いつでもどこでも仕事・家族・友人からの連絡が入るようになり、スマホを通して日々の様々な情報を際限なく入手できるようになった今、利便性を感じる一方で、情報量の多さに頭がいっぱいになって心に余裕を無くしている人もいるのではないでしょうか? まじめで一生懸命な人ほどやらなければならないことや情報に振り回されてしまい、本当の自分を見失ってしまうことも。

そこで、「思考の整理家」として「人や企業の思考をシンプルにし、持っている可能性を最大限に引き出す」活動を続けている鈴木進介さんの著書『『頭の“よはく”のつくり方』から、頭の中に余裕を生み出し、本当に大切なことに向き合えるようになるコツをご紹介します。

文/鈴木進介

ルーチンは混乱に打ち勝つための最強の武器

2020年春頃より本格化したコロナ禍は、社会の構造を一変させました。特に緊急事態宣言が出て以降は外出制限がなされ、在宅ワークをせざるを得ない状況になった人もいます。

出社しなくても働ける利便性とは裏腹に、問題も起きました。仕事にうまく集中できないのです。また、仕事によっては勤務時間という概念が薄くなり、規律正しい生活を自己管理で行うことに戸惑う人も多数いました。やるべきことは多いのに、誘惑は多く、刺激は少ない。おまけに“監視の目”もない環境。プライベートと仕事の時間の境目がなくなる人が続出。時間の自由さは混乱を生みました。

いったいどうすればよかったのでしょうか? 混乱しているときは焦っても仕方がありません。決まりきったことを決まりきった手順で無心に取り組むこと(ルーチン)で、少しでも混乱をおさえるのです。これが「ルーチンタイム」を持つことの意味です。

ルーチンを行う時間を固定的に設定し、決まったことを決まった手順でやっていくことで頭の中の混乱や雑念を取り除くことができます。

あなたも経験がありませんか? 考えなくてもできるような歯磨きや文字入力だけの単純作業を行っていると無心になって集中して取り組めた経験が。あのときの感覚をスケジュールに入れて意図的につくり出していくのです。

ルーチンタイムが史上最多のメダルをもたらした

2008年8月、北京五輪の競泳男子で、マイケル・フェルプス選手は、五輪史上最多となる1大会8冠を達成しました。彼はルーチンを重視することで、雑念を取り除き試合に100%集中できたと言います。彼のルーチンを見ていると、ノイズが入り込む余地は一寸もありません。毎回、必ず同じことを決めたタイミングで永遠と繰り返しているのでなおさらです。

出典:『頭の”よはく”のつくり方』

また、複数ある動作のルーチンだけではなく、完璧に集中でき、最高の泳ぎができている状態のイメージングを毎朝起きたときと寝る前にするそうです。

元メジャーリーガーのイチローさんも、現役時代はルーチンによって野球に集中する状態をつくっていたことがよく知られています。一時期は毎朝カレーを食べ、試合前の準備・練習メニュー・ストレッチは毎回同じ内容で同じ所要時間。球場に入るときは、左右どちらの足から踏み入れるかを決め、バットは20年以上同じスペックのものを使い、バッターボックスに入ったら袖を引っ張りながらバットの先端を投手側バックスクリーン方向へ向けるしぐさを毎回行います。

生活リズムから、道具選び、練習時間、試合本番まで「これさえやれば大丈夫」というルーチンによって、野球に集中する状態をつくります。これは野球以外の不確定要素をいかに頭の中に入らないようにするかを意識していたからだと言います。

ここまでスタイルが確立されると、意志の力ではなく、もはや歯磨きと同じレベルで“行動を自動化”しますので、あれこれ考えてしまうような脳への負荷を減らすことが可能になります。

つまり、頭によはくをつくり出すには、ルーチンを行う時間をつくり、無意識もしくは無心状態をスケジュールの中に組み込んでいくことが大切というわけです。

始まりと終わりをルーチン化しておく

さすがに、私たちがマイケル・フェルプス選手やイチローさんと同じレベルでルーチン化しようとすると、いくら効果があったとしてもやる前から気が遠くなってしまいますよね。そこで、私がおすすめするルーチンタイムのちょっとしたコツを紹介します。

それは、一日のうちで「朝」と「夜」だけルーチンタイムを持つことです。朝は一日の始まりのため、ポジティブな意識につながるようなルーチンで自分にエンジンをかけ、夜は寝る前に乱れた思考回路を整える意味があります。

たとえば、私は必ず毎朝5分程度でToDoリストを整理し、自分のビジョンや勇気が出る言葉などを書いたノートを眺め、今日一日の中で最も大切なことに意識を集中させます。また、仕事が終わって寝る前の夜は、毎晩5分だけ一日を振り返って「GOOD(よかったこと)& NEW(新しいトピックスや気づき)」などをお題に3行程度の簡単な日記を書き、明日最も大切なことは何かを確認して寝ます。毎日、まったく同じ時間帯に同じことを繰り返します。

出典:『頭の”よはく”のつくり方』

2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者で行動経済学者でもあるダニエル・カーネマン氏によって提唱された法則で、「ピーク・エンドの法則」というものがあります。これは、感情が最も高ぶった「ピーク」の経験とその終わり、つまり「エンド」の経験が、物事の印象を大きく左右する傾向を表すという法則です。また、「ピーク」でも「エンド」でもない細かい記憶は、全体的な印象にほとんど影響を与えないというものです。

私はこの法則を応用して、朝のルーチンタイムで、最も大切なことに意識を振り向けるためのピークと、夜のGOOD&NEWの日記で頭の中を整えるというエンドをルーチン化し、頭の中全体をポジティブなイメージのまま保つようにしています。

ポジティブな一日の始まりと終わりをルーチン化することで、ノイズを予防する効果があります。スケジュールが多忙になり余裕をなくす前に、ルーチンタイムを先に確保するところから始めてみましょう。

* * *

『頭の”よはく”のつくり方』(鈴木進介・著)
日本実業出版社

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鈴木進介(すずき・しんすけ)
思考の整理家®。1974年生まれ。株式会社コンパス代表取締役。現在は「思考の整理術」を使った独自の手法で人材育成トレーナーおよびコンサルタントとして活動中。大学卒業後、IT系企業や商社を経て25歳で起業。「金なし・人脈なし・ノウハウなし」の3重苦からスタートしたため、3年以上まともに給料が取れずに挫折続きの生活を送る。その後、思考を整理すれば問題の9割が解決していることに気づき、「思考の整理術」に開眼。以来、10年以上にわたり研究を重ねて体系化。難しい問題を優しく解きほぐす「思考の整理術」は、フリーランスや起業家、上場企業まで幅広く支持され、コンサルティング実績は100社以上、研修や講演は年間150日以上登壇、セミナー受講者数は累計3万人を超す。

 

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