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『老親の家を片づける ついでにわが家も片づける』(阿部絢子 著、だいわ文庫)の著者は、当時89歳だった母親が熱中症で倒れたことがきっかけで“実家の惨状”を知ることになる。

親と一緒に住んでいるわけではなく、年に一度か二度帰省するだけだったため、母親の住むその家が散らかり放題になっていたことをそのとき知るのである。

そこで実家の片づけを決意し、その過程において「ついでにわが家を片づける」という発想にも至る。つまり本書は、親の家を片づけながら“片づける”ことの本質に迫った体験記である。

ところで生活研究家・消費生活アドバイザーという肩書きを持つ著者は、シニア向けの雑誌やテレビにおいて「片づけ」をテーマにした仕事をする機会があったのだそうだ。

すべて60代夫婦で、団塊世代か、それより少し若い年齢の組み合わせだったというが、訪問してみて驚かされたのは、予想をはるかに超えたモノの分量。端的にいえば、団塊世代の家の多くがゴミ屋敷予備軍だったのである。

そうなってしまう要因は、2つ。

一つは、「消費生活世代」だということだ。高度経済成長の申し子であり、消費することが豊かさの証、モノを買うことが悦びという習慣が刷り込まれている。だから買うのが大好き、やめられない。老年になっても買い続けるうえに、モノがない時代に育った「もったいなくてモノが捨てられない」世代の親から、片づけの方法を教わっていない。つまり「片づけ力」が身についていないのだ。
二つめは、日本人の農耕民族DNAだ。一年かけて育て収穫した米は大切に保存し、決して無駄にはしない。一度手に入れたものは、もったいなくて手放せないのだ。(本書「はじめに」より引用)

こうした2つの要因に「老い」が加わってしまうため、どんなに広い収納場所があったとしても、増える一方のモノは行き場を失い、散乱し、積み上げられていくというのだ。

だが、暮らしには「片づけ力」が欠かせないと著者は断言している。言うまでもない。それがなければ、老いとともにゴミ屋敷化が加速してしまうからだ。

そして、そう考えていくと、老いた親の家を片づけることは必然的に自分の家を片づけることにもつながっていくわけである。

とはいっても、現実問題として片づけは楽ではない。まず避けて通れない最初の大きなハードルは、「これは捨てるべきか、とっておくべきか」と悩まされることだ。

片づけを始めてはみたものの、その段階で膨大な時間を浪費してしまうというのはよくある話だ。だからこそ、片づけには「モノの要・不要」を判断する条件が5つあると著者は考えているそうだ。

1 五年以上使用していない
2 何年も散々使用して、デザインや機能が古くなった
3 修理して使用できるが、費用がかかる
4 存在すら忘れていた
5 未練や物語がない思い出の品
(本書83ページより引用)

著者はサライ2017年5月号で「増え続けるうつわの整理に便利な『うつわの見直し』チェックシート」を公開しており、上記のいくつかはそちらと重複するが、それは本質的な部分が変わらないことを意味してもいるだろう。

ましてやそれが親の家となると、どんなモノが出てくるか予想もつかず、そこにどんな価値(だと思い込んでいる理由)があるのかも想像しづらい。そのため、この5項目のような条件を決め手として「いる・いらない」を判断していく必要があるということだ。

理屈どおりに進んでいく可能性は、決して高くないだろう。著者自身も、自分とは違って「お宝があるかどうか」を捨てるか否かの判断基準にしている妹さんとの考え方の違いに悩んだようだ。

なにしろ妹さんは、「どうせ片づけるのなら、楽しく、お宝探しのほうがおもしろい」という考えを持っていたというのだから。

たしかに、その気持ちもわからないではない。「お宝は見つけた人のモノ」という、いささか強引な主張にしてもまたしかりである。

だが、やはりそれだと片づけはいつまでたっても終わらない。著者も、そう考えている。

とにかく、即断即決で進めないと終わらない。幾日もかかると、費用も大変なことになるからだ。
突き進む → 要る? 要らない? → 即決める。
即決し、運んでは手渡しを繰り返して、手前から奥へと狙い通りに片づけていった。(本書85ページより引用)

さらに、その過程においては「親の気持ち」をなんとかする必要もあるだろうから、やってみればこれほどうまくはいかないかもしれない。しかし、いつか訪れる可能性の高い「親の家の片づけ」のケーススタディとして、本書は参考になりそうだ。

ひいてはそれが、自分の家の片づけにも好影響を与えてくれるかもしれないのだし。

『老親の家を片づける ついでにわが家も片づける』

阿部絢子 著
だいわ文庫
本体680円+税
2020年1月発行

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。2020年6月、「日本一ネット」から「書籍執筆数日本一」と認定される。

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