冒頭対談|写真家 水野克比古さん×サライ編集長 三浦一夫

「半世紀にわたり京都の四季を撮り続けてきました。『千年の都』は今も移り変わり続けています」(水野)

水野さんが通い続ける金戒光明寺 。
特別夜間拝観は11月15日~12月3日、17時30分~20時30分
拝観料:1000円 電話:075・203・2940
撮影/水野克比古

「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンが開始されて30年目の秋。古都の情景はどう移り変わっていったのか。京都写真界の第一人者を本誌の三浦一夫編集長が訪ねた。

水野克比古さん。1941年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、新聞社を経て写真家として独立。生まれ育った京都で撮影を続け、古都の魅力を伝え続ける。写真集など著書は210冊を数える。82歳。撮影/水野秀比古

京都在住の写真家・水野克比古さんは、半世紀以上にわたり古都の四季を撮り続けてきた。都を彩る四季折々の情景は、雑誌や広告、写真集などを通して多くの人の目に触れ、京都の新たな魅力を伝えてきた。

三浦 水野さんは、いつ頃から京都を撮影されているのですか。

水野 本格的に始めたのは、昭和44年(1969)あたりからです。ちょうど写真の主流が白黒からカラーに変わる頃でした。桜や紅葉鮮やかな光景を、カラー写真で伝えられるようになったのです。そうなると、だんだんと京都のカラー写真の需要が出てきて、雑誌の仕事なども増えてきました。

三浦 以来、京都を撮り続けておられるわけですね。半世紀以上も撮影を続けていると、撮るものがなくなりませんか(笑)。

水野 それが不思議なことに、毎年新しい撮影スポットが現れるのですよ。未公開だった塔頭(※たっちゅう。大きな寺院の山内にある別坊、小さな寺院)が公開されたり、お寺さんも建て替えなどで新しい姿を見せます。変わらないように見えて、変化を続けているのが京都なのです。

願ったら雪が降り始めた

三浦 京都のさまざまな姿を発信し続けてこられた水野さんですが、平成5年(1993)の秋から始まったJR東海の「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンでは、数々の作品がポスターに採用されています。今年はキャンペーンが開始されて30年になります。

水野 そのCMは実は京都では流れませんので、当初は知らなかったのですが(笑)、もう30年になりますか。「そうだ 京都、行こう。」では、平成6年(1994)に雪の法然院の写真をポスターに使っていただいたのが最初です。

三浦 平成8年(1996)に、「八坂の塔」の雪景色が大判のポスターになり、駅などに貼り出されましたので記憶に強く残っています(下画像)。この写真はどのように撮影されたのですか。

水野 撮影した場所はもうないのですがビルの屋上です。早く着いたので、人を待っている間に日が暮れ、雪でも降ってくれないかなと思っていたら本当に降り始めた。

三浦 偶然が重なり、素晴らしい作品になったのですね。

水野 長いこと写真家をやっていますが、願って雪が降ったのはこれを入れて3度しかありません。

「そうだ 京都、行こう。」のポスター(1996年・冬)。八坂の塔(法観寺)の向こうに、雪に煙る四条河原町の街明かりが見える。

紅葉は毎日、撮りに出かける

三浦 これから京都は紅葉が真っ盛りとなりますが、今年も撮影に出かけられますか。

水野 桜と紅葉の時季は毎日、撮影に出かけます。1か月は紅葉の見ごろが続きますので、毎年100か所ほどで撮影しています。ことに今年は夏が猛暑でしたので、これからぐっと冷え込めば、寒暖差で紅葉がより鮮やかに映えると思います。

三浦 今年の京都の紅葉は期待できそうですね。

水野克比古さん(右)と三浦編集長(左)の対談は、古い町家を利用した「水野克比古フォトスペース 町家写真館」で行なった。

「水野克比古フォトスペース町家写真館」

築約200年の町家をギャラリースペースとして2000年に開設。

京都市上京区大宮通元誓願寺下ル 
電話:075・431・5500
開館時間:11時~17時(要予約) 
休館日:日曜、祝休日、臨時休業あり
入場料:無料

【特別インタビュー】太田和彦さんが通う京都の名酒場

「さて、京都で一杯やるか」。30年間通い続けて会得した京の名店ひとり吞みの極意

太田さんが30年間通い続ける『めなみ』のカウンターには、おばんざいの大鉢が並ぶ。『めなみ』の創業は昭和14年(1939)、店は3代目女将の勝田桜子さんが仕切る。

全国の居酒屋を探訪し知り尽くす太田和彦さんが、京都へ通い始めたのは40歳を過ぎてからのこと。JR東海の「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンが始まる少し前の頃だ。以来、30余年にわたり太田さんは京都に通い続ける。

「初めて通うようになった地元の居酒屋が『赤垣屋』でした。ここは地元の人が通う店で、京都大学なども近く大学の先生が常連で、カウンターの隣でノーベル賞の話をしていたり、京都らしいなと思いました」(太田さん、以下同)

太田さんは東海道新幹線に乗り、わざわざ京都の酒場を訪ねる。そうまでして訪れる京都の魅力は、どこにあるのだろうか。

「京都に来たら観光名所には目もくれず、街歩きをしながら骨董屋などをのぞき、夕方になると居酒屋に出かけます。京都は街がコンパクトなので、数々の名店が歩いて行ける距離にあるのがいい。なにより、なんでもない居酒屋でも料理がおいしい。京都の居酒屋の料理の水準は飛び抜けています」

手前は定番の「ぐじ(甘鯛)の造り」(2420円)。この日は「鴨ロース」(1430円)と「生ゆば春巻き」(990円)もいただいた。日本酒は750円~(1合)。

静かに呑んできれいに帰る

出汁の効いた青菜とキノコのお浸しを小鉢によそう。おばんざいの盛り合わせは5種で1430円など。

京都の繁華街、河原町三条にほど近い『めなみ』は、太田さんお薦めの料理自慢の店だ。

「カウンターに大鉢が並ぶおばんざいの店です。おばんざいは京都の気取らない家庭料理のことですが、これがどれもとびきり旨い。家庭ではこの味は出せません」

ゆっくり杯を傾ける太田さんに、京都へ通い始めてから30数年の酒場の移ろいを訊ねた。

「京都の居酒屋は観光客向けと地元向けの店がはっきり分かれていて、互いに干渉し合わないのが特徴です。『赤垣屋』も『めなみ』も戦前からある老舗の地元店ですから、基本は変わらずです。近年はどの店もお酒の種類が増え、日本酒好きには嬉(うれ)しい限りです。料理はおいしいうえに、いいお酒が揃い盤石になってきました」

京都の名店は一見客はなかなか入りづらいと聞くが、太田さんはどのように常連になっていったのだろうか。

「ひとりで来て、静かに呑んで、きれいに帰る。それを繰り返していると、店の人もなんとなく顔を憶えてくれて“おこしやす”と言ってくれる。そこでようやく客として迎えられるようになるのです。賑やかに呑むのは御法度。京都でもてるのは、カウンターの隅でためいきをつきながらひっそりと呑む若旦那です(笑)」

客と馴れ合わず凜としている

京都におけるひとり呑みの極意を聞いていると、女将の勝田桜子さんがこう返す。

「うちはそんなに敷居は高くないので、安心しておいでください(笑)。最近はひとりで来られる女性のお客さんが増えました」

それでも客と馴れ合わず、カウンターを挟み凜とした境界が存在するのが京都の名店だ。太田さん流の「そうだ 京都、行こう。」の先には、そんな名酒場の数々が待ち受けている。

御料理 めなみ

開店とともに満席になる。

京都市中京区木屋町通三条上ル中島町96三条木屋町ビルII1階
電話:080・9308・5905
営業時間:15時~22時(最終注文21時30分)
定休日:水曜、年末年始

太田和彦さん。1946年、北京生まれ。全国の居酒屋を訪ね、現在、BS11で『太田和彦のふらり旅 新・居酒屋百選』が放送中。

京都通いは『赤垣屋』より

手前は太田さんが必ず頼む「しめさば」(800円)。奥は「わけぎとイカのてっぱい(ぬた)」(500円)。日本酒は600円~(1合)。「大衆価格でどれもおいしい」(太田さん)。

赤垣屋

赤提灯とネオンが目印。

京都市左京区孫橋町9
電話:075・751・1416
営業時間:17時~23時(最終注文22時30分)
定休日:日曜、祝日の月曜

「そうだ 京都、行こう。」の舞台を訪ねる

過ぎた時間と変わらぬ景色

祇園は京都市東山区の八坂神社を中心に広がる地区の名である。地名は八坂神社の旧称である祇園社にちなむ。毎年7月に1か月にわたり繰り広げられる「祇園祭」は、八坂神社の祭礼である。

祇園はまた、京都を代表する花街としての顔を持つ。格子戸の家並みが続く通りには茶屋や料亭などが集まり、舞妓や芸妓の姿が見られるのも祇園ならではの日常だ。

29年前の祇園から巽橋へ抜ける路地の光景。ポスターには「変えずにきたことへの努力に、敬意を表したいと思います。」とある。

そんな祇園は「そうだ 京都、いこう。」の平成6年(1994)夏のキャンペーンに登場している
(上画像)。その撮影地を本誌の三浦一夫編集長が訪ねた。

「千年の都」の30年とは

29年後、同じ撮影地を歩く。「変えずにきた努力は今も地元の人たちにより続いています」(三浦編集長)

撮影地に立った三浦編集長はこういう。

「この界隈はまったく変わっていませんね。じつは、白川に架かる巽橋を渡った路地に馴染みの居酒屋があるんです。太田和彦さん(前出)に教えてもらった店で、もう20年くらい通っています。最初は恐る恐る訪れ、今ではその秘密めいた路地奥の雰囲気と、おいしい料理にご主人の話を聞くのがなによりの楽しみです」

祇園から巽橋を望む路地の景色は、竹で囲った「犬矢来」の位置もそのままで、昔と今の写真を重ねるとピタリと合ってしまうほど。観光客も往来する通りで30年近く経っても寸分変わらぬ景色を見せるのは、京都でもごく限られる。

白川に架かる巽橋から路地を窺う。四季折々の景観を見せる人気のスポットだ。橋のたもとには辰巳大明神の祠が立ち、商売繁盛の氏神として地元の人たちの信仰を集める。

「祇園祭は1100年も続いていますし『千年の都』で30年など、ほんの一瞬のことなのでしょうが」

編集長はこう続ける。

「私にとって、ここは京都の深い世界へ誘ってくれた道標であり、いつまでも変わってほしくない風景です。30年後もまったく同じ景色を見せてくれると思います」

「水野克比古フォトスペース 町家写真館」は市バス今出川大宮下車徒歩約2分。『御料理 めなみ』は京阪電鉄三条駅から徒歩約3分。『赤垣屋』は同三条駅から徒歩約7分。

『サライ』編集長 取材後記

1993年に「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンが始まって今秋で30年。それ以前も京都は多くの人が訪れる観光地でしたが、このキャンペーンのテレビCMやポスターで改めて古都へ誘われた方も多いことと思います。そして、今年も紅葉に包まれる南禅寺のCMやポスターを目にし、この30年の時の流れや来し方を懐かしむのは私だけではないように思います。

1993年、私はまだ『サライ』編集部ではなく、女性週刊誌の新米の芸能記者でした。仕事で毎週のように京都の撮影所や大阪のテレビ局へ東海道新幹線で往復し、いつでも連絡が取れるようにとポケベルを持たされ(まだ、携帯電話はトランシーバーのような大きなものしかありませんでした)、ベルが鳴るたびに車内の公衆電話まで走りました。

時間に追われ、仕事が終わればすぐにとんぼ返りをするような日々でしたが、あるとき「そうだ 京都、行こう。」で冬の夕暮れの八坂の塔のポスターに「そうか 『考える時間』じゃなくて、『考える場所』がなかったんだ。反省するにせよ、決心するにせよ、舞台は必要です。」というキャッチコピーがあって「上手いなあ」と思いました。たぶん、仕事で何かに迷っていたのだと思いますが(笑)、偶然にもそのポスターの写真を撮られたのが今回、お話を伺った写真家の水野克比古さんでした。

以来、気になるキャッチコピーはメモするようになりましたが、「ここの桜のように 一年にたった一回でもいい。人をこんなにも 喜ばせる仕事ができればなんて思いました。」がお気に入りです。

『サライ』編集長 三浦一夫

JR東海30周年特別プラン
30年目の「そうだ 京都、行こう。」

平成5年(1993)秋にスタートした「そうだ 京都、行こう。」のキャンペーンは、今年で30年目を迎えた。毎回、斬新で印象的なCMとポスター等を通して京都の新しい魅力を発信し続け、日本の四季の美しさを再発見させてくれる長寿キャンペーンだ。
 
30周年の今年は、JR東海が特別なプランとイベントを用意し、京都の旅をさらに盛り上げる。「30周年特別プラン」では、「カレンダーつき旅行商品」と「限定オリジナル御守りと拝観券」に加え、寺院の復興体験などができる特別なプロジェクトが用意されている。「30 周年特別イベント」は、ポスター風のオリジナル画像が作成できるSNS連動企画だ。

詳細は「30周年記念サイト」をご覧いただきたい。

過去のポスターから厳選して作成した「そうだ 京都、行こう。」カレンダーつき旅行商品

過去の148枚のキャンペーンポスターから12枚を厳選し「そうだ 京都、行こう。」の壁掛けカレンダーを制作。東海道新幹線と宿泊、カレンダーがセットになった旅行商品を限定発売中。

京都の12寺院とコラボした「限定オリジナル御守り」と拝観券

過去のキャンペーンで舞台となった寺院とコラボ、限定デザインの「そうだ 京都、行こう。」限定オリジナル御守りを拝観券とセットで発売。発売は12月より開始。

京都の歴史文化を未来につなぐ取り組みに関わる旅

第1弾は、長年の荒廃から復興を目指す安祥寺にて、特別に「復興プロジェクト」として作庭(苔植、植樹、砂引)をする体験を用意。来年1月以降に催行予定。

30周年特別イベントを開催

お気に入りの京都の写真にオリジナルコピーと「そうだ 京都、行こう。」のロゴをつけてポスター風の画像を作成できる特別イベントを開催。作品に「#あなたのお気に入りの京都」をつけてSNS「X」(旧ツイッター)や「インスタグラム」に投稿すると、作品の一部が特設サイトや京都駅等で紹介される。


提供/JR東海

 

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