夫婦だと気づいても気づかないふりをするのがマナー
では、同じスポーツジムに通う夫婦は、どのように振る舞うのが無難なのだろう。
「長く通うつもりがあるなら、夫婦で同じプログラムに参加しないことですよ。僕は当初、ヨガに出ていたんだけど、なんとなくいつも女房の近くを陣取っちゃったんだよね。家に帰れば『近づき過ぎ。私のことチラチラ見てたでしょ』って怒られる。目線まで注意されるなんてうるさくて仕方ないから、ヨガはあきらめたんです」(正さん)
「結局ね、私も気になっちゃうんですよ。そもそもストレス発散のためにジムに行くんだから、目に入らないようにするのがいちばん。家でも外でも一緒にいるような生活は、精神的によくないですから」(まりこさん)
正さんがジム通いを始めて2年ほど経つ。ふたりが夫婦であることは、誰も気づいていないのだろうか。まりこさんによると、自己申告しない限り、ふたりが夫婦だと気づいても気づかないふりをするのがマナーなのだそうだ。
「もちろん、気づいている人はいるでしょうね。主人と地元のスーパーで買い物をしているとき、ばったり会った人もいますし。でも、だからといって、そのあと夫婦扱いされたこともないですよ」(まりこさん)
以前、仲のいい夫婦だと思っていた男女が、じつは赤の他人だった、ということもあったそうだ。
「ロビーでいつも一緒に弁当食ってるからさ、手作り弁当をね。で、『仲良いねー』なんて言って茶化したこともあるわけ。そうしたら、また家で女房が怒るわけ」(正さん)
「ね? 無粋でしょう? 余計なことは言うのも聞くのもダメなの。だいたい、一緒に来て、一緒に手作り弁当を食べている時点で、“夫婦の仮面”を被った他人だったりするんだから」(まりこさん)
かくしておふたりは、今日も“他人の仮面”を被り、ジムで汗を流している。
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。