文/高嶋秀武
「ブラウスのボタンを、赤いマニキュアの細い指で弄もてあそぶように、外していきます。あっ、上から三つ目のボタンが外れました。胸元からレースの下着……(ごくん)が……」
目の前で、一枚一枚洋服を脱いでいく女性を描写する私。スタジオはピンク色の照明と天井から金銀のモールがつるされ、怪しい曲が流れ、さながら場末のキャバレーの様相。ガラス越しに副調整室をみると、当時大人気のフォークシンガーMさんやTさんが、目を見開き興味津々でこちらを見ている。
これは『大入りダイヤル、まだ宵の口』という若者向け番組のコーナー「裸でこんばんは」の生放送風景だ。金曜の夜十一時四十五分からの番組で、翌週発売の「平凡パンチ」のグラビアにヌードで登場するお姉さんがスタジオで脱ぎ、私が実況する。一九六四年創刊の「平凡パンチ」は一時100万部を超す発行部数を誇っていたが、70年代になると一時の勢いはない。そこで起死回生として考えられたのが、グラビアとラジオを連動するこの企画だ。
女性だけに裸になってもらうのは申し訳ないので、私もパンツ一丁。宇鴻こ一郎先生や川上宗薫くん先生の官能小説を読みまくり、得意のカンニング方式で仕入れた女性が洋服を脱いでいく様子やしぐさ、乳房の形に関するボキャブラリーを駆使して描写していく。ラジオなので少々垂れ気味でも、豊満な乳房と表現するなどお手の物。
おかげで大評判。スポーツ新聞や週刊誌の取材が引きも切らず、深夜放送のパーソナリティは番組準備そっちのけで、わんさと見学にくる。当時のプロデューサーの日誌には、「取材殺到、異常な聴取率を記録」と記されている。“バカウケ”だったのだ。当時は面白い企画だと思ったら、上司に相談なく、すぐにやった。その勢いが若い聴取者に伝わり、爆発的に広がっていった。ラジオが新しいことにチャレンジして、発信媒体としてパワーをもっていた時代だった。
ところがある日、プロデューサーが編成局長に呼びだされた。こっぴどく叱られたあげく、番組は三か月で終了。「裸でこんばんは」は幻の好企画となってしまった。
ラジオは四月の改変期を迎える。最近の若い制作者は何でも上司に相談するので、ばかげた企画が生まれにくくなっているような気がする。
「相談するな。聞いたら、やめろと言わざるを得ないじゃないか」
かつての上司はそう言って笑った。今は、どうだろうか。
文/高嶋秀武(たかしま・ひでたけ)
昭和17年、神奈川県横須賀市生まれ。明治大学卒業後、ニッポン放送入社。ニュース・情報・スポーツ・芸能と幅広い分野で活躍し、『オールナイトニッポン』『大入りダイヤルまだ宵の口』『今日も快調! 朝八時』などでパーソナリティーを担当。『お早よう!中年探偵団』は19年間続き、早朝の名物番組となった。平成2年、フリーに。現在、『高嶋ひでたけのあさラジ!』(ニッポン放送、月曜~金曜、朝6時~ 8時)を担当、雑誌『サライ』で「当世ラジオ気質」を連載中。『話し方ひとつで人生はうまくいく』(小学館)ほか著書多数。
(以上、『サライ』2017年4月号掲載の「当世ラジオ気質」高嶋秀武より)
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雑誌『サライ』にて大好評連載中の高嶋秀武さんのエッセイ「当世ラジオ気質」が単行本になりました。
パーソナリティー歴52年のフリーアナウンサー高嶋秀武さんが、「オールナイトニッポン」などラジオ番組制作の熱い裏側を笑いとユーモアで活写します。人との出会いや仕事での失敗、成功など、共感できて感心するエピソードが満載。読めば懐かしさと楽しさで、心もすっきり。ラジオを聞くかのように読める極上エッセイ集です。やっぱり昭和は凄かった!
『高嶋ひでたけの読むラジオ』
(高嶋秀武著/本体1,000円+税/小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09343444
【高嶋さんトーク&サイン会のお知らせ】
本書刊行を記念して、東京・八重洲の八重洲ブックセンター本展にて、高嶋ひでたけさんのトークショーを行います。ご本人からナマで話が聞けるまたとないチャンスです!
■日時: 2017年6月9日 (金) 18時30分~(開場:18時00分)
■会場: 八重洲ブックセンター本店 8F ギャラリー
■募集人員 100名(申し込み先着順)※定員になり次第、締め切らせていただきます。
イベント参加には同店で対象書籍の購入が必要です。電話による申込みも可(電話:03-3281-8201)。詳細は以下のページでご確認ください。
http://www.yaesu-book.co.jp/