日本一短い名字と日本一長い名字は?
名字を扱うインターネットのサイトや名字事典などには、「十二月三十一日」と書いて「ひづめ」と読む名字のように、文字数が多かったり変わった読み方をしたりする名字が掲載されていることがある。しかし、残念ながらこうした名字の実在を調査して明らかにした人はおらず、かなり疑わしい。
日本の戸籍に記載されている、つまり実在が証明されている中で最長の名字は、漢字5文字の「勘解由小路(かでのこうじ)」と「左衛門三郎(さえもんさぶろう)」の二つ。勘解由小路は藤原氏日野流烏丸(からすま)家の分家で、烏丸光広(みつひろ)の次男・資忠(すけただ)が名乗り始めた名字である。公家の名字のため、京都にある勘解由小路という地名に由来する。一方、左衛門三郎は埼玉県に実在する名字で、朝廷の左衛門府という役所に勤めた三郎という人物の子孫が名乗ったものと考えられる。ただし、表記ではどちらも5文字だが、読みでは左衛門三郎のほうが8文字で最長となる。
反対に、最も短い名字は漢字も読みも一文字のものになる。例えば、平安時代に『土佐日記』を記した紀貫之は、名字と名前を続けて読むと「きのつらゆき」となるが、名字単独なら「き」である。ほかにも、実在する漢字一文字かつ一文字読みの名字には「井(い)」「喜(き)」「鵜(う)」「尾(お)」「何(か)」「苦(か)」「瀬(せ)」「那(な)」「野(の)」「場(ば)」「帆(ほ)」「湯(ゆ)」などが挙げられる。
50音順で最初にくる名字と最後になる名字は?
実在する名字をあいうえお順に並べた場合、「あい」と読む名字が最初にくる名字となる。「阿井」「藍」「相」「愛」「安威」など書き方はいくつかあるが、最も人口が多いのが、静岡県、茨城県、岡山県、大阪府、千葉県などに分布している「阿井」だろう。著名人では、元プロ野球選手で現在は野球解説者や札幌国際大学の教授として活躍している阿井英二郎(えいじろう)がいる。
では、逆に最後になる名字はなんだろうか。広島県や千葉県には「和知」「和智」「和地」と書いて「わち」と読む名字が実在するし、福井県福井市には「鰐淵(わにぶち)」、愛知県知多市には「鰐部(わにべ)」という名字が集中している。さらに徳島県から瀬戸内海にかけての地域に見られる「割石(わりいし)」や、北関東から長野県にかけて集中している「割田(わりた)」という名字もあるが、日本人の名字には「ん」で始まるものがないため、最有力候補は「わん」で始まる名字になるだろう。大阪府藤井寺市には「椀田(わんだ)」、岩手県洋野町(ひろのちょう)にも「椀平(わんだいら)」という名字があるが、千葉県の内房地区にある「分目(わんめ)」が、おそらく最後になる名字だ。
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ルーツがわかる家紋と名字
監修/高澤等(家紋)、森岡浩(名字)
宝島社 880円
高澤等(たかさわ・ひとし)
1959年、埼玉県生まれ。日本家紋研究会会長、家系研究協議会理事。
学生時代より実父である日本家紋研究会前会長・千鹿野茂とともに家紋収集を始め、『都道府県別 姓氏家紋大事典』(柏書房)などの編纂に携わる。著書に『家紋大事典』『苗字から引く家紋の事典』(ともに東京堂出版)、『戦国武将 敗者の子孫たち』(洋泉社)など。
森岡浩(もりおか・ひろし)
1961年、高知県生まれ。姓氏研究家。
早稲田大学政治経済学部卒業。学生時代から独学で姓氏研究を行い、文献だけにとらわれない実証的な研究を続ける。特に現在の名字分布をルーツ解明の一手がかりとする。著書に『なんでもわかる日本人の名字』(朝日新聞出版)、『名字でわかる日本人の履歴書』(講談社)など。