文/印南敦史

マスコミでもおなじみの俳人である夏井いつきさんの新刊『夏井いつきの世界一わかりやすい投句の授業』(夏井いつき 著、PHP研究所)は、「投句」がテーマとなっている。
聞き慣れないことばかもしれないが、「投句」とは、つくった俳句を投稿すること。素人には難しそうな気もするが、夏井さんによればそうでもないようである。
センス0でも、型を知るだけで、だれでも簡単に一句作れるのが俳句です。
俳句と出会い、身のまわりの「こと」や「もの」のすべてが、「俳句のタネ」になると知ったみなさんは、人生を豊かにしてくれる俳句の力を、すでに実感していることでしょう。そんなみなさんに、おすすめしたいのが投句です。
投句が習慣になれば、俳句を作ることが日常となり、俳句のある人生をさらに楽しめるようになります。
(本書「はじめに 楽しい投句のすすめ」より)
投句先は、テレビや新聞、雑誌の俳句コーナーを筆頭に、地域限定の俳句コンテストや大きな俳句大会、さらには気軽に投句できる俳句サイトまで多種多様。投句料が必要なものだけでなく、無料で気軽に投句できるものもあるそうなので、やる気さえあればすぐにチャレンジできる。
とはいうものの、俳句の基礎を知らない方にとって、そのハードルは高くもあるだろう。だが夏井さんは、「準備しすぎない。勉強してからにしようとしない。『私なんて』と思わない」ということを伝えたいのだという。
重要なポイントは、同じような悩みを抱えた人はいくらでもいるということ。だからこそ、投句に関する思いを共有できる人と交流することは大きな意味を持つのだ。
投句を続けていくと、きっとたくさんの「句友(くゆう)」ができるはず。本名も住んでいる場所も年齢も性別も職業も、よく知らない。お互い知っているのは、俳号とその人が作った俳句だけ。それなのに長年の友人のような存在になっていく。句友の存在は本当に人生の宝物になるから、そのためだけでも投句をおすすめするよ。
(24ページより)
これは、リタイア世代にとっても重要なポイントかもしれない。第一線から退くと、必然的に人との交流が少なくなる、あるいは断たれてしまう。しかし、たとえそれがネット上の関係であったとしても、俳句という共通の趣味によってつながった句友がいることは大きな励みになるはずなのだから。
しかも社会人時代、地道にコツコツ仕事を進めてきたようなタイプの人は、どうやら俳句に向いているらしい。
俳句はセンスや才能が必要とされるものではなく、「筋トレみたいなもの」だからである。つまり、やればやるだけ俳句の筋肉がつくというわけだ。
たとえば夏井さんは2001年から「夏井いつきの一句一遊」(南海放送)という番組を続けておられるが、そういった番組に投句し、ラジオを聴くだけで、俳句上達の両輪である
1:自分で俳句を「作る」力
2:人の俳句を「読み解く」力
(本書25ページより)
のふたつが同時に身につくという。
だから、とても効率がいいわけだ。セミナーなどに通うとなるとお金もかかるし、緊張感からも逃れにくい。しかしラジオに投句し、さらには他の人の句から学ぶのであれば、誰に気兼ねすることもなく、純粋に俳句を楽しむことができるだろう。
なお、このラジオ番組では2週間にひとつ、「兼題(けんだい)」というお題が出されるという。「兼=あらかじめ」出されるお題なので兼題。その兼題にそって俳句をつくってみればいいわけだ。
季語が兼題になることもあれば、漢字一文字「福」とか、カタカナ一文字「カ」などの兼題もあるようだ。
また、一般的な兼題では、「悲しかったこと」「この写真を見て一句」などというテーマもあるというので、意外と気軽に試すことができそうだ。
ちなみに、兼題と似た言葉に「席題(せくだい)」というのがあります。句会などの「当日、その席の場」で出されるお題なので席題です。
(27ページより)
その場ですぐに俳句をつくることを、「即吟(そくぎん)」という。準備ができないのだから、慣れていないと頭が真っ白になりそうではある。が、そうしたスリルもまた、楽しみのひとつなのかもしれない。
いずれにしても、想像以上にハードルは高くないようだ。夏井さんの番組に投句してみたり、あるいは本書を参考にしながら、新たな趣味として俳句を取り入れてみてはいかがだろうか。

夏井いつき 著
1760円
PHP研究所
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。











