選・文/鹿熊 勤
二元論の矛盾を正すもうひとつの世界観
『入門講義 アニミズム 動物も川も人間も平等という知恵』
奥野克巳著

アニミズムの語源はラテン語のアニマで、魂、生命の意味。人間以外の動植物や道具、現象も人のように意思を持ち、魂を宿すという世界観がアニミズムである。
アイヌは猟の獲物の熊を神と考えてきた。母熊は肉にするが、子熊は生け捕りにして大切に育てる。そしてイヨマンテ(熊送り)の日に弓で射て祭りを行ない、魂をもてなす。神でもある熊は満足して自然界へと帰っていく。熊は人と神々の世界を往還するというのがアイヌの考え方である。
人類学者の著者は、デカルト以降の西洋哲学と科学が、二元論による分別法であることをまず示す。正解と不正解。効率と非効率。有と無。あらゆる事象を二極化することで、人間は自らの生存が有利になる論理を発展させた。
だが今、大きな社会課題になっている格差や分断、環境破壊は、想像が及ばない存在は搾取や排除の対象にしてよいとする二元論の限界だ。そうした分別法が、私たちが拠って立つ資本主義の思想的土台であることも指摘する。
近年、こうした諸問題の解決策として注目されているのが、じつは未開性の象徴とされてきたアニミズムの考えなのだという。
現代日本の中のアニミズム
入門講座形式のためテーマは多岐にわたるが、日本にはアニミズム的世界観が脈々と生きているという話題が興味深い。たとえば子どもは動物やモノの名に〈ちゃん〉〈さん〉をつけて呼ぶ。〈ご飯〉〈お酒〉のような接頭語も、モノに敬意を払ってきた証だ。
アニメ『ポケットモンスター』に登場するキャラクターたちは、さながら現代版八百万の神だ。子どもたちを魅了するこの世界観は、現実と非現実を往還するアニミズムにほかならない。『アンパンマン』作者のやなせたかしは〈逆転しない正義〉を模索した結果、ひもじい人に身(パン)を差し出す、強くはないが優しいヒーローを生んだ。正義か悪かの二元論を超えたこの考えは、狩猟採集民の徹底した平等主義にも通じるという。
多くの人々が疑いを持たず信じてきた哲学や科学は、必ずしも人類普遍の解とはいえない。アニミズムとは、未来のための気づきを与えてくれる合わせ鏡なのだ。
日本のコンクリート施設はなぜ寿命が短いのか
『日本のインフラ危機』
岩城一郎著

1056円
下水管の陥没事故などインフラをめぐるトラブルが増えている。理論上、コンクリートには数千年の耐久性があるというが、日本ではわずか半世紀ほどで限界を迎える施設が多い。コンクリートは石灰石、砂、砂利、水で作られる。国内で賄える安価な資材で、圧縮方向の力にはめっぽう強い。
だが、地震が多い日本では張力も考慮する必要があり多くの鋼材を要する。この鉄が予測より錆びやすかったのだという。原因はポンプ車で流し込みやすくするため水を多く加える施工が一般化したこと。効率重視がコンクリートの寿命を縮めたと土木工学者の著者は言う。
時すでに遅しの感もあるが、橋梁などはこまめに塗装替えを行なえば延命できるそうだ。地域住民が歯磨きをするように地元の橋を大事に手入れしている例も興味深い。
茶碗1杯のごはんはいくら? 米の今後を考える
『いま知りたいお米と農家の話 農家と考える米価・流通・田んぼの未来』
農山漁村文化協会編

1870円
これほど消費者が米の価格に敏感になったのは、平成5年の全国的な冷害以来だ。騒動が沈静化した今も、5kgひと袋がいくらになったか(下がったか)は世間の大きな関心の的である。
では、茶碗1杯のごはんがそもそもいくらかを貴方はご存じだろうか。答えは55円(1kg850円の米の場合)。茶碗1杯分の炊飯の重さは150gで、生米の状態で65gだそうだ。この値段がはたして高いのか安いのか。
農家の生活に軸足を置く編者(出版社)はそのことを問うが、移り気な消費者を批判しているわけではない。米作りの流れや農家の収支、生き方と矜持、食料生産にとどまらない農業の役割までを解説したうえで改めて選択を問う。
※文中、敬称略。
『サライ』2026年5月号より












