
日本酒に合う料理というと、身構えてしまう方も多いかもしれません。しかし日本酒は驚くほど多様な料理と相性の良いお酒なのです。お刺身や珍味といった和食の定番はもちろん、洋食やチーズ、さらにはスパイス料理まで、幅広いジャンルの料理と楽しむことができます。
日本酒の魅力として、「口内調味」という楽しみ方があります。これは、口の中で料理と日本酒を合わせて味わう方法で、まるでご飯と味噌汁のような絶妙なハーモニーを生み出します。ワインではあまり多く使用されないこの口内調味を活かすことで、より深い味わいの世界を発見できるでしょう。
文/山内祐治
目次
日本酒に合う料理の定番を押さえよう
日本酒に合う肉料理で新たな発見を
日本酒に合う簡単おつまみで気軽に楽しむ
日本酒に合う料理をコンビニで揃える現代的な楽しみ方
日本酒に合う料理でパーティーを盛り上げる
まとめ
日本酒に合う料理の定番を押さえよう
日本酒に合う料理の定番として、まず覚えておきたいのは「同じ系統同士を合わせる」という基本ルールです。“軽快なお酒には、軽快な料理”を、“厚みのあるお酒には、コクのある料理”を合わせることで、バランスの取れた美味しさを楽しめます。
例えば、新潟県産のすっきりとした辛口日本酒には、シンプルな白身魚のお刺身がよく合います。このとき、お醤油だけでなく、お塩やレモン汁といった調味料を変えるだけでも、まったく違った味わいになります。
一方、芳醇な香りと深い味わいが特徴の純米酒には、煮物や焼き魚といった味付けのしっかりした和食がおすすめ。特に、みそ田楽や筑前煮のような甘辛い味付けは、日本酒の甘みと旨みを引き立ててくれます。
また、塩辛や数の子、からすみといった珍味類も、日本酒との定番の組み合わせ。これらの濃厚な塩味と旨みが、日本酒の味わいと見事に調和します。
日本酒に合う肉料理で新たな発見を
意外に思われるかもしれませんが、日本酒に合う肉料理は数多く存在します。お酒の種類によって最適な肉料理が変わるのが興味深いポイントです。
華やかで甘みのある日本酒、例えば純米大吟醸などには、和牛を使った料理が絶品です。すき焼きに少し温度を戻した(※常温に近づけた)日本酒を合わせると、その相性の良さに驚かれることでしょう。さらにひと工夫加えて、トマトすき焼きにすることで、酸味が爽やかな、より現代的で洗練された味わいを楽しむことができます。
一方、さっぱりとした辛口の日本酒には、鶏肉を使った料理がおすすめです。棒棒鶏(バンバンジー)を胡麻ダレではなくネギソースで仕上げると、日本酒との相性が整いやすいです。淡白な味わいの料理も、軽やかな日本酒とよく合います。
残暑厳しい日には、微発泡性の日本酒と豚しゃぶの組み合わせが爽やかで美味しいもの。発泡感が豚肉の脂っぽさを程よく洗い流し、さっぱりとした後味を演出してくれます。
重要なのは、やはり「口内調味」を意識すること。肉料理を飲み込んでから日本酒を飲むのではなく、口の中で両者を混ぜ合わせるように味わうことで、より深い満足感を得られます。
日本酒に合う簡単おつまみで気軽に楽しむ
日本酒を気軽に楽しみたいなら、購入してすぐに食べられる簡単おつまみがおすすめです。中でもチーズは、日本酒との相性が抜群で、手軽に楽しめる優秀なおつまみです。
軽やかな日本酒には、クリームチーズやカッテージチーズといったさっぱりしたチーズを。一方、熟成感のある色の濃い日本酒には、パルミジャーノ・レッジャーノやゴーダ、ミモレットといった熟成チーズが最適です。この「軽いものには軽いもの、重いものには重いもの」という法則は、チーズ選びでも活用できます。
チーズをさらに美味しく楽しむなら、米粉で作られたクラッカーと合わせてみてください。日本酒の原料である米を使用したクラッカーとは、その相性の良さは言うまでもありません。薄焼きせんべいにチーズを乗せるだけでも、立派な和洋折衷のおつまみが完成します。
また、漬物も見逃せない簡単おつまみです。スーパーで購入できるぬか漬けを、常温からぬる燗の日本酒(華やかな香りが強くないもの)と一緒に楽しんでみてください。冷酒よりも常温の方が、漬物の風味と日本酒の旨みがより調和しやすくなります。湯飲みに少量ずつ注いで、ゆっくりと「口内調味」を楽しむのがおすすめです。

日本酒に合う料理をコンビニで揃える現代的な楽しみ方
現代では、コンビニエンスストアでも日本酒に合う料理を手軽に調達できます。最近のコンビニには、レトルトやチルドのおつまみコーナーが設けられていることも多く、選択肢は豊富です。
前述のチーズや漬物はもちろん、コンビニならではの楽しみ方もあります。華やかでフルーティーな日本酒には、冷凍フルーツを少し加えてカクテル風にアレンジするのも一つの方法。イチゴや桃などの冷凍フルーツが、日本酒の香りをより一層引き立ててくれます。
意外な組み合わせとして注目したいのが、アイスクリームと日本酒のペアリングです。特に甘口の日本酒、中でも「貴醸酒」と呼ばれる製法で造られた日本酒は、バニラアイスやチョコレートアイスとの相性が抜群。デザート感覚で日本酒を楽しむという、新しいスタイルの提案です。
コンビニでのお買い物の際も、「口内調味」を意識した組み合わせを考えてみてください。単品で食べるよりも、日本酒と一緒に口の中で味わうことで、まったく新しい味覚体験を得られるかもしれません。
日本酒に合う料理でパーティーを盛り上げる
パーティーシーンで日本酒を楽しむなら、フィンガーフードとして楽しめるものが重宝します。様々な具材を乗せたカナッペは、見た目も美しく、日本酒との相性も抜群です。クリームチーズに塩昆布を合わせたり、豆腐に山形のだしを乗せたりと、和のテイストを効かせたアレンジも、意外性があり効果的です。
イタリアンやフレンチのメニューも、日本酒に合う料理に変身します。そのコツは、旨味と塩味、そして爽やかさのバランスを取ること。ネギや山椒などの薬味を上手に使うことで、日本酒との相性がグッと良くなります。また、おだやかな日本酒には油分は控えめにするのがポイント。一般的なレシピよりも油を少なめにすることで、日本酒の繊細な味わいと整いやすく、美しいハーモニーを奏でることができます。
日本酒を和食だけのものと囚われずに、ぜひ、さまざまな料理と合わせて楽しんでいただければと思います。
まとめ
日本酒に合う料理の世界は、想像以上に広く、多様性に富んでいます。「さっぱりしたお酒にはさっぱりした料理を、味わい深いお酒には濃厚な料理を」という基本ルールを覚えておけば、自分なりの組み合わせを見つけることができるでしょう。
大切なのは、「口内調味」という日本酒独特の楽しみ方を意識すること。料理と日本酒を口の中で混ぜ合わせることで、それぞれ単体では味わえない深い満足感を得ることができます。それは、普段口中に食べ物がある状態で口に含むことをあまりしないワインの飲み方とはテンポの違うスタイルなのです。面白いですよね。
まずは身近な食材から始めて、徐々に自分だけの日本酒ペアリングレシピを開発してみてください。きっと、日本酒の新たな魅力を発見できるはずです。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史











