【ビジネスの極意】ドラッカーが残した、日本への提言

オーストリアの経営学者、ドラッカーは数々の名言を残している。
リーダーシップとマネジメントに悩む、マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研から、ドラッカーの日本への提言をご紹介しよう。

* * *

ドラッカーの4つの名言から

ピーター・ドラッカー、その名前ぐらいはご存知の方も多いでしょう。

自ら「社会生態学者」と名乗り、経営の現場を訪ね歩き、資本主義社会や企業経営のエッセンスを抽出し、多くの著作で伝えてきました。没後10年以上が経過してもなお、世界中でたくさんの愛読者に支持されています。

難しい経済学の抽象論を机の上でふりかざすのでなく、丹念な聞き取り取材によって、経済活動の「ナマ」の情報を分析してきた点で、ドラッカーの研究成果は起業家やビジネスマンに対して、実践的な指針を示す独自の魅力があるのです。

また、ドラッカーは日本通・知日家でもあり、日本の経済や文化に対する提言も行っていました。ドラッカーの遺した言葉から、あなたの未来が開ける企業経営の指針を学んでみませんか。

ドラッカーの名言1「企業」とは?

・「企業の目的は顧客の創造である。したがって、企業は二つの、ただ二つだけの企業家的な機能をもつ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす」(『マネジメント』より)[1]

ドラッカーの愛好者にとっては、有名なフレーズでしょう。
産業革命・機械文明の恩恵が世の中に行きわたっても、大衆は貧しいままなのが現実でした。つまり「経済至上主義は、人々を幸せにしない」。これが若きドラッカーの問題意識でした。ここから来るのは「組織社会」であり、組織運営が上手ければ、組織に所属し、組織に貢献する人々の物的・精神的な豊かさも得られると考えました。その組織運営のノウハウこそ、まさに「マネジメント」です。会社が収益を上げ続けて長く存続するかどうかは、経営者・管理職がマネジメントを身につけ、運用できていることが鍵となります。
企業という組織をマネジメントすることが、企業活動の存続に繋がるのですが、顧客を獲得し続けられなければ利潤を上げられません。顧客を獲得するのに必要なことが、マーケティングとイノベーションだというのです。

たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリングが、インナー(下着)を再定義し、機能性とファッション性を両立させた「ヒートテック」や「エアリズム」などの大ヒット商品を生み出したのも、既存の常識を塗り替えるイノベーションと、世間で普遍的に求められている服を提供するマーケティングを融合させたからこそです。

そのファーストリテイリングの経営理念第1条に掲げられているのが、まさに「顧客を創造する経営」であり、ドラッカーの説を明確に意識しています。
では、イノベーションとマーケティングとは、具体的にどのような概念なのでしょうか。

ドラッカーの名言2「革新」とは?

・「企業家はイノベーションを行う。イノベーションは企業家に特有の道具である。イノベーションは、富を創造する力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を創造する」(『イノベーションと企業家精神』より)[2]

イノベーション(innovation)は「技術革新」と訳されます。では、企業という組織にとって、革新的なものとは何でしょうか。なんとなく「斬新で、クリエイティブで、画期的で……」のようなイメージを抱きがちですが、ドラッカーはこれらの点には触れない「3つの心得」を挙げています。

一つは「集中すること」。つまり、複数の異なる分野に精力を分散するのでなく、ひとつの物事への献身的持続的努力が必要だと説きます。
二つめは「強みを基盤とすること」。つまり、自らの能力を最も活かせる場を探し、その対象への価値を心底信じられる相性も必要だといいます。
三つめが「世の中を大きく変える物であること」。つまり、独りよがりの新しさや珍しさでなく、社会から求められ、需要がある市場志向であるべきと位置づけます。
たとえば、富士フイルムはデジタルカメラやスマートフォンの普及で、カメラ用フィルムの需要が激減し、窮地に陥りました。しかし、フィルム部門を大幅に縮小しながら、長年のフィルム製造で培ってきた技術を活かして、強みを発揮できる化粧品部門へ新規参入し、集中的に注力しました。そうして、既存の化粧品メーカーには作れない画期的な商品を生み出し、美しくありたい女性の普遍的な需要に応え、V字回復を果たしたのです。

ドラッカーの名言3「マーケティング」とは?

・「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」(『マネジメント』より)

企業が存続する上で、売上げを作り続ける営業部門の存在価値は大きいのですが、ドラッカーに言わせれば、言葉巧みなセールストークを駆使して商品やサービスを売り込むのは、本来の意味での「顧客の創造」ではない……との結論になりえます。
無理な売り込みや頻繁なPRをしない状態でも、買ってくれる人がいる状態こそが、マーケティングであり、顧客の創造なのです。
とはいえ、営業担当者が人脈を構築し、長い歳月を掛けて信頼を得ることを、ドラッカーが否定しているわけではありません。マーケティングとは、顧客満足度を徹底して引き上げ、いい噂を客が他人へ流すことで、「客が客を呼ぶ」状態を創り上げることです。つまり、マーケティングを営業部門だけでは完結しない、もっと広い全社的な取り組みだとドラッカーは位置づけています。
感動的なほど顧客満足を徹底している企業として有名なのが、東京ディズニーリゾートを展開するオリエンタルランドです。顧客が日常を忘れる「夢の国」を演出するために、俗世間で目に入るものや、世間のネガティブな要素を連想させるものなどを、顧客から徹底的に感じさせないよう配慮しています。このように帰ってから他人に話したくなるほど、感動的な体験がマーケティングに繋がるのです。

ドラッカーの名言4「日本」とは?

・「こんにち、最も困難な試練に直面している先進国が、この半世紀間、社会として最もよく機能してきた日本である」(『明日を支配するもの』より)[3]

親日家だったドラッカーですが、学者としてのドラッカーは日本を決してひいき目に見ることなく、冷静かつ客観的な視点から分析しています。日本人としても、母国の文化や言語化されていない空気感などを客観的に知ることができる点で、意義があります。

かつて、ドラッカーは、日本の終身雇用制や年功序列などのしくみを高く評価していました。経済至上主義が行き着くところまで行ってしまうと、貧しい人々が増えてしまうだけなので、ひとりひとりが組織に貢献することを通じて、皆が豊かになっていく「組織主義」を説いていたからです。「人の絆」がマネジメントの本質だと位置づけていたドラッカーにとって、日本の終身雇用は、その組織主義と合致しているように感じられたのでしょう。リストラや解雇の恐怖を最小限に抑え、従業員にのびのびと働かせるしくみを絶賛していました。

しかし、日本企業の終身雇用制はバブル景気とともにほとんど崩壊してしまいました。日本の経済に余裕があった時代だからこそ、終身雇用を一般化できたのであって、経済成長や会社の収益構造に余裕がなくなれば、維持するのは困難なのです。

そのような事情もあってか、ドラッカーは著書『明日を支配するもの』の中で、本業と同じぐらい真剣に働く副業やボランティアに取り組む「パラレルキャリア」を提唱しています。本業が安泰でない時代なので、副業も本格化させてもしものリスクに備えるべきだとの提言です。

パラレルキャリアは終身雇用と一部矛盾することもあり、ドラッカーの一貫しない主張が批判されることもあります。しかし、企業の雰囲気を現場で徹底して調べているからこそ、時代の雰囲気の変化を鋭敏に掴むことができるのです。その点では希有な学者といえるでしょう。

まとめ

ドラッカーの名言は、現代であっても決して古びていません。ビジネスシーンから現場取材から人々の営みを見つめ、人間心理と経済社会の本質を言い当てる人の言葉だからでしょう。国が違っても、経営のエッセンスにはほとんど違いがありません。時代が変わっても、人々の思い込みは、そう簡単に修正されません。世の中の常識や思い込みと正面から向き合い、挑戦し続けたドラッカーの言葉は、これからも人々から注目され続けるに違いありません。

【参照】
[1]『マネジメント』ピーター・ドラッカー ダイヤモンド社 p.20
[2]『ドラッカー 時代を超える言葉』上田惇生 ダイヤモンド社 p.72
[3]『ドラッカー 時代を超える言葉』上田惇生 ダイヤモンド社 p.238

 * *

いかがだっただろうか。マネジメントの発明者とも呼ばれるドラッカーの日本への提言。参考になることが多々あるのではないだろうか。

引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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