取材・文/柿川鮎子
人もペットも高齢化が進んで、介護関連の準備や、いわゆる終活などが話題になってきました。今回はペットの終活に関して、今からできる快適なペットとの暮らしの準備を、ひびき動物病院院長岡田響先生と一緒に考えてみました。まずは病院で実際にあったケースです。
■検査で早期発見できたランちゃんのケース
「この子も年をとってきたからなあ」と、ご家族はなんとなくうっすらとこの子の老化を感じてはいます。今年の春の健康検査で検査に異常値が出てしまった13歳のランちゃんです。
飼主さんは高齢化対策にもきちんと向き合わないといけないなと思ってはいますが、元気があって、普段の生活には変化がないので、そのまま様子をみていました。しかし、今年は先生が、「一度詳しく見てみましょう」と提案してきて、画像検査と心電図の検査をすることになりました。
ランちゃんの飼主さんは毎年、フィラリア検査のときに血液検査でわかる健康検査を一緒に受けていました。数年前からコレステロール値が高いことがわかり、脂肪の多い食事を避け、健康維持のための低脂肪フードを中心に与えていました。それなのに、今年の血液検査の結果で、別項目でも異常値が出たのです。
先生の薦めで詳しい検査をしたところ、「心臓病の所見がみられる」という診断結果となりました。家族同然のランちゃんに病気が見つかり、飼主さんは心配されていましたが、加齢による身体の変化を知ることができました。お父さんが来てくれて、今後の対策をきちんと聞いて帰ったそうです。そのまま放置していたらひどくなってランちゃんが突然苦しくなったり、知らないうちにバッタリ亡くなるようなことが訪れていたかもしれないそうですが、そうならないように準備することができました。
岡田先生は「ペットの老いや終活なんて意識もしないですよね?何もなければ直前になってやっと意識するのかもしれませんし、あとどのくらいで死んでしまうなんて、考えたくもないと思います。検査をして今の状態を知れば、ランちゃんのケースの様に、その後のペットと家族の生活が変わるかもしれません。それが終活にもつながるのではないでしょうか」と言います。今回は獣医師の観点から、特に健康管理の観点から3つのポイントについて解説します。
point1■高齢になっても元気で楽しく遊べる身体づくり
高齢になっても健康な体をもち、美味しく食事ができて、毎日楽しく遊びたい……それはペットも人も同じです。岡田先生は特に高齢になっても健康でいられる身体づくりが大事だと言います。
「若い時から定期的な健康診断を受けておくことで、高齢になっても病気が予防できたり、元気でいつも美味しく食事ができる身体づくりが可能になります。動物病院は病気になった時はもちろんですが、なる前にも飼主さんの役に立つことができます。
ペットも人と同じように、それぞれの飼育環境や個体差があります。定期検診を受けていれば、そうした平常値がわかっているので、異常がつかみやすくなります。また、定期検診では、高齢になってその子がなりやすい病気や、特定の種類に多い病気などを予防するお手伝いも可能です。
ランちゃんのケースでは毎年、血液検査をしてくれて、異常であることがあらかじめわかっていたのが良かった。普段の食生活は意識してもらっているし、さらに詳しい検査で心臓病も見つかりました。病院に来て頂くことで、体の変化や日常生活の注意点がつかみやすいのです。
美味しくご飯を食べるのが大好きな子だったら、デンタルチェックで健康な歯を保ち、高齢になっても自分の歯で美味しく食事ができるようにしてあげられます。高齢になっても元気で楽しく過ごせる身体づくりは、普段の定期検診で可能になることが多いのです」と、検診の重要性を教えてくれました。
さらに検診することで、ランちゃんのように、「なんとなく老いてきた」から、上手に次のステップに進むことができるようになります。何に気を付けるべきか、次にどんな行動をするべきか、 などを飼主さんが理解しておくことで、余命の生活のスタイルにいい影響を与えることができます。
また、猫の場合、慢性腎臓病は気を付けたい病気のひとつです。ペット保険会社の調査では、12歳以上の老猫で約3割。15~20歳では8割以上の子が慢性腎臓疾患を抱えているというデータが報告されています。岡田先生も「猫の尿検査は、定期的に行って欲しいことのひとつです」と言います。
特に猫の場合、定期的に尿検査を続けることで、病気を未然に防ぐことが可能です。最近はこうしたデータをスマホのアプリで管理できるサービスも登場していますので、検索してみてください。岡田先生は「いつでも新鮮な水が飲めるようにしておく習慣をつけることと、ゆっくり安心してトイレができる場所はどこか、知っておくことも病気の予防になります」と教えてくれました。
point2■飼育環境を高齢化向けに変更
高齢になると、高いところからの乗り降りで、思いがけないトラブルが発生することも。犬も猫も腰痛やひざや肘のトラブルはとても多く、今から対策しておくことが有効です。
病気の進行予防にもなるので、人間のバリアフリーのように、ペットのためにも高低差を無くし、滑りにくい床に変えましょう。ソファーの前に台を設置して高低差をなるべくなくしたり、狭くて硬い床のところに長時間居させないようにします。また、フローリングを滑りにくくするワックスや、じゅうたんで足が滑らないようにするなどの対策も効果的です。
Point3■毎日の生活に取り入れる高齢対策
岡田先生は、「毎日のタッチやマッサージで、飼い主さんの手からも、病気の早期発見ができます」と普段の生活で楽しくできる早期発見方法を教えてくれました。
高齢になると寝てばかりとか、静かに過ごす時間が増えますが、歩いたり外を観察するなど、興味を持って動くことが大事だと岡田先生は言います。「静かにしていると、飼主さんも可哀想だとそっとしておいてあげようと構ってあげなくなりがちですが、そうするとどんどん老化が進んで、外界に興味を無くしてしまいます。
飼主さんが犬を優しくタッチしたり、嫌がらない程度に昼間に散歩に連れ出すことで、「普段と同じである」がわかると同時に、認知症予防や運動能力の維持・回復にも役立ちます。もちろん、嫌がったらやめて様子を見ますが、たいていの犬は飼い主さんのお誘いを断りません。犬はいくつになっても構ってもらうのは大好きですから、楽しく遊んであげることが大事ですよ。
どっちの手に入っているか?など、感覚や運動能力を保持するために役立つ超簡単な遊びもあります。おやつ探し遊びは耳が遠くなっても、嗅覚を使って楽しくできます。毎日の生活にこうしたトレーニングを取り入れることで、健康寿命の維持に役立つんです」と岡田先生。
■救急病院と葬儀についても情報収集を
最後にランちゃんのように、心臓の病気や慢性病を抱えてしまうようになると、救急病院なども課題になります。急に具合が悪くなった時に助けてくれる病院が近くにあるかどうか、まずはいつものかかりつけの病院と相談しましょう。夜間救急病院を紹介してくれることがあります。連絡先はスマホにあらかじめ入力しておくと、いざという時に便利です。
葬儀については、それほどあせらなくて情報収集できるそうです。岡田先生は「かかりつけの先生に相談してみたら?」と教えてくれました。そして、「動物病院は病気も治しますが、病気になる前にできることの相談とか、病気以外の質問をしてもいいんですよ。」とアドバイスしてくれました。
ランちゃんのお父さんは、心臓病の話を先生から聞いて、「病気は進んでいくので、そろそろお薬が必要になるんですね。前向きに家族にも相談します」と、言っていました。「年だからな」と言っていたお父さんですが、小さな家族を大切に思う気持ちが、先生にも伝わってきたそうです。
取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。