平安時代中期を代表する歌人・和泉式部の百人一首「あらざらむ〜」の意味や背景とは？｜和泉式部の有名な和歌を解説【百人一首入門】

和泉式部が詠んだ有名な和歌は？

多くの名歌を生み出した和泉式部。そのなかでも有名な和歌を４首抜粋してみました。

1：暗きより　暗き道にぞ　入りぬべき　遥かに照らせ　山の端の月

「私は暗い道からさらに暗い道へと入り込んでいます。どうか遥か遠くまで私を照らしてほしい、山の端にかかる月よ」

紫式部や清少納言に先んじて『拾遺和歌集』に選ばれ、かの鴨長明が『無名抄』の中で、和泉式部の名歌として言及している有名な和歌。詞書には、「性空上人のもとに、よみてつかはしける」とあり、「煩悩の闇から闇へと迷う私を、どうぞ導いてほしい」という、切実な思いが伺える一首です。

２：黒髪の　乱れも知らず　うち臥せば　まづかきやりし　人ぞ恋しき

「黒髪の乱れるのも構わず横たわっていると、この髪を手でかき上げた人が恋しく思われる」

官能的な和泉式部らしい一首です。「かきやりし」は「かき上げた」、という過去形です。「まづ」が、「あの夜に真っ先に私の髪をかき上げた人」なのか、「私の髪を最初にかき上げた」いわゆる初恋の人なのか、意見が分かれるところ。考察してみるのも楽しいですね。

３：こえもせむ　こさずもあらむ　逢坂の　関もりならぬ　人なとがめそ

「男女の逢瀬の関を越える者もあれば、越えない者もある。関守でもないのに、とがめ立てしないでください」

『和泉式部日記』には、藤原道長とのエピソードが記されています。道長が和泉式部の扇に「浮かれ女（め）の扇」といたずら書きをしたといいます。そのときに、道長に向けて詠んだ和歌がこちら。道長をギャフンと言わせた、和泉式部の才覚が光る一首です。

４：物思へば　沢の蛍も　わが身より　あくがれ出づる　魂（たま）かとぞ見る

「物思いをしていると、水辺に飛び交う蛍の光も、私の身体からさまよい出た魂ではないかと見えたものです」

『後拾遺和歌集』の詞書に、「男にわすられて侍けるころ貴布祢にまいりて、みたらし河に蛍のとひ侍けるをみてよめる」とあります。夫・藤原保昌に忘れられつつあると感じた和泉式部が夫の愛を取り戻すため、貴船神社に参拝したときに詠んだ和歌。当時、深く思い悩むと魂が身体を抜け出すと考えられていました。それほどに、切ない思いを和泉式部は抱えていたのです。

和泉式部、ゆかりの地

京都にある代表的なゆかりの地を紹介します。

１：誠心院

通称「和泉式部寺」。上東門院彰子が父・藤原道長に勧め、和泉式部を住職として創建したことに由来します。境内には和泉式部の墓と伝える宝篋印塔（ほうきょういんとう）や、「霞たつ　春きにけりと　この花を　見るにぞ鳥の　声も待たるる」の歌碑が立っています。

２：貴船神社

貴船神社の「結社」は、和泉式部が夫の愛を取りもどすために参拝したお社で、「もの思へば〜」の歌碑が立っています。また、当時は「奥宮」が本社で、そこを流れる谷川は、和泉式部が口をすすぎ身を清めたといわれるところから「思ひ川」と呼ばれています。

最後に

『拾遺和歌集』以下、勅撰和歌集に240首以上が採られ女流歌人最多、『後拾遺和歌集』では最多入集歌人である和泉式部。

紫式部も、和泉式部の文才を認める一文を残しています。恋に歌に存在感を発揮する和泉式部の和歌を、じっくり味わいたくなりますね。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

引用・参考図書／
『全文全訳古語辞典』（小学館）
『デジタル大辞泉』（小学館）
嵯峨嵐山文華館

文／深井元惠（京都メディアライン）
HP： https://kyotomedialine.com　FB
校正／吉田悦子
アイキャッチ画像／『百人一首かるた』（提供：嵯峨嵐山文華館）

●協力／嵯峨嵐山文華館

百人一首が生まれた小倉山を背にし、古来景勝地であった嵯峨嵐山に立地するミュージアム。百人一首の歴史を学べる常設展と、年に4回、日本画を中心にした企画展を開催しています。120畳の広々とした畳ギャラリーから眺める、大堰川に臨む景色はまさに日本画の世界のようです。
HP：https://www.samac.jp