
秋は肌の乾燥に悩む方が増える季節です。お風呂上がりにふと見た脛(すね)が、粉をふいたように乾燥している。なんとなく背中にもかゆみを感じるので、あちこち掻いてしまう。
そんな心当たりのある方は、多いのではないでしょうか?
本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中国伝統医学の知恵から体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。
今回は、カサカサした肌に潤いをもたらすために、どんな対策があるのか、中医学の視点からご紹介します。相談の様子をちょっと、覗いてみましょう。
【今日のお悩みカード】
相談者:54歳 男性(地域の自治会長)
主な症状:肌のカサカサ、かゆみ。

肌のかゆみが気になる季節
相談室の椅子に腰かけた男性が、肘のあたりをさすりながら、切り出しました。
「志村先生、最近、体のあちこちが、かゆくてしかたない。粉がふいているような、カサカサの肌になってきて。特に、お風呂上がりの脛のあたり。気になりだすと、首から肩にかけてムズムズしてきて、背中全体を掻いてしまうまで、おさまらない」
男性の悩みを聞いた志村先生は、尋ねます。
「その感じは、涼しくなってからですか?」
「ああ、そうです。夏はそんなことなかった」
こちらの男性には、暑さの盛りに夏バテ対策の処方をしたことを思い出し、志村先生は続けます。
「夏祭りの準備で、炎天下のお仕事だっておっしゃっていましたね」
「そうそう。地域の草刈りもありました。秋は運動会もあったし、これから防災訓練もやるから、地域のお年寄りと話す機会が増えますよ。
そういえば、『孫の手』ってありますよね。背中を掻くための棒。最近、あれが欲しくなってきました。こうやって、あちこちかゆみが出るのは、やっぱり年のせいなのか。若い頃は『孫の手』なんて必要なかったのに…」

「もしかして、喉も渇きませんか? じつは、この時期、肌のかゆみで相談に来られる方が、増えています」
男性はポケットからミントのタブレットを取り出して、苦笑いを浮かべました。
「よくおわかりですね。喉もカラカラ。だからこれが手放せなくて。映画館に入るときには、持っていないと不安でね。途中で咳が出始めたらどうしようと、落ち着かなくて。会議中とか、静かな場所で咳き込んだりしたら、周囲に迷惑でしょう?」

志村先生は、頷きながら、明るい声で答えました。
「それはお辛いですね。皮膚と喉の症状は、どちらも体の防護力の低下と関係していそうです。まずはそのあたりから、お話ししましょうか」
秋の風に、肌が負ける?
「皮膚や喉、鼻の粘膜は、外の刺激から体を守る、いわば体の境界線です。中医学では、この体の表面を守る働きに『衛気(えき)』が関わっていると考えます。簡単にいえば、体の外側を守っている見えない防護壁のようなものですね。
これは、外から冷たい風が入ってこないようにしたり、外からの刺激に対して体を守ったり。そういう働きを担っています」
「その防護壁が弱ってしまっている…と?」
「はい。衛気の力が弱まると、外からの刺激に敏感になりやすくなります。秋は空気が乾いて、風も冷たくなってきますよね。夏の暑さで消耗したあとに、そうした環境の変化が重なると、肌や喉がその影響を受けやすくなるんです」
「なるほど。だから夏は何ともなかったのに、秋になったら急にかゆくなったのか」
「そう考えられます。もともと衛気が弱りやすい体質の方は、秋の乾いた風がきっかけになって、肌のカサつきやかゆみとして表に出てくることがあります」
潤いを足せばいいだけではない?
男性は言います。
「肌が乾燥しているなら、やっぱり水分不足なんじゃないですか?」
「もちろん、体の潤いも関係します。ただ、そこだけを見るのは少しもったいないんです」
志村先生はそう言って、男性の腕を指さしました。
「例えば、同じ乾いた風に当たっても、すぐに肌が荒れる人と、そうでもない人がいますよね。その違いのひとつが、外からの刺激を受け止める守る力です。潤いを保つことも大切ですが、でも、その前に、潤いを守ることができる体であることも大切なんです」
年齢の影響も
「じゃあ、潤いを守ることができる体であるには、どうしたらいいですか?」
「ここには年齢も関係します。中医学では、年齢を重ねるにつれて『腎』に蓄えられている力が少しずつ衰えていくと考えます。腎とは、西洋医学の腎臓とまったく同じものではありません。中医学の『腎』には、成長や老化、体に必要な潤いを保つ働きなども含まれています」
「年齢とともに腎が減ると、肌の乾燥に影響があるんですか?」
「そうですね。特に『腎陰(じんいん)』が不足してくると、体を潤す力が弱くなり、肌や喉、髪などに乾燥が表れやすくなります」
「じゃあ、やっぱり年のせいか……」
「年齢は誰しも重ねるものです。年齢によって変化する部分を知って、今の体に合わせて整えていくことが、大事ですよ」
今日からできる養生
「50代からは、頑張って鍛えるというより、消耗させないことも立派な養生なんです」
そう言って、志村先生は体に潤いをもたらす具体的なポイントを教えてくれました。
激しい運動を避け、しっかり休む
「秋に肌や喉の調子を崩しやすい方は、夏の疲れを引きずったまま頑張りすぎないことも大切です。特に、汗をたくさんかくような激しい運動を続けるより、散歩や、ウオーキングなど、無理なくできる運動をおすすめします」
「激しい運動で、タフに動ける体を目指すわけじゃない、と」
「ええ。50代からは、今の自分の体力に合った運動を心地よく続けるほうがいいと思います。
そして何より、十分な睡眠を取ることが大事です。体がきちんと休まることで、本来持っている防護力を立て直しやすくなります」
志村先生は、日々の食生活で気をつけるポイントについても話しました。
胃腸をいたわる
「体に潤いが足りないなら、『水を飲もう』そう考えてたくさん飲むと、胃がチャプチャプしたり、むくみが出てしまうことがあります。胃腸がうまく水を巡らせていないサインです。
中医学の五臓では、胃腸の働きを含めた機能を『脾(ひ)』と呼びます。『脾』は水を取り込み、『肺』が全身へ配り、そして『腎』が必要なものは再利用して、不要なものは尿で出す。こうして、全身へと巡らす働きをしています。

だから、胃腸の調子を整えて、取り込む力を取り戻してあげることが、最初の一歩になります。
暴飲暴食はもちろんのこと、冷たいもの、脂っこいもの、そして水の摂り過ぎも負担になるので、気をつけてください」
体質に合わせた漢方薬の活用
志村先生は、男性の顔を見ながらこう付け加えました。
「そして『脾・肺・腎』の力は、生活習慣を整えることが基本です。その上で、足りないところは、漢方薬で補うこともできますよ」
「漢方薬って、効き目が出るまでに時間がかかるイメージがあって…。保湿クリームを塗るほうが、手っ取り早い気がするけど」
男性の問いに、志村先生は頷きます。
「クリームで、肌の表面に潤いを足すことも有効です。ただ、中医学では『なぜ乾燥してしまうのか?』という根本の原因に目を向けます。内側からもサポートして、肌が丈夫になり、体の巡りも整うことを目指していきます。
うまくいけば、かゆみだけでなく、風邪をひきにくくなったり、鼻がムズムズして気になる症状にも、いい変化を感じる方がいらっしゃいます」
「へえ。たしかに、表面だけの対応とは違いますね」
「はい。漢方薬は、体質や暮らしの習慣をお聞きしながら、ぴったりの処方を組み立てていきます。定期的にメンテナンスをする場所として、ぜひ私たちのような相談の場を活用していただければと思っています」
男性は「体質や生活も含めてですか… なるほどなぁ」と感心したように深く頷きました。
「今日は、皮膚や粘膜の防護力を底上げする働きがあるものを中心に、処方をご用意しましょう」
世代は変わっても
「こうした養生や漢方薬の服用で、肌が丈夫になってくると、ちょっとした傷でも治りが早くなるので、実感される方も多いですよ。肌トラブルが起きる回数も、少しずつ減ってくると思います」
「健康のためにも良さそうだから、少し集中して取り組んでみます」
男性は渡された処方を手に取り、ふと、手もとのタブレット菓子に目を落とすと、どこか懐かしそうな表情で話し始めました。
「…昔、祖父によく背中を掻いてくれと頼まれたのを思い出しました。祖父も町内会の仕事に熱心だったから、消耗したせいで、かゆみが出たんですかね。今の自分と同じです。最近になって気がつきましたよ。そういえば昔、近所のお年寄りがいつも飴を持っていたのも、口の渇きを気にしていたからなのかなぁ」
ふっと目を細めた男性に、志村先生は微笑みました。
「ええ。時代が変わっても、年を重ねたことからくる体の変化は共通ですね」
おわりに
男性の晴れやかな顔を見送りながら、志村先生は微笑みます。
「50代になると、体の違和感を『年のせい』として、諦めてしまいがちです。でも、体がもともと持っている力を、日々の養生で引き出してあげれば、体は案外、応えてくれるものですよ」
まずは、できることから試しながら、体の防護力を高めていく。それが、不調が出る前に体を整えておく対策になります。
※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。
中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。
身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。
●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
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●構成・文/もぱ(京都メディアライン)
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