選・文/角山祥道
世界中から愛されるクマが生まれた理由
『「クマのプーさん」誕生物語 A・A・ミルンとE・H・シェパードの生涯とその世界』
ジェームズ・キャンベル著 富原まさ江訳

2200円
ハチミツ好きのクマのテディベア「プー」。陰気なロバの「イーヨー」。きかん坊な虎の子ども「ティガー(トラー)」。森のはずれに住む少年「クリストファー・ロビン」……。ご存じ、『クマのプーさん』のキャラクターだ。
ディズニー映画の影響もあってか、プーさんの人気は世界的に不動だ。原作の翻訳言語も30を超える。英語圏では、「極度に否定的または悲観的な人」の意味で「イーヨー」(eeyore)が収録されているほどで、英国のチャールズ国王の愛犬の名は、「ティガー」だ。フィギュアスケートの羽生結弦のプーさん好きも有名だ。
『クマのプーさん』がこの世に送り出されたのは、今からちょうど100年前、1926年のことだ。ではこのプーさんの物語は、どんなふうに生まれたのだろうか。
本書は、作家A・A・ミルンと、挿絵画家E・H・シェパードのふたりの生涯を丁寧にたどりながら、生まれるまでの物語とその後を綴った、第一級の評伝である。
父から子への愛
戯曲家だったミルンは、1920年に誕生した息子クリストファー・ロビンのために、子どものための詩を書き溜めていた。それが英国の雑誌『パンチ』に掲載される。このとき挿絵画家として選ばれたのが、シェパードだった。黄金コンビの誕生は、実は偶然だったのだ。詩の連載は評判を呼び、『クリストファー・ロビンのうた』として詩集に編まれた。
これが売れた。評伝家は、この売れ行きには「大人」の存在が大きかったと分析する。出版された’20年代前半は、第一次大戦の惨禍、スペイン風邪の流行、失業率の高さ……と社会全体が疲弊していた。大人が夢と空想の世界を請い、詩集を求めたのである。
この詩集に挿絵として登場したのが、クマのテディベア。これがのちのプーの原型だ。
ミルンは息子に語って聞かせた物語を『クマのプーさん』としてまとめあげた。ミルンは息子を想像の糧としたが、シェパードもまたそうだった。実はプーは、ロビンのぬいぐるみではなく、シェパードの息子のぬいぐるみを模していた。ロビンのキャラクター造形にも、息子を反映させた。
『クマのプーさん』は、父親と息子、という普遍的な関係の中から誕生した物語だったのだ。父から子への贈り物、と言いかえてもいい。ミルンは愛情を文字にし、シェパードはそれを絵で表現した。
100年経った今も愛されている物語の秘密が、ここにあった。
200年前の生まれ変わり騒動
『前世の記憶をもつ少年 全訳勝五郎再生記聞』
平田篤胤著 今井秀和訳・解説

1210円
今から約200年前のこと。文政5年(1822)秋、10歳に満たない少年・勝五郎が突然、前世の記憶を語りだした。自分は別の家に生まれ、6歳の時に天然痘で死んだのだという。半信半疑だった家族だが、少年の言う村を訪ねると、はたしてそこには13年前に息子を亡くした一家があった。
勝五郎の転生は大きな騒動となり、役人によって調書まで作られる事態に。これに大きな関心を寄せたのが、国学者の平田篤胤である。神々の存在や霊魂の世界を信じていた篤胤は、その実態に迫るべく、勝五郎とその周辺の聞き取り調査を行なったのだった。
後に小泉八雲が英訳して海外に広めた勝五郎転生物語を、現代語訳で届ける。
世界的パズル作家からの挑戦状
『アーサー王、消えた愛犬を探して スマリヤン先生のパズルパーティー』
レイモンド・M・スマリヤン著 川辺治之訳

2750円
奇術師、論理学者、数学者、ピアニスト、哲学者……。スマリヤンの肩書はひとつでは足りないが、世界中から愛されている、という観点でいえば、最も相応しいのは「パズル作家」だろう。
そのスマリヤンの未翻訳パズルブックの邦訳版がようやく出版された。本書は、行方不明になった愛犬を捜す過程で、さまざまな「問題」に行き当たるという趣向。簡単ななぞなぞから歯ごたえのある数学パズルや論理問題まで、読者を飽きさせない。
手始めに本書の中からなぞなぞをひとつ。《間違いと発音すると正しく、正しいと発音すると間違いになる言葉は何か》。答えは、「間違い」という単語だ。
※文中、敬称略。












