人生100年時代と言われ、超高齢化社会の日本を突然襲った新型コロナウィルス。感染拡大予防のために、移動はもちろん、人と会うことなど、それまで「当たり前」だったことに無数の制限がかかるようになりました。これからの時代、どう生きればいいのか、迷ったり、暗い気持ちになったりする人も多いと感じます。

そこで、後半生の生き方を説いた著書『還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方』(講談社現代新書)が、20万部を超えるベストセラーになっている、出口治明さんにお話を伺いました。時代に押しつぶされず、パワフルに生きる方法を2回に分けて紹介。今回は、その2回目です。

【1回目はこちら

出口治明さん(72歳)立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。日本生命に入社し、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、2006年58歳の時に同社を退職。ライフネット生命(創業時社名・ネットライフ企画)を創業。2012年に上場。社長・会長を10年勤め、2018年から、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。『人類5000年史』I~Ⅲ (ちくま新書)、『 0から学ぶ「日本史」講義』古代篇・中世篇 (文藝春秋) 、『本物の思考力』(小学館新書) など、著書多数。

健康を考えるから不健康になる

自分の頭で考えることが重要だと出口さんは考えている。出口さんの信条である、「人生明るく楽しく面白く」を実現するには、社会常識を捨てることが一番だと指摘。

「社会常識というのは、重い鎧兜のようなもので、これを着けていると、人生は楽しくない。脱ぐには1枚ずつ疑って、捨てていくしかないのです。そのために勉強をするんですよ」

社会常識は“常識”とされているだけに、あまりにも自分自身になじんでしまっていて、気付きにくい。

「例えば、“いい子”の定義を考えてみましょう。戦後、製造業の向上モデルで国を引っ張ってきたので、教育現場では、工場での管理に順応する人材を“いい子”として育ててきました。勉強ができ、素直で、我慢強く、協調性がある。そして、先生の言うことをよく聞く……戦後の日本は、この5要素を満たす人材を育てて、企業側も喜んで採用してきたのです。でも現在はどうでしょうか。この5要素を満たす人材は、新しいアイディアを生み出せていない。いい子を量産し続けたこの30年間で、日本のGDPは半減し、国際競争力は低下。日本にはユニコーン企業がほとんどないことからも、“いい子”を育てる教育に問題があることがよくわかります」

時代と共に社会常識は変わっていく。社会常識を判断材料にして、思考を止めてしまうと、時代の変化の速さに追いつけない。

常に自分の頭で考え、新しいことに挑戦するには健康な体が必要。出口さんに健康方法を伺ったところ、「何もやっていません」とのこと。

「健康を、心配して考えるほど不健康になっていきます。人間は動物なので、食べて寝て仕事をしていれば元気なのです。僕の一日は、6時に起きて、朝食を作り、8時に大学に行きます。そして、夕方6時に大学を出て、単身赴任なので夕食を作り、その後執筆などをして、11時頃から読書をしていると、自然に眠くなり、12時前後に眠ります。本がおもしろいと、深夜まで読み続けてしまいますが(笑)」

出口さんは、Facebook(会員制のプラットフォームサービス)に、「今夜の出口食堂」というタイトルで、ナスの煮つけ、八宝菜、回鍋肉、すき焼き、カレーなどをアップすることがあります。多くの投稿に、「いいね」が700近くついており、反響の大きさが伺えます。

「先日、シェアハウスに住む学生に呼ばれて、遊びに行きました。パネルディスカッションをしていたら夕方になったので、ご飯に誘われました。“それなら、僕が作るよ”と言い、みんなで買い出しに行き、ポークカレーを振舞ったのです。そしたらおいしいとおかわりしてくれて、久しぶりにモテました。このステイホームで料理の能力が上がりました。基本のレシピをベースに、材料や調味料をアレンジして、あれこれ遊んでいるうちに美味しくなるのが楽しみです」

家庭は会社、妻は社長、私は新入社員

ステイホームで、家に居所がないという人も少なくありません。

「あるパネルディスカッションで、男性から“昼間、家にいても居場所がない”という声が上がりました。パネリストの女性が、“家を職場と考えればいい”とアドバイスを行い、これはうまいことを言うなと思いました。“育児・家事・介護については、あなたは何も知らない新入社員です。パートナーである奥さんが社長です。職場では仕事をしない新入社員に居場所がないのは当然でしょう”と。ですから、居場所がないと感じる人は、社長である奥さんに、頭を低くして、育児・家事・介護について教えを乞い、一所懸命に勉強して、実践する。そうすれば自ずと居場所を作れます」

人生は「悔いなし、貯金なし」

学び続け、動き続ければ、人生が楽しくなる。出口さんの信条は「人生悔いなし、貯金なし」という名言があります。

「定年を廃止して仕事をし続ければ、貯金など考えなくてよいのです。楽しい老後は、働き続けることから始まります。孤独の解消にも通じます。そもそも人間は社会的動物なので、社会とつながって初めて元気になるのです。こう話すと、“老体に鞭打つのか”と言われますが、いつまでも恋をして人生を楽しむ不良老年になるには、仕事を続け、元気でいることが全てです」

今の日本は、生産年齢人口が激減しているので、仕事はいくらでもある。私たちは、ラッキーな時代に生きていると続けます。

「2017年に日本老年学会と日本老年医学会が発表した資料『高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言(概要)』の中では、高齢者の身体状況や活動能力を科学的に検証した結果、10~20年前と比べて5~10歳の若返り現象が見られると指摘。高齢者は75歳以上が妥当ではないかと提言しています。ですから、定年でそろそろ人生が終わりというのは、早計過ぎる話で、少なくとも75歳までは十分働けるのです。僕は団塊世代で、同期が約200万人いますが、今年の新卒は100万人。日本は構造的な労働力不足状態で、山ほど仕事があります。これほど高齢者にとっていい社会はありません」

かつて、社会常識で親孝行とされていたのは、老いた親を子どもが面倒を見る行為でしたが、これも、社会や人々の考え方の変化により大きく変わりました。

「例えば、お子さんが、“お父さん、お母さん、今までありがとう。これからはもう仕事をせずに、ふたりで楽しく暮らしてね。面倒は私たちが見るから”と言ったとします。このセリフは、かつては親孝行の典型とされていましたが、今は違います。医師がこのセリフを翻訳すれば、“お父さん、お母さん、早く寝たきりになってね”です(笑)。体と頭を使い続けなければ、体も頭も機能しにくくなってしまうことが、証明されているのですから」

人生100年時代、自分の頭で考え続ける癖をつける重要性がわかりました。

「メディアの情報や、SNSの歪んだ情報を鵜呑みにして、不安をあおられて家に籠るよりも、ニューノーマルな生活様式を守り、なるべく外に出て刺激を受けた方がいいと思います。人に会い、本を読み、旅をすることが人生を豊かにしますから」

本当に好きなものに囲まれて、人生を楽しんで機嫌よく生きる。出口流・人生の奥義を取り入れながら、自分自身の人生をとらえなおしてみませんか。

おそらく、今までの自分とは、全く異なる自分の本質のようなものが見つかるかもしれません。

 

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