南方熊楠(1867-1941)は、博物学、生物学、民俗学など、広範な分野の研究で知られる学者。20代半ばでイギリスに渡り、総合科学雑誌『ネイチャー』に寄稿するなど、優れた研究成果を発表し「歩く百科事典」と称されるが、その一方で奇行の多い人物でもあった。
南方の研究で特に有名なものは、菌類の研究である。地元の熊野(和歌山県)の山中などを歩きまわって採集を続け、キノコの彩色図を大量に作成している。
キノコに造詣が深かった南方は、当時では珍しかったマッシュルームの缶詰を入手し、料理法のメモを添えて友人に贈っている。その料理は、アジあるいはイワシのつみれ汁にマッシュルームを入れたもので、熊楠は、「滋養強壮にいい」と友人に勧めている。
良質のたんぱく質を多く含むアジやイワシとビタミンと食物繊維が豊富なマッシュルームの取り合わせは、たしかに滋養に効果があったことだろう。
南方はふんどしだけの裸姿でよく山中を歩いていたという。その元気は、キノコ類の栄養によるところもあったかもしれない。
文/内田和浩