写真・文/杉崎行恭

椿井大塚山古墳
(つばいおおつかやまこふん・京都府木津川市)

邪馬台国畿内説をひきおこした前方後円墳を電車が横断。

京都府南部の木造駅舎、棚倉駅から奈良街道を南に歩いた。まだ奈良に都があった頃、北陸と奈良を結ぶ官道だったという狭い道は、いまも古い集落のなかを曲がりくねるように続いている。やがて道沿いの空き地に「史跡椿井大塚山古墳」の石碑を見る。ここが今回のテーマ、近代と古代の衝突現場だ。

木造駅舎が残るJR奈良線棚倉駅。

明治時代、全国に幹線鉄道が建設され、鉄道の有用性が認識されるようになると、各地に私設鉄道の機運が高まってきた。そして、人々が歩いた旧街道をなぞるように線路が建設されていく。明治29年(1896)、この奈良街道に沿って私鉄の奈良鉄道が京都七条〜奈良間を開通させた。これがのちに関西鉄道となり、やがて国有化されて国鉄奈良線になる。

国の史跡になっている椿井大塚山古墳。

その奈良線を地図で見ると、京都府南部の城陽市付近から、ルートを山城盆地の東側に寄せ、木津川沿いの平地に対して比較的高度を保つ「山の辺」を走るようになる。そこには3世紀ごろに築かれた全長100mクラスの大型の古墳群があった。おそらく、明治時代には古墳と認識されてはおらず、斜面の一部に見られていたのだろう。奈良鉄道はこの1kmあまりの間で、椿井大塚山古墳、天上山古墳、そして御霊山古墳という三つの前方後円墳をぶち抜いている。

鉄道が前方後円墳を横断していることを示す図。

このうち天上山古墳と御霊山古墳は中世に城郭にされて、元の墳丘は姿を変えていたが、椿井大塚山古墳は前方後円墳の真ん中を線路が通過している。ちなみにこの古墳が学会に紹介されたのは明治38年(1905)のことだった。ただし地元では「藤原百川墓」という名で古墳の存在が伝えられていたという。このように椿井大塚山古墳は鉄道によって大きく改変されたが、今は国の史跡に指定されている。

それというのも昭和28年(1953)に国鉄が路線の拡幅を行った際に土中から石室が現れ、副葬品の三角縁神獣鏡などが多数出土したからだ。このとき、連絡を受けた京都大学考古学教室の職員がかけつけたときは石室が剥き出しになり、内部を埋めていた土砂や遺物が無造作に放り出されていたという。余談だが、工事の際出土した多数の銅鏡は工事関係者が持ち帰り、これが古美術商に流出して、のちに木津警察署によって回収されたという。

多くの発見があった「後円」部分、東側は公園になっている。

発見された銅鏡は40枚以上で、そのほかに銅剣や副葬品など約300点にも及んだ。これが報道されると、魏志倭人伝に「卑弥呼に銅鏡百枚」とあることから、にわかにこの椿井大塚山古墳が邪馬台国と関連付けて語られるようになった。さらに古墳を測量すると、前方後円墳西側の前方部分が三味線のバチ状になっていて、全体の比率が奈良県桜井市の箸墓古墳と相似形であることがわかった。約1700年前、築造にあたって同じ図面が使われたのだろう。ちなみに箸墓古墳は宮内庁治定陵墓のため発掘調査ができないが、「邪馬台国畿内説」では卑弥呼の墓の有力候補になっている。

明治の鉄道らしく、レンガ造りの奈良線をくぐるトンネル。

椿井大塚山古墳の現場を歩くと、前方後円墳の「前方」部分には古民家が並んでいて古墳には見えない。JR奈良線の古めかしいレンガのトンネルをくぐった東側は遊歩道が整備され、墳丘にのぼることができた。見晴らしのいい頂上からはゆったりと流れる木津川や、遠く生駒の山々を見渡すことができる。そして足元をJR奈良線の単線線路が墳丘を断ち割るように通過していく。もし邪馬台国が畿内にあったなら、卑弥呼もこの眺めを見たことだろう。

墳丘上から見た奈良線と民家が立つ前方部。

ところで明治時代に奈良鉄道は、もうひとつの古墳にもぶつかっていた。京都府城陽市にある久津川車塚古墳だ。こちらも墳丘の長さが180mにもなる大型の前方後円墳で、明治28年の鉄道建設工事では墳丘を削って工事用の土砂採取も行われた。その際に未盗掘の石室と石棺が発見され、のちにこの石棺は国の重要文化財に指定された。このように明治時代の鉄道は、かなり荒々しく線路が建設された。あの大森貝塚(東京都大田区)も新橋〜横浜間の鉄道建設で発見された。近代の鉄道が古代遺跡に当たって、歴史の扉が開かれた例は多い。

側面が線路になった久津川車塚古墳(左の森)。

写真・文/杉崎行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。

※杉崎の「崎」は正しくは「たつさき」

 

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