
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第43回です。佐々成政(演・白洲迅)が肥後の国人一揆の黒幕という設定でした。
編集者A(以下A):大河ドラマで佐々成政が脚光を浴びたのが2002年の大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語』になります。同作は、前田利家(演・唐沢寿明)、まつ(演・松嶋菜々子)夫婦が主人公。その脇を羽柴秀吉(演・香川照之)とおね(演・酒井法子)夫婦に加えて、佐々成政(演・山口祐一郎)とはる(演・天海祐希)夫婦が固めるという構成でした。
I:松嶋菜々子さん、酒井法子さん、天海祐希さんが3人で絡む場面は、可憐で華やかな印象の素敵な場面でした。20年以上も前の作品ですが、いまも懐かしく思い出される作品です。
A:『利家とまつ』の佐々成政も秀吉と反りが合わない設定でした。「秀吉が嫌い」というくくりでは、『豊臣兄弟!』と一緒です。人のもやもやの大部分は人間関係に起因するといわれます。人間関係の機微もまた歴史から学ぶべきところが多いところです。
I:さて、肥後の国人一揆ですが、実際はどうだったんでしょう。
A:肥後といえば、後に秀吉子飼の加藤清正の領国となり、さらに細川家が転封されて入り、幕末維新に至ります。細川藩主家の当主細川護熙氏は熊本県知事から国政に転じ、1993年に第79代内閣総理大臣となりました。
I:そうした「加藤清正→細川家」という歴史以前の肥後の国の歴史って、地元の人以外にはあまり知られていないかもしれませんね。
佐々家の子孫

I:佐々成政が弁明のために関西の尼崎で秀長(演・仲野太賀)と対面します。対面場所の法園寺は、兵庫県尼崎市にある寺院で、境内には、成政の墓所があります。
A:劇中では、成政が一揆を扇動したという設定でした。「惣無事など綺麗事にすぎぬ。新しき世など望んでおらぬ者が、この国には数えきれぬほどおるのだ。わしがやらずとも、いずれ誰かがしでかしたことよ」「わしはこの日の本中に、まだ戦は終わっておらぬと知らしめたのだ」「戦がのうなれば、功を立てる場ものうなる。国衆も、地侍も、名もなき牢人どもも……恩賞にありつけぬ者は、これからどう生きていけばよいのだ」といっていました。これらの台詞の通り、一揆に成政の関与があったという設定については、また物議を醸すことになるのかもしれません。それはともかく、同じような思いを抱いていた武将はいたかもしれないですけどね。
I:おそらく『豊臣兄弟!』の劇中では描かれることがないと思うのですが、豊臣家が滅亡する「大坂の陣」では、敗北した武将や浪人が大挙して大坂城に入城しました。彼らは、「豊臣か徳川か」よりも、恩賞にありついて「復権」したいという意識が強かったと思います。まさに、「平和な世」の妨げになるような存在でした。
A:大坂城に入城したのは、関ヶ原合戦で西軍についた長宗我部盛親、真田信繁、毛利勝永らが知られています。細川忠興の次男細川興秋などの名も記録されています。そのほか名もなき浪人武士らが多数入城して、制御するのも大変だったようです。
I:秀長が主人公の『豊臣兄弟!』では大坂の陣までは描かれないのですが、佐々成政の台詞に仮託したのかもしれないですね。
A:余談になりますが、佐々家の子孫に、あさま山荘事件の警備責任者で初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏がいます。警察庁昭和29年入庁です。2年後輩に初代内閣広報官を務めた宮脇磊介氏がいます。宮脇氏は2014年に亡くなっていますが、1990年代から「サイバークライシス」「サイバー戦争」について言及していました。
秀長の「小芝居」
I:さて、前週は秀吉による九州平定がほぼ解説のみという展開に終わったことが物議を醸しました。
A:私は、吉岡秀隆さんが千利休にキャスティングされたということで、秀長の有名な場面がどう描かれるのかとわくわくしていました。前週も触れましたが、九州平定のために秀吉らが九州に出陣する前年に、豊後(現在の大分県)を本拠とする大友宗麟が大坂城に出向いて、九州をすべて我が物にしようとする島津を討伐してほしいと「陳情」しました。このとき、大友宗麟に対して秀長が言ったとされる言葉です。「内々の儀は宗易(千利休)、公儀のことは宰相(秀長)存じ候」。
I:これがなぜ現代にまで伝わっているかというと、大友宗麟が国元の家臣に手紙で知らせたからです。おそらく、秀長が主人公のドラマで、利休も吉岡秀隆さんという大物が演じている中で、なぜこのエピソードが除外されたのか疑問に感じる視聴者もいたかと思います。
A:そのエピソードは必要ないという制作陣の判断なのでしょう。それはそれでしょうがありません。大河ドラマは「壮大なるエンターテインメント」なのですから。大友宗麟のエピソードは描かれないかわりに、今週は、エンタメ色の強い場面が描かれました。
I:秀長の「小芝居」ですね。秀長が大和郡山城で家康(演・松下洸平)や隆景(演・山本浩司)、輝元(演・濱 正悟)、利家(演・大東駿介)、宇喜多秀家(演・永嶋柊吾)をもてなした場面ですよね。
A:このうち実際に大和郡山城を訪ねたことがあるのは、毛利輝元と小早川隆景でしょうか。秀長が主人公の作品ですし、大和郡山市では、「大河ドラマ館」を設営しているわけですから、サービスカット的な魅力的な場面になりました。
I:こんな場面あったら楽しいよね、という場面になりましたね。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり







