車海老
車海老の粽寿司

残暑もこう長く続くと、夏バテ気味でどうしてもさっぱりしたものばかりに手が伸びてしまうものです。食欲が落ちるだけでなく、食事を作る気力まで減退して、気がつけばそうめんや冷やし中華など手軽なものばかり…。そんな食事にもいい加減飽きてきたという方も多いのではないでしょうか?

そんなときだからこそ、目に鮮やかで食欲をそそり、爽やかな味わいでありながら満足感も得られる車海老の料理とワインをご紹介します。

「車海老の粽寿司」に合うワインは?

車海老の粽(ちまき)寿司には、どのようなワインが合うのでしょうか?

今回、京都で149年続く老舗ワイン商「ワイングロッサリー」の6代目、吉田まさきこさんが選んだのは、スペイン・バスク地方で造られるロゼワイン「イナシオ・ウルソラ チャコリ・ロサド 2024」(以下、チャコリ・ロサド)でした。

吉田さんがまず注目したのは、主役となる車海老です。

「車海老を見た時に、バスク地方へ行った時のことをふと思い出したんです。海辺で海老を食べながらチャコリを飲んだことがあって、それがものすごく美味しかった。それで、今回はバスク地方で造られるロゼワインを選びました」

吉田まさきこ
「イナシオ・ウルソラ チャコリ・ロサド 2024」とJ.S.A.認定ソムリエの吉田まさきこさん。

海に面したバスク地方では魚介料理が豊富で、現地で親しまれてきたチャコリは魚介と合わせやすいワインです。吉田さん自身、海老とチャコリを一緒に味わい、その相性のよさを実感した経験がありました。

海老には、なぜロゼが合う?

「甲殻類には、ロゼがとても合わせやすいんです」

海老にロゼという組み合わせ。その理由の一つとして、吉田さんが挙げたのが意外にも「色」でした。

「海老や蟹料理って、見た目が赤いでしょう。その色とロゼワインの風味は、とても合わせやすいんです」

ウルソラロゼ画像

ワインというと、「魚には白、肉には赤」と覚えている人も多いでしょう。しかし、料理とワインのペアリングは、素材だけで決まるわけではありません。

「ワインって、意外と『色合わせ』がヒントになるんですよ」

例えば、魚でもブリの照り焼きや鰻のように、濃い色のタレで仕上げた料理には赤ワインが合わせやすい。反対に、鶏肉のような白っぽい肉なら、白ワインがよく合うでしょう。

吉田さん自身、ソムリエになりたての頃、先生からこの考え方を教わり、「なるほど」と印象に残っているそうです。

料理の材料だけではなく、完成した皿の色を見る。それも、家庭でワインを選ぶ時に役立つ一つの方法だといえます。

白より旨みがあり、それでいて爽やかなロゼ

「チャコリ・ロサド」は、オンダラビ・スリとオンダラビ・ベルツァの葡萄を50%ずつ使った辛口のロゼです。

ピュアでフレッシュな果実味と、チャコリらしい高めの酸、ミネラル感があり、イチゴや白い花を思わせる香りも特徴。しっかりとした酸がありながら口当たりは柔らかく、淡いサーモンピンクの色調を持つ、洗練された一本です。

吉田さんによれば、白のチャコリはかなりすっきりした味わいで、白身魚などには非常によく合います。

一方、車海老には、海老特有の甘みと旨みがあります。

「そんな車海老には、白よりも少し厚みを感じるロゼがいいんじゃないかと思いました。ただ、このロゼも決して重たくありません。かなりすっきりしています。暑い日にごくごく飲みたくなるようなロゼです」

高い酸が車海老の味わいをすっきりと整え、ロゼならではの果実味が海老の甘みや旨みに寄り添う。夏の一皿に合わせるには、なんとも魅力的な組み合わせです。

美食の地・バスクで生まれた「チャコリ」

チャコリは、スペインとフランスにまたがるバスク地方で古くから造られてきた地域性の強いワインです。

イナシオ・ウルソラは、スペイン側のバスク、サン・セバスチャンから南へ約27kmの場所に位置するアルキサ村にあります。海側に位置するD.O.ゲタリアコ・チャコリーナの生産者です。大西洋からの影響を受ける冷涼な産地で、酸とミネラルを備えた爽やかなチャコリが生まれます。

イナシオウルソラ
イナシオ・ウルソラの葡萄畑。海から約5kmのアラナ・ヴァレイにあり、
山が冷たい海風を遮ることで、葡萄がしっかり熟す恵まれた環境です。

バスクといえば、美食の街として知られるサン・セバスチャンを思い浮かべる人もいるでしょう。海に面し、魚介料理が豊富な土地です。当然、その土地で長く親しまれてきたチャコリも、魚介との相性に優れています。

サン・セバステチャン

特にチャコリは酸が高いため、魚介と合わせた時に生臭さが出にくく、すっきりと楽しめることが魅力です。

「ワインと魚介って、ときどき生臭さが出てしまうことがあります。でも、チャコリは酸が高い。だから魚介と一緒に飲んでも、生臭さを感じにくいんです」

車海老との相性がいいのは、土地の食文化から見てもごく自然なことだといえるのかもしれません。

「チャコリ=カジュアルワイン」ではない

チャコリは食事とともに気軽に楽しむ「地酒」のようなイメージがあるかもしれません。けれど吉田さんは、ここで一つ注意してほしいといいます。

「チャコリ=安いカジュアルなワイン、だけではないんです」

気軽に楽しめるものがある一方で、丁寧に造り込まれた高品質なチャコリも存在します。

イナシオ・ウルソラは、まさにその代表格。「バスクTOP3に入る生産者」であり、そのチャコリは、サン・セバスチャンの三つ星レストラン「アルサック」のハウスワインとしても供されています。

イナシオ・ウルソラのワインは「ガストロノミック・チャコリ」(料理との相性を重視して造られた、上質な食中酒としてのチャコリのこと)と位置づけられています。つまり、単独で味わうだけではなく、料理とともに楽しんだ時にこそ魅力を発揮するワインなのです。

今回のロゼもアルコール度数は低めで、酸とミネラルを備え、食事に合わせやすいバランスで造られています。

イナシオウルソラ
14世紀から続くバスク地方の旧家・ウルソラ家。現当主チャビイ・ウルソラ氏は、かつてシードラ造りに使われていたセラーで、妻のガラチ夫人とともにチャコリを造っています。

同じワインがない場合は「チャコリ」か「海辺のワイン」を

「イナシオ・ウルソラ チャコリ・ロサド 2024」が手に入らない場合、吉田さんは二つの選び方をすすめます。

一つは、同じ「チャコリ」を探すことです。

「ロゼがない場合は、白のチャコリでもいいと思います。バスク地方のチャコリという名前を覚えておいて、ワインショップで探してみてください」

もう一つは、「海の近くで造られたワイン」を探すこと。

サルデーニャ島やシチリア島など、海の近くにぶどう畑が広がる産地は世界各地にあります。海辺の産地のワインには、ミネラル感や塩味を思わせるニュアンスが感じられるものもあり、魚介料理と合わせやすいそうです。

ワインショップを訪れたら、
「海老に合わせたいので、海の近くで造られたワインはありますか?」
と尋ねてみるのも一案です。

色で選ぶなら、赤よりも白かロゼ。中でも、酸がきれいで、軽やかで爽やかなロゼがおすすめです。

車海老の旨みを受け止めながら、残暑の中でもすっきりと楽しませてくれる。そんな一本を探す時、「チャコリ」という言葉が、新しいワイン選びの扉を開いてくれそうです。

車海老の粽寿司とロゼワインは合う? 星野リゾート和食統括料理長がテイスティング

「星のや京都」内にある日本料理「真味自在」で凌ぎとして提供される「車海老 万願寺唐辛子 クスクス」。 写真奥にいらっしゃるのが、「星のや」和食部門の統括料理長を務める石井義博(いしい・よしひろ)さん。
「星のや京都」内にある日本料理「真味自在」で凌ぎとして提供される「車海老 万願寺唐辛子 クスクス」。 写真奥にいらっしゃるのが、「星のや」和食部門の統括料理長を務める石井義博(いしい・よしひろ)さん。

吉田まさきこさんが選んだ「イナシオ・ウルソラ チャコリ・ロサド 2024」は、「車海老の粽寿司」に本当に合うのでしょうか?

料理を創作した、星野リゾートの和食統括料理長を務める石井義博さんに、実際に料理とワインを合わせて味わってもらいました。

石井さんは「よく合うと思います」と一言。

その理由として、石井さんが最初に挙げたのが、車海老とワインの「甘み」でした。

「ロゼの果実味から感じられる甘みがありますね。そこに車海老の甘みが重なるので、その甘み同士の相性がいい。合わせることで、より美味しく召し上がっていただけると思います」

吉田さんは、海老には白よりも少し厚みのあるロゼが合わせやすいと考えていました。料理人の石井さんもまた、実際に口にして、車海老とロゼの甘みが重なる相性のよさを評価しました。

チャコリ・ロサドのテイスティングをする石井さん。
チャコリ・ロサドのテイスティングをする石井さん。

万願寺唐辛子の「苦味」が、ワインとの橋渡しに

さらに興味深かったのが、万願寺唐辛子とロゼワインの関係です。

「この料理は万願寺唐辛子を使っているので、少し苦味があります」

万願寺唐辛子は、一か所だけに使われているわけではありません。クスクスと米を合わせたシャリにも混ぜ込み、さらに別添えの味噌にも使用しています。

「クスクスを合わせたシャリの中に感じる苦味や、味噌から感じる苦味が、ワインと合わせた時にちょうどいい刺激になるんです」

この「刺激」が加わることで、「車海老の甘みや料理全体の味わいが、より引き立ってくると思います」と石井さん。

車海老とロゼの甘みを重ねるだけではなく、万願寺唐辛子の苦味がアクセントとなり、それぞれの味を際立たせます。

一皿の中にある「甘み」と「苦味」の両方が、ロゼワインとのペアリングに作用しているのです。

海老
車海老の頭の下には、万願寺唐辛子と味噌の特製ソースが添えられている。

「普通の粽寿司では面白くない」

そもそも、なぜ寿司にクスクスを合わせたのでしょうか? 石井さんに料理の発想を尋ねると、いかにも「真味」を追求する料理人らしい答えが返ってきました。

「普通の粽寿司にするだけでは、面白くないと思ったんです」

そこで石井さんが着目したのが、中近東などで親しまれている小さな粒状のパスタ「クスクス」でした。

「この時期、イタリア料理などでは、クスクスをサラダのように仕立てることがあります。そうした使い方を聞いて、寿司のシャリに混ぜてみたら、どうなるだろうと思いました」

クスクスを米と合わせ、すし酢で味付けすることで、「寿司のシャリ」として仕立てています。

エビの握り

家庭で車海老を味わうなら「氷水にさっと通す」

家庭で車海老を美味しく味わう簡単な方法を石井さんに聞きました。

「僕が一番好きなのは、生の車海老の殻をむいて、氷水にさっと通し、『洗い』にして食べる方法です」

新鮮な車海老であれば、氷水にさっと通すことで身が締まり、車海老ならではの甘みと食感を楽しめるといいます。

素材がよければ、余計な手を加えすぎない。料理人自身が好きだという、実にシンプルな食べ方です。

火を通すなら「1分だけ」

生食ではなく、火を通して食べたい場合にもコツがあります。

「沸騰した湯に入れ、1分だけさっと湯がくと、美味しく召し上がれます」

ポイントは、長く湯がきすぎないこと。短時間で火を入れることで、車海老ならではの甘みと食感を残します。寿司店などでも、同じようにさっと火を入れた海老を握りに使うことがあるそうです。

最後に

まだ暑さの残る日には、キリリと冷やしたチャコリ・ロサドとともに目にも鮮やかな車海老料理を味わう。そんな組み合わせなら、マンネリ気味だった食卓にも、新しい楽しみが生まれそうです。

今回、吉田さんの話で特に印象に残ったのは、「ワイン選びは思っているほど難しく考えなくてもいい」ということでした。

例えば、海老の赤い色からロゼを選ぶという「色合わせ」。そして、海老のような魚介に合わせるなら、「海の近くで造られたワイン」を探してみるという考え方です。

そうした考えを知ると、ワインに詳しくなくても、共通点を見つけて「こういう組み合わせならどうだろう?」と自分なりに選べる楽しみが生まれるように思います。堅苦しく考えすぎずに、肩の力を抜くことのできるコツが見えてきました。

■星のや京都「真味自在」

住所:京都市西京区嵐山元録山町11-2
TEL:050-3134-8091(星のや総合予約)
アクセス:阪急嵐山駅より徒歩約10分、京都南ICより車で約30分
HP:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyakyoto/

星のや京都
「星のや京都」にある「真味自在」では、ゆったりと流れる時間の中で、趣向を凝らした日本料理が楽しめます。

●ワイン監修/吉田まさきこ(ワイングロッサリー代表取締役社長)

ワイングロッサリー代表取締役社長。J.S.A.認定ソムリエ、シャンパーニュ騎士団公認 オフィシエ(将校)、アルザスワイン騎士団公認 シュヴァリエ(騎士)。
大学卒業と同時にワインの世界に足を踏み入れ、ヨーロッパを中心に世界各国のワイン生産地を数十回以上訪問。特にブルゴーニュ、シャンパーニュ、アルザスでの滞在が長く、得意分野としています。
過去のワイン講師歴は、合計200回以上、延べ4000人の受講者を数えます。HP:https://kyoto.winegrocery.com Instagram:@winegrocery_official

●取材・執筆/末原美裕

ワイン初心者がプロフェッショナルからの教えを受けながら、取材を通して、一つ一つワインの知識を積み重ねていく過程を記事にしている。和食の一品とワインの至高のペアリングをソムリエ・料理人とともに検証する過程を描く。記事を読んでいる方とともにワイン通を目指します。

Instagram:@kyoto_monokaki note:@kyoto_monokaki
Facebook:@kyotomedialine

●撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)

 

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