一見して、ドレススタイルの落ち着いたデザインですが、じつは職人技が生きています。果たして「どこが職人の手仕事によるものなのか?」と、疑念を持たれたかもしれません。しかし、それぐらいが丁度いいのです。いかにもハンドメイドな趣となれば、実用アイテムとしてうっとおしいはず。ごく汎用的なデザインに見えて、改めてよく見ると、一流の手仕事が施されていると分かる……。それが工業製品と職人技がバランスよく融合した、現代の家宝時計です。
本作はステンレススチールを徹底して磨き込んだ、柔らかなフォルムが特徴です。たとえステンレススチールであっても、徹底的に磨き込むと、こんなにも美しい質感を生み出すことができる……まるでスイス3大ブランドの文脈です。この美しさを100万円代で実現している点が、特筆に値します。
いま一度、画像をご覧ください。ブレスレットを留めるラグからリュウズへとつながる右ケースサイドを大胆にえぐり、光の反射を利用した艶やかさを生み出しています。時計を横から見てみると、ケース上面、横面、下面にそれぞれ異なる曲面を持ち、各面を隔てる稜線も磨き込んでいます。その煌めきは、まるでホワイトゴールドのよう。
この3次元曲面の磨き込みは、手仕事でしか作り出せません。曲面が複雑かつアールが強く、機械で磨く工程が事実上組めないのです。熟練の職人が、手先の感覚で寸分違わずにデザインを作り上げていきます。
ケース同様に、ブレスレットの美しさも見逃せません。7連の小ゴマは、腕に沿わせたときに吸い付くような感覚を覚えます。腕と接するブレスレット内側も滑らかな曲面としていて、装着感の向上を図っています。
そして、ダイヤルは格調高い磁器製。磁器にガラスの釉薬を塗り、高温焼成によって作られています。インデックスおよびロゴは、転写による上絵付けによるものです。
ムーブメントの地板に装飾された、波模様も出色の出来です。湧水がたおやかに流れるせせらぎを表現していて、スプリングドライブの連続して針が進んでいく流れるような様と呼応するようです。香箱にはぜんまい2つが収められ、72時間のパワーリザーブを生み出し、実用性能の面からも申し分ありません。
このように、各所に注目すべきポイントが存在する新作「クオン」。ですが、もっとも強調したいのは、このモデルが日常使いに優れていることです。ゴールド製と異なり、気後れせずに日々、身に着けることができるのがステンレススチール時計の最大の魅力。ゴールド時計のように、ずっしりとした重みもありません。そのうえで、この素材のポテンシャルを最大限に引き出すべく徹底的に磨き上げています。工業技術と職人技の両面からアプローチして、その美しさを現実化させているのです。
ですから戸棚にしまい込むことなく、毎日身に着けて使うのが正解です。そしていつの日か、その時が来たら、次の代に譲り伝える家宝となるのです。
「クレドール」は、2019年、グランドセイコーに続いてセイコーブランドからの独立を果たし、ラグジュアリーウオッチブランドとしての一歩を踏み出しました。世界に誇れる日本のラグジュアリーブランドとしての成長も期待されています。
取材・文/土田貴史
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