情報を正しく理解し、自分の考えをわかりやすく伝えるコミュニケーション力の必要性がますます高まる現代において、語彙力の重要性は増しています。「Literas 論理言語力検定」を主催する株式会社ベネッセコーポレーションが、グループ内シンクタンク「ベネッセ教育総合研究所」の協力のもと、2019年7月に、全国の高校生から社会人までの3,000名を対象に「第4回 現代人の語彙に関する調査」を実施しました。
それぞれの年代によって語彙力は異なるのでしょうか。早速見ていきましょう。
■「いつメン」「とりま」、わかりますか?
高校生と親世代にあたる社会人(40~60代)を比較したところ、高校生が親世代より知っている「辞書語彙」の語はSNSなどでよく使われるひらがな、カタカナの短い語に集中。「いつメン」「とりま」「りょ」「ツイキャス」「タピる」などは、熟知度が40ポイント以上の差となった。高校生では「あり寄りのあり」や「とりま」など、断定的に答えることを避けて柔らかく曖昧に表現する語の熟知度が高い。一方親世代が高校生よりも知っている割合が高い15語はすべて差が40ポイント以上あり、語の種類によって世代間ギャップが鮮明な結果となりました。
●高校生が親世代よりも「知っている」割合が高い語、
親世代が高校生よりも「知っている」割合が高い語(「辞書語彙」上位15語)
■大学生と親世代(社会人40~60代)の新聞語彙の熟知度の差
大学生が親世代よりも知っている「新聞語彙」の語を見ると、「メディアリテラシー」(メディアに対して主体性を確立すること。<デジタル大辞泉・小学館より>)「3R」(Reduce・Reuse・Recycle3つの頭文字)「アクティブ・ラーニング」(能動学習。<デジタル大辞泉・小学館より>)「LGBT」(性的マイノリティーのうち、レスビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの総称。<デジタル大辞泉・小学館より>)「フードマイレージ」(食料が消費者に届くまでに輸送される距離を数字で表したもの。<デジタル大辞泉・小学館より>)など、現代とこれからの社会課題に結びつく新しい概念を示す語が並びました。
●大学生が親世代よりも「知っている」割合が高い語(「新聞語彙」上位15語)
■「新語」の熟知度の変化
2017年度から2019年度の調査までの熟知度の変化(全体)を見たところ、以下の語の熟知度が伸びていました。世代別に語の浸透度を見てみると「エゴサ」(エゴサーチの略語。自分の名前やハンドルネーム、サイト名、社名などをサーチエンジンで検索し、他者による評価を調べる行為。<デジタル大辞泉・小学館より>)のようにSNSの普及によって全世代で同様に熟知度が伸びた語、「ワンオペ育児」(何らかの理由で1人で仕事、家事、育児の全てをこなさなければならない状態を指す言葉。<知恵蔵mini・朝日新聞出版より>)のように育児の当事者である社会人(20・30代)の世代に偏って熟知度が伸びた語、世代を超えた社会課題である「食品ロス」(食べられる状態であるにもかかわらず廃棄される食品。<デジタル大辞泉・小学館より>)のように、元々、社会人(40~60代)の熟知度が高かったが、他の世代が追いつくように急激に熟知度が伸びた語などがありました。
世代への浸透の仕方がその語が持つ社会課題の位置づけと密接に結びついていることがわかる結果が出てきています。
■「人生100年時代」の語の熟知度と、社会課題に関する各語の熟知度の関係
日本の長寿化が進むことを前提に国が設置した「人生100年時代構想会議」を踏まえ、政策のベースになる考え方のひとつである「人生100年時代」という語の熟知度は高校生でも56.5%と高く、全世代では67.0%の熟知度となりました。
「人生100年時代」という語を「知っている人」と「知らない人」の、その他の社会課題に関する語の熟知度を見たところ、それぞれ20ポイント以上の差となっています。
■【社会の変化や将来の人生設計に対する考え方】と「語彙力」の関連性
「社会で必要とされるスキルや能力が変わった時には、自分で努力して身につけたい」と考えていたり、「自分が将来どのような人生を送りたいかを考えることは重要だ」「自分の能力や将来設計に合わせて転職などキャリアを見直すのは良い」と考えている人のほうが、語彙力は高いという結果になった。社会の変化に敏感で、その変化を踏まえながら自分の人生を主体的にとらえることが、語彙力を伸ばすことにつながる可能性があると考えられます。
■スマートフォン、パソコンだけではなく書籍・雑誌・新聞に接しているほうが「語彙力」が高い
昨今はスマートフォンやパソコンなどから情報を得ている人が増えているが、接触するメディアの違いによる語彙力を確認したところ、デジタルメディアだけではなく、書籍・雑誌・新聞にも接している人のほうが「語彙力」が高いという結果が出てきました。
デジタルメディアとは異なり、深く時間をかけて接することの多い紙メディアにも接している人のほうが「語彙力」が高いと言えるのではないでしょうか。
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いかがでしたか? 急激に変化する社会の中で、社会に合わせて自分を変える意欲のある人ほど語彙力が高かったことがわかりました。社会への意識と語彙力との関係を象徴していますね。
【調査概要】
■名称 : 第4回 現代人の語彙に関する調査(略称:語彙調査)
■調査テーマ : 年代、生活、行動と語彙力の関連性を明らかにする調査
■調査方法 : インターネット調査(専用ページにて回答入力)
■調査時期 : 2019年7月
■調査対象 : 全3,000名
高校生(高校1年生~3年生):1,000名
大学生(大学1年生~4年生):1,000名
社会人(20・30代): 500名、(40~60代):500名
※男女比は均等人数 ※高校生・大学生は各学年均等、社会人は10代刻みで均等人数
■調査項目
・語彙450語の熟知度 辞書語彙: 230語 新聞語彙:220語 合計:450語
※今年度は調査の信憑性確認のため「疑似単語」20語の混在を実施
・属性に関する項目:言語能力と関連する姿勢、意識、行動、志向、情報へのアクセスと活用、人とのコミュニケーション、新しいことへの積極性、多様性への対応 など
■協力 : 猪原敬介(くらしき作陽大学 講師)、木村治生(ベネッセ教育総合研究所 主席研究員)