文/印南敦史

幾度となくダイエットに挑戦するも、結局は挫折してしまう――。
そんな経験の持ち主は、きっと少なくないだろう。しかし、それは自分の意志が弱いからではないのだと、『科学的に実証された 超ダイエット習慣大全』(堀田秀吾、木島 豪 著、Gakken)の著者は強調している。
原因は意志の弱さにあるのではなく、「完璧にやる」という“戦略”そのものが“続かない構造”になっているというのだ。
ダイエットに戦略とはなかなかユニークだが、そんなアプローチからもわかるとおり、本書はよくある“根性論系”ではない。世界中の研究者が実証した「無理なく続ける仕組み」108項目を凝縮した書籍なのである。
たとえば以下は「完璧主義」がもたらす弊害についての記述だが、このようにエビデンスを軸としながら話を進めているわけだ。
ドレクセル大学のフォーマンらは、「マインド・ユア・ヘルス・プロジェクト」と名づけた臨床試験で、過体重の参加者128名を40週間追跡しました。参加者は2つのグループに分けています。1つは「標準的な行動療法(SBT)」グループで、食事・運動の目標を立て、「食べたい」気持ちを思考の力で打ち消す、おなじみの方法です。もう1つは「受容に基づく行動療法(ABT)」グループ。食欲を「なかったこと」にするのではなく、「そういう気持ちが今あるな」と認めたうえで、自分の価値観に従って行動を選ぶアプローチです。
(本書34ページより)
なかなか興味深い取り組みだが、終了時点での体重減少率は、ABTが13.17%だったのに対し、SBTは7.54%。さらに6か月後の追跡では差が広がり、ABTは10.98%を維持した一方、SBTは4.83%にまで縮小したのだという。
10%以上の減量をキープできた人の割合も、ABTが64%に対してSBTは46%と約20ポイントの開きがあったそうだ。
見逃すべきでないのは、「気分的な落ち込み」との関係性だ。落ち込みやすい傾向のある参加者に絞った場合、その差はさらに鮮明になるというのだ。6か月後の体重減少率でいえば、ABTが11.2%だったのに対し、SBTは4.6%だったという。
著者は、こうした差が生まれる背景には「思考抑制のリバウンド」という現象があるのだと述べている。「チョコレートのことは考えるな」と言われたら、かえって頭から離れなかったりする、あの感覚だ。欲求を抑え込もうとするほど、ストレスが高まったときに一気に崩れやすくなるのである。
一方、「食べたい気持ちはある、でも、いまの自分は健康を大切にしたい」と認めながら選ぶ姿勢は、失敗から素早く立ち戻る力を育ててくれるという。研究者はこれを「心理的柔軟性」と呼んでいるそうだ。
80点で十分です。今日少し食べすぎても、次の食事で普通に戻すだけ。0か100かの思考を手放したとき、初めて長続きする変化が動き始めます。
(本書35ページより)
「やせるぞ!」と決意するも3週間後にはフェードアウトしてしまうのは、意志ではなく「設計」の問題かもしれないようだ。ダイエットをひとつの「プロジェクト」として設計することが、継続につながっていくというわけだ。
しかも、「サボった日があっても、90日続ければうまくいくもの」なのだという。なぜ、「90日」なのだろうか。
このことに関連して紹介されているのは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのラリーらによる、日常生活における習慣形成のプロセスを追跡した研究だ。96名の参加者が食事・飲み物・運動に関する行動を毎日同じ文脈で繰り返し、「意識しなくても自然にできる(自動化)」状態に達するまでの日数を測定したというのである。
その結果、自動化に要した日数は最短18日から最長254日と大きな個人差があり、中央値(大きさの順に並べた際に、全体の中央にくる値)は約66日でした。66日という数値に余裕を持たせると、90日という期間は「ほとんどの人が習慣の手応えをつかめる」現実的なラインになります。長すぎず、短すぎない、3ヶ月という人間の生活リズムとも重なる区切りです。
(36ページより)
だから「90日」だというわけだ。
また、この研究にはもうひとつ見逃せない発見があったようだ。行動を1回サボったとしても、習慣形成のプロセスにはほとんど影響しなかったというのである。つまり、「完璧にこなすよりも、同じ文脈で繰り返し続けるほうが、習慣を育てるうえでは効果が大きい」ということ。これは、多くの人が途中で諦める理由を、根本から覆す発見だといえそうだ。
なお、実際の90日プロジェクト設計にはいくつかの要点があるという。
まず、開始日と振り返り日を具体的に決めること。そして最初の30日は1つの行動だけに絞り、手応えが出てきたら次を加える段階的な設計にすること。一度に全部を変えようとするほど、崩れやすくなります。週に1回、5分だけ「何ができたか・何が難しかったか」を振り返る時間を作ることも効果的です。毎日の完璧な実行よりも、週1回の小さな軌道修正のほうが、3ヶ月後の到達点に大きく影響します。
(本書37ページより)
ダイエットをしようと思い立つと、つい「必ず続けてみせる」などと大げさに考えてしまいがちだ。だが気負うことなく、「まず90日やってみる」と決めるほうが、実際には長続きするわけだ。
90日が終わったら、また次の90日を始めればいいのだから。

『科学的に実証された 超ダイエット習慣大全』
堀田秀吾・木島 豪 著
1760円
Gakken
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。











