取材・文/池田充枝
近年、関心が高まっている智の巨人・南方熊楠(みなかた・くまぐす、1867~1941)の生涯と足跡を分かりやすく紹介する展覧会『南方熊楠-100年早かった智の人-』が、東京・上野の国立科学博物館で開かれています(~2018年3月4日まで)。熊楠の生誕150周年を記念した企画展です。
慶応3年、和歌山城下の金物商の二男として生まれた熊楠は、幼少より自然界に興味をもち、『和漢三才図会』『大和本草』『本草綱目』などの筆写を行っていたといわれます。
明治17年、東京大学予備門に入学するも2年で中退し、アメリカやイギリスで14年間におよぶ遊学生活を送り、明治33年に帰国します。以後、郷里和歌山に住み、とくに明治37年より田辺に定住して、亡くなる昭和16年までこの地で過ごしました。
生涯、博物学や民俗学などを中心にして研究に没頭し、英国の科学雑誌『ネイチャー』や民間伝承雑誌『ノーツ・アンド・クエリーズ』に数多くの論文を投稿し、国内では神社合祀反対運動や自然保護などにも精力的な実践活動で尽力しました。
そんな南方熊楠は、森羅万象を探求した「研究者」とされていますが、近年の研究では、あらゆる情報を広く収集し蓄積した「情報提供者」としての色彩が強いことが明らかになってきました。その手法は、現代のインターネット等でなされている情報の取り扱いにも通じるところがあるというのです。
本展では、熊楠自身の手による多数の資料や、最近新たに発見された本邦初公開の「菌類図譜」など豊富な資料の展示を通して、南方熊楠の実像に迫ります。
本展の見どころを、国立科学博物館の植物研究部の細矢剛さんにうかがいました。
「南方熊楠のことを、一言でどんなことをした人かと説明するのは難しいのです。多くの人は、熊楠を自然科学者と理解しています。しかし、自然科学を「仮説検証をする学問」と考えれば、そうは言えません。熊楠はいろいろな標本やデータを集めましたが、少なくとも自然科学的な仮説検証はしていないからです。また、集めた資料の数に比べると、出版された科学論文の数は驚くほど少数です。
では、熊楠の何がすごいのでしょうか。本展覧会は、このような視点から、熊楠の業績を振り返ります。
キーアイテムは、展示の冒頭で紹介する「日記」(行動の記録)、「菌類図譜」(きのこの標本を独特の方法で集積したもの)、「抜書」(ロンドン時代、田辺時代に読んだ本や集めた知識を書き写したもの)、「書簡」(手紙)です。
これらのキーアイテムから浮かび上がるのは、熊楠が、自然そのものも含む様々なデータソースから集めた膨大なデータを「コピー&ペースト」して、抜書や図譜といった形で独自のデータベースを集積し、それをもとに書簡を通じて意見を交わし、ときに出版物にまとめていったということです。これはまさに、私たちが今日インターネットを通じて行っている知識の検索と集約と同様のものでした。熊楠を知っていた人も知らなかった人も、“100年早かった”熊楠の情報処理に驚かれることと思います。
期間中、展示企画者による講演会なども実施します。お楽しみに」
ぜひ会場で、熊楠の頭の中をのぞく知的な旅に出かけましょう。
【展覧会情報』
南方熊楠生誕150周年記念企画展『南方熊楠-100年早かった智の人-』
会期:2017年12月19日(火)~2018年3月4日(日)
会場:国立科学博物館
住所:東京都台東区上野公園7-20
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://www.kahaku.go.jp/
開館時間:9時から17時まで、金・土曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(ただし1月8日、2月12日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月9日(火)
取材・文/池田充枝