
落語の東西問わず、男女の隔てなく飛ぶ鳥を落とす勢いの落語家、それが桂二葉さんである。2021年、NHK新人落語大賞を受賞。女性初、かつ審査員全員が満点をつけたという快挙で、二葉さんの名は一躍広まった。以来、チケットは即日完売の人気者。
真っ直ぐの前髪に襟足を刈り上げた艶々黒髪のマッシュルームスタイルに、仕立てのいい着物をまとう。色合わせも粋。シャンとした姿勢でとっておきの落語がはじまる予感を持たせてくれる。
「えー、桂二葉でお付き合いいただきますー」と、澄み切った声で挨拶がなされ、唯一無二のテンポ感で聴き手を一気に“二葉ワールド”に引き込んでいく。




この演目を聴きたい
上燗屋
酔っ払った人物が酒場で、「酒がぬるいから温め直せ」「熱過ぎるから冷やを足せ」とせがむ。上方落語の人気演目で桂枝雀(しじゃく)がよくかけた。燗の温度と酒肴の描写が具体的で愉快。
「豆、旨い。なかなか上手に炊けたある」
(シュッと投げて豆を口に入れる)
「うまいやろ?ワイこんないさしたら、西日本一や」
桂二葉——落語への思いを語る

高座の直前は緊張することもありますが、「えいやーー!」って出てます。お客さんの様子を見て「こういうふうに喋ったらいいやろな」とか、「今の言葉遣いは気ぃ悪く思はった人が4、5人はいてるやろうな」とか、わりと俯瞰して観察しながらやっています。
落語の登場人物では「アホ」な人、「子ども」「田舎者」「酔っ払い」がとくに好きです。演じるのではなく、その人物に入り込みたい。声の出し方、抑揚とか技術的な面はありますが、できるだけ自分の気持ちに嘘がないように喋っています。だから、納得できひんようなセリフが出てくると、言われへんなとなる。その場合は自分の言いやすい言葉に換えて喋ります。
反対に、たとえば『胴乱の幸助(どうらんのこうすけ)』という落語で、「お前なにしてんねん」「立ってんねん」「立ってんのんわかってんねん。立ってなにしてんねん」「立って立ってんねん」──これは名台詞やと思てて。立ってんねんは“今立っている自分”で現在形。立って立ってんねんは現在進行形。おかしな日本語やけど理屈はおおてる。嘘があるとお客さんは一気に引いていかはるから、自分で納得して喋りたい。
「もっともっと自由に。のびのびと喋れるようになりたい」
『粗忽長屋(そこつながや)』や『天狗さし』もありえない状況の噺ですが、ほんまの気持ちでやれるかどうか。説得力が大事なんです。たとえ矛盾があっても、理屈がついたらセリフは言える。それでお客さんを引きずりこまなあかん。これが面白い。勉強になります。

『しじみ売り』は貧しく悲しい噺で。お芋のヘタを食べて空腹を誤魔化す坊や……なんて辛すぎるやんか。なので、松竹新喜劇みたいな“泣いて笑って、笑って泣いて”にしようと、「お芋屋のおばちゃんも、たまには1本ぐらいくれたらよろしいのに」というのを思い付きました。
ギャグを入れるタイプの噺家じゃないんで真っ直ぐ落語をやりたい。いらんことせんでもいいやろとは、噺家になる前から思ってます。落語もなんでもシンプルなんが好き。全然伝わらへんと思うんですけど、小っちゃい頃から水道管が大好きで。真っ直ぐでムダがない、スキッとしてますやん。コーナン(ホームセンター)行ったら、ついつい水道管を見てしもて……。なんか、美しいよなぁって。

「令和の名人」推薦者(特集内の評論を担当)
佐藤友美さん(演芸専門誌『東京かわら版』編集人)
幼少期から伝統芸能に親しみ、『東京かわら版』編集部へ。寄席演芸の普及に尽力。4月に『東西寄席演芸名鑑3』を刊行予定。
杉江松恋さん(作家・文芸評論家・演芸プロデューサー)
推理小説の書評や小説執筆のかたわら、落語会や浪曲会を主宰。夢枕獏『陰陽師』を天中軒すみれさんのために脚本化。著書多数。
橘 蓮二さん(演芸写真家・演芸プロデューサー)
落語、講談、浪曲を中心に漫才、神楽など演芸全般の舞台や楽屋、ポートレートを撮り続ける。落語会のプロデュース、著書多数。
取材・文/山﨑真由子 撮影/橘 蓮二、三浦孝明
※『サライ』2026年4月号より












