葛飾北斎の師匠、勝川春章の生涯｜蔦重が作った『青楼美人合姿鏡』を北尾重政と共に描いた当代一の役者絵師【日本史人物伝】

役者絵の革新者として

春章が最も注目を集めたのは、役者絵や相撲絵の分野です。当時の役者絵は鳥居派が独占しており、類型化されたポーズや構図が主流でした。しかし、春章はより写実的な表現を取り入れ、役者たちの顔や仕草を忠実に描くことで、より生き生きとした作品を生み出しました。

これにより、役者絵は単なる宣伝用の図版ではなく、芸術作品としての価値を持つようになったのです。

また、春章の役者絵は、細かな衣装の模様や背景の演出にもこだわり、観る者に舞台の臨場感を伝える工夫がなされています。春章のこうした革新は、のちの勝川派の画風にも大きな影響を与えました。

美人画と肉筆画の名手

春章は、役者絵だけでなく美人画の分野でも高く評価されました。彼の美人画は、宮川派の流れを汲みつつも、より気品があり、柔らかい線で描かれた作品が特徴です。代表作には北尾重政 （しげまさ） と合筆の『青楼美人合姿鏡 （せいろうびじんあわせすがたかがみ） 』などがあります。

肉筆画には『雪月花』や『竹林七妍（しちけん）』などがあり、いずれも優雅で繊細な女性の姿を表現しています。

晩年になると、春章は肉筆画に力を入れるようになり、美人画の名作を数多く残しました。特に『婦女風俗十二ヶ月』は、当時の女性たちの暮らしや装いを詳細に描いた作品として知られています。

葛飾北斎を育てた師

春章の門下には、多くの優れた浮世絵師が育ちました。その中でも、最も有名な弟子が葛飾北斎です。北斎は、春章のもとで浮世絵の基礎を学び、後に独自の画風を確立しました。

北斎が生涯にわたって変化を続けた画風の原点には、春章の影響があったと考えられます。

晩年と死去

晩年の春章は、肉筆画を中心に活動しながら、多くの弟子を指導。しかし、寛政4年（1792）に67歳でこの世を去りました。彼の死後も、勝川派は多くの優れた浮世絵師を輩出し、その影響は長く続いたのです。

まとめ

勝川春章は、江戸時代中期の浮世絵界において重要な役割を果たした絵師でした。彼は、役者絵の世界に新風を吹き込み、写実的な表現を確立することで、浮世絵の発展に大きく貢献しました。また、美人画の分野でも優れた作品を残し、多くの後継者を育てるなど、その功績は計り知れません。

春章の作品は現在でも高く評価され、美術館などで展示されることも多く、浮世絵の歴史を知る上で欠かせない存在となっています。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文／菅原喜子（京都メディアライン）
肖像画／もぱ（京都メディアライン）
HP：http://kyotomedialine.com　FB

引用・参考図書／
『日本大百科全書』（小学館）
『世界大百科事典』（平凡社）
『国史大辞典』（吉川弘文館）
『新版 歌舞伎事典』(平凡社)