人並みの生活水準は高く、安易に親を頼る40代
里美さんの話を聞いていると、夫は団塊世代の大手企業の会社員で、手厚い年金受給がある。加えて、投資信託や不動産収入も細々とあるという。でも、お金はどんどんなくなっていく。
「息子から“母さん、悪い。20万円貸して”などと連絡があるとドキッとしますよ。息子のところには孫が2人(15歳と10歳)いて、どちらも男の子で私立の学校にいっている。サッカー、英語、プログラミングと習い事をしていて、サッカーはどうも強いらしく、強化選手ということで合宿費用に30万円以上かかることもある。地方遠征になると、飛行機代や宿泊費もかかる。息子も嫁もそこそこの会社に勤めているけれど、マンションのローンを払って、さらに教育費も払っていたら追いつかない」
今、首都圏の中流の“人並みな生活”の水準は暴騰している。
「これは息子も娘もそうだけれど、“公立学校のレベルが落ちているから私立に行かせなくちゃ”と言う。これにより、息子は親の金を頼るようになり、娘は家庭教師と浮気して離婚した。昔みたいに、義務教育は無料の公立学校に行っていれば、そんなことにはならなかったんです」
娘が離婚して実家に戻ってきて1か月。働く気配もなく家にこもってスマホを見ているという。
「42歳でまだまだ若いのだから仕事をしてほしい。でも、適応障害の薬を飲んでいるし、痛々しいほど痩せているのであまり強いことも言えない。主人と私と二人で生活していた時は、会話も笑いも絶えず楽しく過ごしていたのに、根暗な娘がくすぶっていると、空気がドーンと重くなるんですよ。主人は定年後に関連会社に出向して、65歳まで働いたあと、お友達が作った会社でアルバイトをしているんです。前は週3程度だったのに、今は週6日フルで働いている。家に帰ると娘がいるから嫌なんでしょうね」
それに、お金を稼ぎたいという気持ちもある。子供たちが結婚するまで、2000万円あった貯金が今は500万円を切っているからだ。
「コロナで持っていたマンションの部屋も空き室になってしまっている。投資信託を解約するのももう少し待ちたい。夫も私も75歳で、平均寿命から考えたらあと10年は生きる。それまで今と同じように年金がもらえるのかも不安です。子供たちに迷惑をかけられても、自分がかけたくない」
このまま娘が働かなければ、社会問題になっている「8050問題」と同じ状況になる。
「それはどこか覚悟しているところがあります。それと同時に困っているのは、孫の教育費を祖父母の私たちが負担する問題。愛する孫の可能性を潰しているようで断りにくいんです」
里美さんは「金がない、というわけではないですから」と言う。しかし、話を聞く限り、息子は親の献身を「当たり前」と思っている節がある。本当に金が尽きたとき、どのような扱いを受けるか……命が尽きるのが先か、それとも……という疑問は残る。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。