取材・文/鈴木拓也

今の日本では、仕事を持ちながら親の介護をしている人は約365万人いるという。そのうち、介護のために仕事を辞める人は、年間約10万人に及ぶ。
その中には、介護に関する諸制度を知らないばかりに、思い詰めて介護離職する人も多い。また、介護から手を離れても、簡単に再就職できず、生活苦に陥る人も少なくない。
キャリアと私生活を投げ打ってでも、親の介護にあたるのは正しいことと言えるだろうか。
「介護のために仕事を安易に辞めてはいけません」――そう言うのは、介護ジャーナリストの牛越博文さん。牛越さんは、監修した書籍『介護離職しない! 介護で仕事を辞めないための本』(Gakken https://hon.gakken.jp/book/2080268500)において、“介護リテラシー”の必要性を力説する。
介護リテラシーとは、介護に関する知識や適切な対応力を指す。これが土台にあることで、早まっての離職は回避できるという。
今回は、この介護リテラシーの基本のキについて、牛越さんにうかがった。
親が元気なうちからすべきこと
――現状、高齢の親は持病もなく、まだまだ元気。でも、先日帰省したら、めっきり年老いた印象に……この段階でしておくべき準備にどのようなものがありますか。
牛越博文さん(以下、牛越):まず、連絡網の構築が必要です。親族はもちろん、かかりつけ医や地域包括支援センターを含めた緊急連絡先を押さえておきましょう。
もう1つは、高齢の親の意思確認です。介護が必要な状態になったら、どのような希望があるかを聞き出しておきます。
言うまでもなく、介護にはお金がかかるので、この点もとても重要です。どこにどのくらい預金があるかを確認し、銀行カードの暗証番号を教えてもらいます。
そして、見落としがちなのは、ふだん服用している薬を、どの医療機関でもらっているかの把握。実家に帰ったら薬が散乱していて、どれを今飲んでいるのかわからないという話は、よく聞きます。
また、介護に関してどのような制度やサービスがあるか、大雑把でも頭の中に入れておくことです。これが、介護リテラシーの第一歩です。それがないと、介護関係者と話をするときに、「専門用語が多くて、何を言っているのかわからない」となりかねません。
地域包括支援センターで情報を得る
――いよいよ、介護が必要になった時点で、初動として何をすべきでしょうか?
牛越:地域包括支援センターに、どのような準備をしたらいいかを相談するのが、最初のアクションです。
その次は、要介護認定を受けた上で、ケアマネジャーを探す。あるいはレアケースですが、親がいきなり要介護3となれば、特別養護老人ホームなど施設に入れる準備を始めます。
どちらにしても、ケアマネや特養に関する知識を、あらかじめ頭に入れておきましょう。
また、要介護1~2で身体はさほど弱っていなくても、認知症で日常の動作が危ういなら、在宅介護や支援制度についてもよく学んでおかねばなりません。これを怠ってしまうと、「自分は離職して、在宅介護をしなければいけない」と早合点してしまうリスクが大きくなります。
公的介護保険は要介護認定の申請から
――親が要介護となった場合、介護保険の適用も当然考えますよね。その使い方の段取りを教えてください。
牛越:第一段階が、お住まいの市町村の役所で、要介護認定の申請をすることです。これには、親の保険証などが必要となります。
その後、役所の担当者などによる訪問調査が行われます。家に来て、心身の状況などを聞き取り調査するのですね。同時に役所は、主治医に意見書の提出を求めます。調査結果と意見書をもとに、要介護のどの区分かが判定されます。
認定を受けたら、ケアマネを決め、ケアプランを作ってもらいます。例外もありますが、ケアプランに応じて介護保険からサービスが現物支給されるわけです。介護される方の年金収入を加味した所得に応じ、1割、2割、3割の自己負担のいずれかとなり、形式的にはそれ以外の額は保険でまかなわれます。
ケアマネは自分で選ぶ
――ケアマネを決めるということは、何人かの候補の中から自分で選ぶということでしょうか?
牛越:はい、ご自身で選びます。正確には、ケアマネが所属する居宅介護支援事業所を選びます。地域には複数の事業所があるでしょうから、どこにするかを判断します。迷ったら、地域包括支援センターに相談してみるといいでしょう。
特定事業所加算を取得しているとか、認定ケアマネジャーが在籍しているといった点が、判断の目安となります。何より「親との相性」を重視してください。
ちなみに、派遣されてきたケアマネとやりとりしてみて、「どうも合わない」と思ったら、他のケアマネに変えてもらうこともできます。だから、自分で選べるというわけです。

サービス担当者会議でケアプランの中身が決まる
――首尾よくぴったりのケアマネを選んだとして、その方がケアプランを作成するわけですね。
牛越:そうなります。例えば、訪問介護とするか、通所介護とするか、訪問の頻度はどれくらい必要かといったプランの原案をまず立てます。
原案をもとに、「サービス担当者会議」といって、利用者とともに、ケアマネや主治医らを交えた打ち合わせがあります。ケアマネは、基本的に土日祝は休みなので、その日は半休をとる必要があるかもしれませんね。
会議では、こちらからの要望なども話しつつ、介護の内容を詰めていきます。ケアプランが固まった時点で、どの介護サービス事業者にするか決まってきますので、相性の良くない業者とならないよう、しっかり事前リサーチしておくことが重要です。
プランに基づいた介護が始まった後でも、サービスの内容変更は可能です。我慢せずケアマネと、よく相談しましょう。
【後編】につづく。
お話をうかがった方:牛越博文さん
介護ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。海外駐在中に介護関連の調査に携わる。厚生労働省所管(当時)の研究機構で介護保険制度の調査業務を担当するなど活躍し、いくつかのキャリアチェンジを経て、現在はオートル・モンド・インスティテゥート代表を務める。著書・監修書に『介護保険のしくみ』(日本経済新聞社)、『未来病院プロジェクト―生き残るための経営知識・診療報酬改定への対応』(中央経済社)など多数。監修を務めた最新の書籍は『介護離職しない! 介護で仕事を辞めないための本』(Gakken)となる。

お金・制度・休み方がよくわかる』
監修:牛越博文
1980円
Gakken
取材・文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











