満たずに疎遠になりました」
久美子さんは夫との離婚は現在のところ考えていないとのこと。「夫がいなくなったら、私には何も残らない」と言います。
「今の私は、夫の望むような妻になれているんだと思います。数年前から周囲との関係が完全になくなって私が夫だけになってから、夫はずっと機嫌がいいんですよ。とても優しいです。義母との交流も近くに暮らしているわりには最小限で、何の負担もありませんし。それに、夫は稼ぎもしっかりしていて、子どももいないのに専業主婦になってもいいと言ってくれています。パートを続けているのですが、それはただ夫が帰ってくるまで暇だからです。
異常な束縛について不満があるかと聞かれたら、ありますよ。でも、今はうまくいっているから、このまま一緒にいられたら……って思っています」
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久美子さん夫婦は、最初は夫側からだけの依存だったが、今は共依存になっているように感じます。久美子さんが「異常な束縛」と思いつつも受け入れ、現状から脱しようとしなくなるのも共依存の特徴の1つです。久美子さんの中には「こんな夫を受け入れられるのは自分だけ」という必要とされていることに今の自分の存在価値を見出しているようにも見えます。共依存関係は仲がうまくいっていると感じていても気づかないまま心は無理を続け、それはいずれ精神的な症状となって表面化していきます。その無理に気づくためには周囲からの客観的な視点が必要です。今もまだ関係が続いている両親や姉が久美子さんの救いになってくれることを切に願います。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。