取材・文/鈴木拓也

公益財団法人 生命保険文化センターの調査によれば、老後の生活に不安を感じている人の割合は、男性が約80%、女性が約85%にものぼる。
不安感の要因として1つ挙げられるのが、「おひとりさま」であること。高齢者の一人暮らしは900万世帯を突破し、未婚率の増加でなお増えると見込まれている。
他にも不安の種は尽きず、足元がすくむような日々を送っている人は少なくないだろう。
そういった人たちに対し、「ご心配なく!」とエールを送るのは、ワタナベ薫さん。著書『おひとりさまの生存戦略』(扶桑社)では、不安を解消し、物心ともに豊かになる方法を提唱している。
胸に抱える不安をノートに書きだす
ワタナベさんの主業は、メンタルコーチ。本書では、コーチングの手法を活用したアドバイスが盛り込まれている。
例えば、老後の不安という漠然とした感情には、「ライフ・スクリプト」が劇的な効果があるという。
やり方は3つのステップに分かれていて、まずは「脳内ノイズの棚卸し」を行う。そのために用意するのは1冊のノート。そこに、「怖い」「どうしよう」といった「頭の中に渦巻く言葉」を書いていく。
この作業だけでも、不安は驚くほど鎮まるという。
次のステップは、「事実と幻の仕分け作業」。ノートを見て、たとえば「孤独死するかも」と書いてあったら、すぐにでも起きそうな事実なのか、幻(妄想)に過ぎないのかを考えてみる。ワタナベさんはいう――「多くの不安は、実は9割が『まだ起きていない幻』であることに気づくはずです」と。
最後のステップは、「新しい脚本の上書き」だ。「どうしよう」という反応に対し、何ができるかを具体的に考える。
たとえば……
「お金がなくて怖い(事実)」
→「本当は、死ぬまで安心して暮らしたい(望み)」
→「じゃあ明日、区役所の無料相談の予約電話だけ入れてみよう(アクション)」
このように、不安を「行動」に変換できた瞬間、それはもう不安ではなく「プロジェクト」に変わります
(本書46pより)
ワタナベさんによれば、不安を頭の中に置いたままにしておくと、どんどん膨れ上がっていくという。それがアクションに転じた瞬間、不安は消えるものだと解説する。だからまずは、不安の中身を紙に書き出してみることが重要となる。
人間関係の分散投資をする
ワタナベさんは、「おひとりさま」でなくとも、孤独感に悩むことはあると指摘する。
女性の場合、夫が定年退職していつも家にいるとか、子供が独立して実家を離れたタイミングが、それにあたるそうだ。
解決策は、家庭や職場とは異なる「ヨコのつながり」を持つこと。趣味のサークルといった、共通の関心を持つ他人が集まる場が、それにあたる。そうしたつながりに加わることで、孤独感は癒されるという。すぐに見つからない場合、SNSであいさつを交わす関係づくりから始めてもいい。
ワタナベさんはこれを、人間関係のポートフォリオ(分散投資)と呼んでいる。学生時代の旧友からオンラインサロンのメンバーまで、関わる相手をたくさんつくる。これが、家庭や職場でのつながりがなくなった時、心が折れないためのリスク管理となる。
他方、友人とシェアハウスで同居といった、他人との近すぎる関係性の構築は、すすめていない。何十年も生きていれば、譲れない生活リズムが出来上がっているはずで、その相違がもとで簡単に仲がこじれてしまうからだ。
代わりに目指すべきは「近居」。つまり、徒歩5分圏内の近所に住むことだ。ワタナベさんは、「この距離感こそが、大人の最も望ましい着地点」だと説く。そのうえで、食べ物をお裾分けするといった、小さな用事で交流を重ねる。この関係性こそが、「真のセーフティネット」になるという。
悩みを解消したら遊び尽くそう
では、不安にはじまる諸々の悩みが治まったら、次のステップは?
ワタナベさんは、「遠慮はいらない。遊び尽くしましょう!」と背中を押す。
だからこそ、これからの時間は100%「自分の喜び」のためだけに使ってください。あなたのために夕食を作らなくてもいい。行きたくない集まりに顔を出さなくてもいい。「こんなことをしたら、ワガママだと思われるかしら?」。思わせておけばいいのです。(本書213pより)
ただし、自由を謳歌する前にすべきことはある。
それは、「家・モノ・情報」の大掃除。何年も着ていない衣類、使われていない食器。こうしたモノは手放してしまう。昔の手紙のような、思い出の品も例外ではない。
その整理作業を経て、すっきりした室内を見渡せば、心も体も軽やかになると、ワタナベさんはいう。
次に見直すべきは夫婦関係。熟年離婚が増えているが、離婚までいかなくとも共同生活に気づまりを感じている場合は、どうすべきか。
ワタナベさんが、選択肢として挙げるのは「卒婚」だ。つまり、籍は残して同居は続けるが、お互い干渉せず、各々の人生を生きるというやり方だ。
たまに顔を合わせた時に「元気?」と声をかけ合う。別々の部屋で寝て、別々の趣味を楽しむ。自由でありながら、孤独感もない。なんと心地よく、最高の人生ではないでしょうか!
(本書225pより)
こうしたライフスタイルこそが、夫婦が穏やかに暮らすための秘訣。人生100年時代と呼ばれる今、本気で検討する余地はあるだろう。
そして、ワタナベさんは、50代からの人生は「下り坂」でも「余生」でもなく、むしろ人生最高の黄金期であると力説している。そうなるための手引きとして、本書は大いに役立つはずだ。
【今日の定年前後の人生に役立つ1冊】
『おひとりさまの生存戦略』

定価1760円
扶桑社
取材・文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











