日本近代彫刻の礎を築いた荻原守衛(おぎはら・もりえ 号は碌山〈ろくざん〉)は、明治12年(1879)長野県南安曇郡東穂高村(現・安曇野市)の農家に生まれました。

画家をめざして上京。明治34年(1901)の渡米を皮切りに7年間の欧米での留学生活の間に、パリでロダンの『考える人』を見て深い感銘をうけ、彫刻家に転じます。

その後は、重厚で写実的作品を次々と生み出しましたが、明治43年(1910)30歳の若さで世を去りました。

彫刻《坑夫》1907年

荻原守衛の郷里に立つ美術館で、守衛のパリ留学にスポットをあてた展覧会が開かれています。(9月30日まで)   

本展の見どころを、碌山美術館の学芸員、武井敏さんにうかがいました。

「荻原守衛は、7年間にわたる海外生活のなかで、二度パリに留学しています。一回目は絵画修行でしたが、二回目は芸術家としての資質を開花させた重要な時期と考えられます。

本展では二回目のパリ時代について、彫刻、交友、ロダン、コレクションの4つのセクションに分けて通常の展示よりも詳しく紹介します。

スケッチ《ビリヤード》1906-07年頃
スケッチ《rodin(ロダン)を訪ふ》1907年

展示資料の見どころは、これまであまり展示したことのないコレクションした写真と書籍です。写真については正確にいつ収集したものかわかりませんが、芸術作品の写真は、荻原の嗜好が偲ばれます。本展では荻原の愛したロダン、ミケランジェロ、エジプト美術、日本美術の写真を展示しています。

荻原がコレクションした写真『考える人』

書籍によっては、その見返しに、購入日、当時の心境や芸術観を記しており、荻原の内面を知ることができます。本展ではパリ時代のものを展示しています」

『蔵書の書き込み』
翻刻:明治四十年春
巴里に遊びて 美登里の寓に求之
アヽ今は亡国の姿となれるイタリ、汝は
かつて此の世界が未だ観ざりし幾多
豊艶の花卉を爛熳たらしめきラファエル、
ミケランジ、レオナ―ド、の美術に於ける サボナローラ
の宗教に於ける 皆其の一ツ 然り而して我が偉人
ダンテは其尤も優れるものか、皎たる明月に
対して今昔の感なき不能
三月二十一日夜
夜半子(荻原の号の一つ)
書誌情報:Dante Alighieri, trans. by Charles Eliot Norton, The divine comedy of Dante Alighieri, Boston & New York, 1902.

早逝の彫刻家が青春時代を過ごしたパリ時代を回顧する展覧会です。会場でその息吹きを感じてください。

【開催要項】
荻原守衛のパリ時代展
会期:2021年7月24日(土)~9月30日(木)
会場:碌山美術館
住所:長野県安曇野市穂高5095-1
電話:0263・82・2094
公式サイト:https://rokuzan.jp
開館時間:9時から17時10分(入館は閉館30分前まで)
休館日:会期中無休
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照

取材・文/池田充枝

 

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