文/印南敦史

写真はイメージです。

私は、同志たちとともに1983年に、「高齢化社会をよくする女性の会」(現・高齢社会をよくする女性の会)を結成。当時50代だった私は高齢者や介護の現場の方の声に耳を傾け、介護保険を実現するなど活動してきました。そうこうしているうちに私自身、前期高齢者を経て、正真正銘の後期高齢者に。「老い」の当事者になってみれば新たな発見もあり、「これは困った!」「これはありがたい!」「こういうことだったのか!」と、日々、驚いています。(本書「まえがき」より)

『増補版 老いの福袋 あっぱれ! ころばぬ先の知恵88』(樋口恵子 著、中公新書ラクレ)の冒頭に、著者はこう記している。

たしかに、そういうものだろう。好むと好まざるとに関わらず誰でも老いていくものであるし、若いころとは違うさまざまな出来事が起こったりもする以上は不安も尽きないに違いない。

しかしそれでも、「老いという未知の世界」へ冒険に乗り出すのだと考えて前向きに取り組みたい――そう考えているのだという。

ちなみに著者は現在93歳で、本書は88歳のときに刊行した書籍の増補版。88歳までに直面した『老い』の正体、その衝撃を驚きながらも受け入れ、残された人生を楽しく暮らすために書かれたものなのだそうだ。

なにしろ88ものヒントが集められているのだから、それだけで驚かされる。しかし、にもかかわらず無理なくすらすらと読めてしまうのは、いうまでもなく軽快な筆致のおかげだ。さまざまな経験を、時に笑い飛ばしながら軽々に綴っているからこそ、「そうだろうなー」と共感しながら受け入れることができるのである。

私は常々、「70代は新しい老いの働き盛り」と主張しています。いまの70代は、まだまだ元気です。80代以降を明るく健やかに過ごすためにも、70代までは「無茶はしないけど、少々の無理はしよう」くらいの気持ちで、前向きにはつらつと過ごしてほしいもの。70代に仕事をすることで、その先の経済的不安もやわらぎます。(本書103ページより)

これは、非常に示唆に富んだことばではないだろうか。男女差に関係なく、私たちはともすると還暦あるいは定年前後で人生を分けようとしがちである。

そのため、「いやー、少し前まではがんばれたけれど、さすがにこの歳ではね」などと、なにかと及び腰になってしまうかもしれない。

だが上述のとおり、この文章を書いた時点で著者は88歳なのである。そんな方から見れば、還暦世代などひよっこだろうし、このような前向きさを持ち続けている時点で充分に若い。だとすれば、下の世代である私たちももっと前を向くべきだ。

大切なのは、行動することである。

たとえば、もし仮にお金に困っていなかったとしても、老後の生きがいのために仕事やボランティアなどを行うべきだと著者は主張している。第一線を退くと動くことが面倒になるかもしれないが、自分から積極的に社会との接点を持つことが大切だからだ。

そうすれば、サラリーマン時代とはまた異なった人間関係が広がっていくはずで、もし家族がいなくなったとしても極端な孤独に陥ることを避けることができる。新たに知り合った人たちが、精神的な受け皿になってくれるわけだ。あるいは、自分が誰かの支えとなり、そこに充実感を得ることもできるかもしれない。

ですから働けるうちは働き、もしそれでも余力があれば、ボランティア活動など、社会参加をしてみてはいかがでしょう。
70代ならば、人を助ける活動も十分できるのです。そしてそれは必ず、自分に戻ってきます。(本書103〜104ページより)

ところで高齢者のなかには「ピンピンコロリが理想」だという方が多いが、実際はなかなかそうはいかないもの。著者も自分が“ヨタヘロ期”に突入し、そのことを実感したという。

高齢社会の重要な課題は、「健康寿命と実際の寿命をどれだけ近づけるか」である。だとすれば、そのためにはなにをすればいいのだろう。

よく言われるのは、「バランスの取れた食事」「適度な運動」「社会参加」の3点だ。それは間違いないだろうが、興味深いのは著者の以下のメッセージである。

男性にお願いします。それまで料理と縁遠かった人も、定年退職を迎えたら、第二の人生を歩むためのパスポートだと思ってぜひ料理を覚えてください。(本書103〜104ページより)

食事の用意は「妻におまかせ」ではなく、自分の食べるものは自分で用意できる「自立した人間」であるべきだということだ。などと偉そうに書いている私もじつは「妻におまかせ」なのだが、だからこそ、一刻も早くチャレンジしてみたいところだ。


『増補版 老いの福袋
あっぱれ! ころばぬ先の知恵88』
樋口恵子 著
1100円
中公新書ラクレ

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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