デビュー50周年を迎えたシンガーソングライターのさだまさしさん。伝説のフォーク・デュオ「グレープ」の47年ぶりの再結成も大きな話題を集めています。50周年を記念して発売された「うらさだ」(小学館文庫)(https://www.shogakukan.co.jp/books/09407272)では、笑福亭鶴瓶さん、立川談春さん、高見沢俊彦さん、カズレーザーさん、堀江貴文さんらが抱腹絶倒の「さだ論」を展開していますが、文庫版に新たに寄稿したのがグレープの相棒、吉田政美さんです。再結成を巡る悲喜こもごもについて、同書の一部から紹介します。

文・吉田政美

再結成が話題のグレープの吉田政美さん(左)とさだまさしさん。

「プロ野球選手」と「草野球選手」の活動に逡巡

50周年イヤーにおけるグレープの再結成の話については、「諸説」あります。以前、都内のホテルでさだと食事をする機会がありました。さだには「この時、吉田が言い出した」ということでネタにされているんですが、どうやらここで、50周年におけるグレープの再結成が決まったようです。

ただしお互い酔っていたので、真相はよく覚えていない(笑)。

それで、2022年の11月3日、グレープ結成50周年となるこの日に、かつて解散ライブを行なった「神田共立講堂」(東京)での一夜限りの復活コンサートを開催したんです。

解散後も、何かの折に呼ばれて一緒に演奏したことはあったんですが、あくまでレコーディングやコンサートの「ゲスト」としての参加でした。

解散から15周年目の1991年に、新鮮なグレープ( 葡萄(ぶどう))が、15年でレーズン(干し葡萄)になったという言葉遊びで、一緒に「レーズン」の名でアルバム(『あの頃について〜シーズン・オブ・レーズン〜』)を出しましたが、これはいっときの洒落。グレープ結成50周年という節目の復活は、重みが違いました。

さだが、現役バリバリのプロ野球選手だとすると、こっちは「野球経験あり」というだけの草野球選手。特に、解散後もギターを弾き続けてきたわけではありません。そんな自分が期間限定とはいえ、「グレープ」としてお客さんの前に立っていいものか。私なりの逡巡がありました。

50年も寝かせれば「いい味」が熟成

結成当時のグレープ。ギターを持つのが吉田政美さん。

一方で、50年以上もさだが音楽活動を続けていることに対しての敬意もあります。同世代では森山良子さん(67年デビュー)や財津和夫さんのチューリップ(72年メジャーデビュー)、山下達郎さん(73年シュガー・ベイブを結成)、小田和正さん(70年にオフコースでデビュー)らがまだまだ現役で頑張っています。60年以上も歌手活動を続けた加山雄三さん(61年デビュー)のようなレジェンドもいます。

ここまで長く、一線で活躍できるのはほんの一握りです。さだの頑張りに少しでも報いたいという気持ちもありました。どんなワインだって—グレープも、50年も寝かせれば、まろやかないい味が熟成されることでしょうから。

11月の復活コンサートは、「GRAPE50年坂 一夜限りのグレープ復活コンサート」と銘打たれました。1曲目は、われわれを象徴する曲『精霊流し』です。

さだの『精霊流し』を聴いている方にとっては、前奏はさだのヴァイオリンというイメージが強いと思いますが、グレープのバージョンは、私のギターから入ります。

この時、「トレモロ」という技法を使うのですが、簡単にいうと、小刻みに弦を連打する弾き方。高速で指を動かす必要があり、ブランクが長い人にとっては失敗する可能性が高い奏法です。久しぶりに大観衆の前で演奏するだけでも大変な緊張だというのに、1曲目のド頭が私のギターからだったんです。

「一夜はまだ終わっていない」という声

コンサートが決まってから、必死で練習しましたが、眠れぬ日々が続きました。当日のことは今もほとんど思い出せません。記憶が飛んでしまうほど緊張していたんだと思います。

コンサートが終わってから、スタッフに当日の映像を借りて、改めて確認したのですが、自分の拙い演奏以上に驚いたことがひとつありました。

さだは、私がトレモロを弾いている時、本当に嬉しそうに私のほうを見つめていたんです。温かく見守る菩薩のような……。さだのあんな表情は今まで見たことがありません。その笑顔を見られただけでも、大変な思いをしたけど、やってよかったと思いました。

それで、「一夜限りのグレープ復活コンサート」は、会場の都合もあり、15時に開演し、夜になる前に終わりました。すると、大盛況だったためか、どこからか「一夜はまだ終わっていない」という声が聞こえ始めました。

たしかに、夜にならないうちにコンサートは終演しましたから、その屁理屈も理解できないわけではありません(笑)。こうして、今に至るまで、あれよあれよとグレープの「再始動」が続いているわけです。

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吉田政美(よしだ・まさみ)
1952年新潟生まれ。さだまさしとフォークデュオ・グレープを結成し、1973年デビュー。解散後もメモリアルな場面で再結成。

 

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