文/浅見祥子

5/15~IMAX先行上映、5/22~2D(通常版)全国公開
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エルヴィス・プレスリーは好きですか? 好きな人は熱狂的、興味ない人にとっては、なぜそれほど!? と思ったり思わなかったり。けれど世代を問わず、時を超え、圧倒的な存在感を放ち続ける伝説のスター、それがエルヴィス・プレスリー。2022年に、そんな彼の伝記映画『エルヴィス』を手掛けたバズ・ラーマン監督が、制作過程で発掘された60時間に及ぶ未公開フィルムを元に新たな表現として再構築。いわゆるドキュメンタリーでも、伝記映画でもない。エルヴィスの知られざる人物像を浮かび上がらせ、彼のLIVEを体感する、‟エルヴィスまみれの97分”として完成させた。
まずは前半。幼少期からデビューしたての初々しさ、これからの勢いを身にまとい、歌って踊って世界を動かしていく青年時代に始まり、『G.I.ブルース』『ブルー・ハワイ』といくつかの主演映画の映像をコラージュし、テレビやラジオのインタビュー、記者会見からの肉声を絡め、その半生が綴られる。
目を惹かれたのは、若い頃のエルヴィス。例の太いもみあげも、こってりとぜい肉がついて突き出たお腹もなし。ちょっとだけ大谷翔平のような(→似てないか!)、どこまでも爽やかな青年がそこにいて、恥ずかしそうにうつむきながら、「この曲は今日、初めて歌うんだけど…」とか言ったりする。ところが歌い出すや彼がまとう空気は一変。その揺るぎない歌声で一気に聴く者の心をつかみ、歌の世界へと連れていく。その自信なさそうで繊細な少年みたいでキュンとさせる表情と、歌い手として自分の世界を構築する腕力と。そのギャップに、これはスゴイ! と目を見張った。
そこで当たり前の事に気づく。ぶっといもみあげに主張の強いサングラス、やたら高い襟の、でっかく輝くびょうとか長いフリンジのついたあれなんていうの、つなぎ? でキメたガタイのいい男。多くの人がエルヴィスと聞いてイメージするその姿は、いまだに世界中に存在するエルヴィスのモノマネとかそっくりさんのものだということ。それはちょうど、例の白いワンピースに真っ赤な口紅でセクシーなポーズを取るマリリン・モンローのそっくりさんがもたらすイメージが、本物のそれと勝手にすり替わっているのと同じ。それでビリー・ワイルダー監督の『七年目の浮気』や『お熱いのがお好き』で、本物のマリリン・モンローが想像以上に美人で無垢でキュートなことに驚かされるように、本物のエルヴィス・プレスリーは清潔感があって、ボーカリストとしての力は明らかに並外れている。その事実に面くらうのだった。

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見どころは、なんといってもLIVEシーン。この映画の場合、ただドキュメンタリー映像を復元したわけではない。1970年と1972年のラスヴェガス・コンサート及び全米ツアーでのパフォーマンスを中心に、ひとつの楽曲を複数の異なる演奏シーンを組み合わせて編集、口の動きにも細部までこだわって仕上げている。
ところが不思議なことに、そんな風に作り込んだ映像には思えない。いやひとつの曲を、年代や衣装もバラバラなエルヴィスが歌っていたりするので、切ったり貼ったりしていることは明らか。でもその歌声の揺るぎなさに心を持っていかれているので、そこはたいして気にならない。
それほどに、エルヴィスというボーカリストは圧倒的だ。「愛さずにはいられない」を始めとした今に至るまで引き継がれる名曲だけでなく、「明日に架ける橋」やビートルズの楽曲のカバーまで、観客はひたすらにエルヴィスの歌声と対峙する。精悍な顔付きの青年の姿、映画俳優時代、首回りにもったりとぜい肉がつき、ぶっといもみあげを誇る中年に至るまで、いろんな年代のエルヴィスを目撃しながら。
大きな画面から、シャワーのように注がれるエルヴィスの歌声。それを浴びるように味わううち、いやそれでもやっぱりセクシーさのようなものは時代によって価値観が変化するし、個人の好みによるよな…とも思った。今の時代でも「エルヴィスってセクシー」と思う人はいるだろうし、「やっぱり受け付けない」という人もいるだろう。でも癖のない好青年な顔立ち、年齢を重ねてからの、髪型を含めてあまりに独特なファッションセンス、そして当時は最先端だっただろうが、今観ると、その動きはどうなのだろう? と思ってしまうドタバタとしたパフォーマンス。そこに本気でいい! と思える数々の名曲と、それを歌う彼の歌唱力。そのすべてで、それら全部を含めたら、「あそこが好みじゃない」なんて思いは吹き飛び、なんだかエルヴィスってスゴイ! こんなスターは他にいない! ときっと心から思うはず。そんな、驚きの97分。
エルヴィス・プレスリーは生前、アメリカとカナダ以外でステージに立つことはなかった。だからこの映画は、彼の初めての‟ワールド・ツアー”。1977年に42歳で亡くなった彼のLIVEに参加し、その最前列でエルヴィスという不世出のスターを目撃し、彼が生み出した音楽と対峙する。映画だからこそ可能なミラクルを実現させている。

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【映画深堀りネタ帳】
サブスク時代、『EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート』をより深く味わうための映画ネタを紹介。
『リターン・オブ・ザ・キング:エルヴィス・プレスリー低迷と復活』(2024年)
プレスリーが完全復活を遂げたTV番組「1968年カムバック・スペシャル」に焦点を当て、そこに至る彼の半生とミュージシャンとしての紆余曲折を、当時の映像と証言者によるコメントで綴る。バズ・ラーマン監督も登場。プリシラ・プレスリーによるプロポーズ裏話も明かされ、『EPiC/エピック エルヴィス・プレスリー・イン・コンサート』と合わせて観ると、彼の人生が立体的に浮かび上がる。
文/浅見祥子(映画ライター)
雑誌「BE-PAL」(小学館)、「田舎暮らしの本」(宝島社)、web「大人のおしゃれ手帖」(宝島社)、「シネマトゥデイ」などで映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。また「芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら」などの書籍ほか、赤楚衛二「A」、菅田将暉「着服史」、小関裕太「Y」、藤原大祐「FeaT.」、菅井友香「たびすがい」(すべてワニブックス)などでインタビューを担当。











