サライ世代の腕時計選びは、自分だけの嗜好に留まらず。息子や孫に“いいもの”を受け渡す、一世一代の決断だ。言わば自分の審美眼を後世に残すことになるのだから、納得して選びたい。
緊張感が漲る手技のダイアル。日本伝統工芸が息づく佇まい
実用製品でありながら、芸術・工芸的価値を併せ持つ高級機械式時計が注目されている。熟練職人が紡ぎ出す精緻な造形は、いつの時代でも唯一無二。その価値は、後世においても下がることがないからだ。
そもそも機械式時計とは、親から子へと何世代にもわたって使い続けることを前提としたアイテムである。それは近世ヨーロッパにおいて貴族階級が懐中時計を家宝とするべく、名を馳せた時計師を呼び寄せ、作らせた時代と変わらない。中身の機械は、しかるべきメンテナンスを加えていくことで、半永久的に使い続けることができる。懐中時計から腕時計へとアイテムは代わっても、高級機械式時計の存在意義は揺らぐことはない。
ゆえに時代に左右されない、研ぎ澄まされた伝統意匠が珍重される。加えて、工業製造技術では到達できない、職人による手技が介在することで“いま”という時代の息吹が吹き込まれるのだ。そうした一点物との出会いは、一期一会というのが世の常である。
記念を祝した、数量限定モデル
セイコーが自ら設計製造を手掛けた腕時計が誕生したのは、今から110 年前のこと。輸入時計の修繕と販売から始まり、やがて自社開発の掛時計や懐中時計の製造販売を経て、1913 年に我が国初の国産腕時計を生み出すに至ったのである。
そして世界に通用する国産最高級の腕時計を目指し、1960年に「グランドセイコー」が誕生。今回の記念限定モデルは、この初代グランドセイコーの金字塔デザインを踏襲している。
ダイアルは、中央がゆるやかに盛り上がったボンベ形状をしており、稀少な純国産の漆を塗り重ねた、深みのある表情をまとっている。国産の漆は乾きが早く扱いも困難だが、耐久性や耐光性に優れている。
12か所のインデックスとブランドロゴは、金沢の漆芸家・田村一舟氏によって繊細で力強く描かれた高蒔絵だ。
高蒔絵とは、漆の液体張力で模様を隆起させ、その上から金粉を振り蒔き、意図した立体造形で金粉を定着させる日本の高度な伝統技法である。金粉を蒔いた一瞬が閉じ込められ、端正なテクスチャーとともに、造形を生き生きと盛り上げている。曲面に対する絵付けは熟練の技と非常に高い集中力を必要とするが、田村氏の手技により荘厳かつ精緻な表情に仕上がった。一点ずつ圧倒的な緊張感のなかで生み出されるダイアルは、何度見ても見飽きず、芸術作品のように、見るたびに新たな発見をもたらすだろう。
一方で、時計ケースに独自のチタン素材を採用しているのが素晴らしい。そもそもチタン素材は、ステンレススチールに比べて軽量で、腕に着けたときの負担が少なく、金属アレルギーも起こしにくい。したがって使い勝手が断然に優れるのだ。
今回の限定モデルが採用する「ブリリアントハードチタン」は、通常のチタン素材と同様の軽さを持ちながら、チタン特有のくすみがなく、硬度を更に増した先進素材。熟練の研磨師が磨き上げることで、高い堅牢性と審美性を実現している。
おかげで、軽やかな装着感と伝統的な表情を高次で両立させる稀有なモデルとなった。しかもケース径38mmの小さめなサイズが小気味良いのである。昨今、腕時計のトレンドは、デカ厚から薄型小径へと回帰している。実際に小さいほうが、腕に対する収まりがよく、これ見よがしにならずに、品良く見えるからだろう。
さらに、この限定モデルのストラップはグランドセイコー初となる鎧織ストラップとなっている。戦国武士の鎧兜と同じく、細かく裁断した牛革を糸と平織にすることで、革同士で織るよりも強度をさらに高めている。革表面が黒粒のように光を反射して輝きを帯びており、日本の伝統を再現したストラップは、やはり我々のアイデンティティに語りかけてくるものがある。
搭載するムーブメントは、グランドセイコー専用機だ。機械式腕時計の頂点の域に達した精度の高さは、スイス勢に引けを取らず、パーツひとつひとつを磨き上げた丁寧な仕上げも好感が持てる。その美しさは、ケースバックから常に確認できる仕様となっている。
ああ、こんな腕時計を自分の息子に残せたら、どれほど誇らしいだろう。自ら使う喜び、そして次の世代へと繫ぐ喜び。サライ世代の人生における重要な局面で、心から納得できる腕時計とは、こういう時計なのである。
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取材・文/土田貴史 撮影/シバサキ フミト