そろそろ年末年始の旅行計画を立ててる人も多いだろう。近年は近場への海外旅行が人気だが、そのひとつが台湾である。
台湾旅行の楽しみといえば食べ歩き。「小吃」(シャオチー)と呼ばれるのは、B級グルメの軽食で、街を歩けばそこかしこに屋台が並び、おなじみの小龍包、麺・粥から、かき氷などのデザートまで、空腹でいる暇もないほどの美味があふれている。
そのような小吃の中で、観光客のみならず、地元民にも熱い支持を得ているのが「胡椒餅」(フージャオビン)という大きな焼き饅頭。日本では「こしょうもち」と呼ばれる。胡椒などの香辛料がきいた豚肉餡と、たっぷりの刻み葱を小麦粉の皮で包み、中はもっちり、外はパリパリに焼き上げている。
台北市内には、いくつもの胡椒餅専門店があり、しのぎを削っている。どの店にも共通しているのは、客の目の前で饅頭を手早く作る職人芸を見せていることと、釜で焼き上げた熱々を手渡してくれることだろう。
台北駅近くにある人気店『福州世祖胡椒餅』では、客が長蛇の列を作って焼き立ての胡椒餅を買い求める。行列とはいえ、並んでいても全く退屈しない。というのも、至近距離で小麦粉の皮をのばし、たっぷりの肉餡に驚くほど大量の青葱を包み込む作業は、待っている客の目をじつに楽しませ、期待感を高めてくれる。昔ながらの炭火焼きの釜を使用しているのもよい。まるでインド料理のナンを作るかのように、熱せられた円柱状の釜の内側に、胡椒餅をペタペタと手際よく貼りつけて焼いていく。
ちなみにこの胡椒餅、台湾には中国福建省の福州市から伝わったそうだ。もともとは「福州餅」と呼ばれていたが、「福州」(フーチョウ、フージァン)と「胡椒」(フージャオ)の発音が似ていたため、いつしか「胡椒餅」(フージャオビン)になったのだという。
文/大沼聡子