成績不振の息子を、夫は叱責した
有名企業に勤務する夫(次男)は実質的な跡取り息子だ。その長男である我が子が、家の跡取りになる。
「当時、よいとされる教育は全て受けたと思います。でも、息子は勉強が嫌いだった。落ち着きがなく攻撃的で、興味が四方八方に飛んでいった。今なら“発達障害”という診断名がついて、しかるべき療育を受けつつ、適正に合った道に進んでいくのだろうけれど、当時は違った。夫は“まともではない”息子を激しく叱責し、今なら警察沙汰になりかねない暴力をふるった。それでも息子はできなかった」
中学校に入ると、息子は反抗心を募らせて、父親を攻撃した。
「主人の虐待を放置した私も同類ってことで、息子にはよく殴られましたよ。中学校に行っていないから、高校に進学できない。当時はフリースクールなんてありませんし、いわゆる勉強に対して意欲がある不登校と息子は違うから、あっても行かなかったでしょうね。息子はハンサムでシュッと背が高いから、ホストのようなことをしていたかもしれませんね。10代後半は立派な“ワル”になって、父親に復讐をし始めた。主人の会社に乗り込んで何かをやらかして、警察沙汰になり、主人は出世街道から外れました」
暴力と恨みによる負の連鎖。その発生源は「世間体を重視すること」だ。
「息子は家に帰っては、現金や金目のものを取って行った。偉そうに借金をして、こちらも世間様に迷惑をかけてはいけないと、言うがままに出してしまった。それに、高校も大学も行っていないから、学費もかからない。主人は体力的に勝ち目がなくなってからは、ビクビクするようになっていた。幼い息子にあれだけひどいことをしたのにね」
暴力を介した親子関係が続き、息子がほとんど帰ってこなくなってから10年目、コロナ禍中に警察と司法書士から電話があった。息子が賃貸マンションで死んでいた。
「主人と一緒に指定された警察署に向かうと、遺体があった。確かに息子でした。明らかに自死だという証拠があった。葬儀を終えて待っていたのは、1000万円以上の賠償金の請求だったのです」
【「事故物件になった」とカンカンの大家さんから損害賠償請求された……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。