父親は兄を元に戻そうとするも平行線のまま、兄とは疎遠に。修復のきっかけは母の「会いたい」の一言だった
お兄さんに対面した父親も初めはびっくりしていたそうですが、母親のような態度はしなかったそう。
「父親は案外冷静でしたね。今の仕事のことなど、兄に質問していました。兄はしばらくは男性としてスーツを着て企業に勤めていて、プライベートの趣味として女装をしていたそうですが、カミングアウトしていたTwitterの裏アカウントが会社の同僚にバレて、居心地が悪くなり退職したそう。小さい頃から男性が好きだったと聞いて、私はすんなり受け入れることができました。完璧だと思っていた兄にもそんな部分があって、人間っぽくて親近感が湧いたというか。
でも、父親は怒るんじゃなくて、説得するように女装をやめてほしいと伝えていました。もちろん兄とは平行線のまま。兄は夜遅くだったけどそのまま家を出て行き、二度と戻って来ることはありませんでした」
そしてお兄さんとの連絡を絶ったまま、母親は退院。再び3人での生活が始まります。それはいつも通りの光景でしたが、どこか違和感があったと言います。
「両親ともに兄の存在を消そうとしている感じがしました。本当になんとなくなんですけど、私も気を使って兄の話をよりしなくなったというか。でも、その違和感もいつからか無くなっていったんです。でも、それは私の中だけでした」
その後、母方の祖母が2年前に他界したことで、母親はお兄さんのことを口にするようになったそうです。
「祖母の葬式には、私から兄を誘ったんですが、参列しませんでした。親だけでなく親戚にも会いたくないようで。でも、葬式が終わって、四十九日法要が終わった後ぐらいから、母が兄に会いたいって言うようになったんです。私はすぐに兄に電話して、でも渋って中々戻って来るとは言わなかったので、父と一緒に兄を迎えに東京まで行きました」
その後お兄さんと母親は無事に和解。母親の態度は拍子抜けするほど普段通りだったそう。「実家に兄を連れて行った直後に母親は普通に『おかえり』と言って、話し合うわけでもなく、普通に日常会話を始めたんですよ。久しぶりの家族4人の夕ご飯も母親は普通に兄の東京での暮らしについて質問していて、こっちはハラハラしたんですが、普通でした」とのこと。そして現在、お兄さんは大阪で一人暮らしを始め、陵子さんと交代で母の病院に付き添っているそう。陵子さんは「一時はどうなるかと思ったけど、関西に戻ってきてくれた兄には感謝しています。見た目はお姉ちゃんだけど、長男として家族を支えてくれています」と語ります。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。