選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
作曲家・ピアニストにして哲学者・詩人ともいえる稀有の言葉の使い手、高橋悠治が『エリック・サティ 新・ピアノ作品集』を録音した。79歳にして、約40年ぶりのサティ再録音である。
サティは高度成長期からバブル期にかけて急速に日本の聴衆の支持を集めたが、その根底には、学校教科書には出てこない、反逆の匂いのする、それでいて「おしゃれ」なパリの音楽として広く受けた、という要因があった。
だが本来サティの音楽は、何よりも裸の音楽である。音の数が少なく、たっぷりとした余白がある。だからこそ、響きやリズムに対する感覚が、真の音楽性が、根本から問われる。
今回のサティは、淡々としたぶっきらぼうな調子のなかに、年老いてはいても強靭な精神を保ち続けている男ならではの、気骨と確信が垣間見える。
実に味わい深い、繰り返し聴きこみたいサティである。
【今日の一枚】
『エリック・サティ 新・ピアノ作品集』
高橋悠治(ピアノ)
2017年録音
発売/日本コロムビア
電話:03・6895・9001
商品番号/COCQ-85373
販売価格/3000円
写真・文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年1月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。