東京・上野の藝大アートプラザにて現在開催中の企画展「Energy エネルギーってなんだろう?」は、目に見えない「力」や「気配」、「熱量」など、広義のエネルギーをテーマとしています。東京藝術大学に所属または出身のアーティスト11名による新作を中心に構成されており、視覚・空間・身体を通してエナジーの存在を可視化・体感できる場を創出しています。

普段から触れているけれど意識することの少ない「エナジー」というものを、アートによって感覚的・直感的に捉え直し、「自分にとってのエネルギーとは何か」をじっくり考えてみませんか? ここでは、作品の写真を一部紹介しながら出展作家をご紹介します。

※コメントは、東京藝術大学のギャラリー「藝大アートプラザ」のWebマガジン担当による解説です。
※並びは展示風景のおおよその順路に従っています。

11名の作家と一部作品を紹介

片山 穣さん

片山穣さんは、蝋で布に描き、染めを重ねることで模様を生み出す伝統技法「ろうけつ染め」を用いて作品を制作。蝋は染料を弾き、工程の反復によって色やイメージが層として蓄積されていきます。本作ではその特性を活かして、都市に残されたグラフィティやステッカーの痕跡を重ね合わせています。作品タイトルは実在する場所の座標を示していまが、現在も同じ景色が存在しているとは限らない、と片山さんは語ります。剥がされ、上書きされていくイメージは、個人の存在の証であると同時に、街に潜む声にならない声でもある、そうした痕跡にフォーカスすることで、目に見えない人々のエネルギーを浮かび上がらせています。

山田雄貴さん

山田雄貴さんは、岩絵具や膠、麻紙といった日本画の伝統的な素材と技法を用い、花や恐竜などのモチーフを描いています。山田さんにとっての薔薇は、ここ数年数多くスケッチしたモチーフで、幼いころから親しんだ花でもあります。都電荒川線沿線の大塚や三ノ輪あたりで、時期になるとさまざまな品種が見られるそうです。本作は銀箔を用いたもみ紙や墨流し、マーブリングなどの技法を組み合わせながら、水面や鏡像のように揺らぐイメージとして構成されています。素材がもつ物質性や偶然性、自然の力を取り込みながら、可視化できない「存在」や「見えない力」を画面上に立ち上げることを試みているそうです。

瀬川祐美子さん

本作は、感情や記憶といった目に見えないものが、人と人のあいだで交わり、関係をかたちづくっていく過程を描いているそう。瀬川祐美子さんは、五感の体験が感情となり、それが他者へとひらかれていく連なりに関心を寄せてきました。この《おしゃべりしようよ》では、鮮やかな色彩が広がり、個と個のあいだに漂う気配が立ち上がっています。貼り込まれた麻紐は、境界でありながら、糸電話のようにどこかへとつながる線でもあります。「energy」とは、内側に満ち、渦巻く力で、感情や言葉、表情の源になるものだと瀬川さんは言います。「おしゃべり」という行為になぞらえながら、他者とつながる瞬間がひらかれているのです。

太田剛気さん

太田剛気さんが近年手掛ける絵画は「あかるい抽象」をコンセプトに、近代西洋絵画に範をとりながら、ポップでかわいい表現を展開しています。かつては架空の歴史をモチーフとしていましたが、近年は絵画そのものの強度に焦点を移し、非物語的な画面へと移行しています。本展では「energy」というテーマを、「ただよう」「スイート」といった形容と結びつけて捉え、「あかるい抽象」との関係の中で展開をしています。制作には油絵具を用い、厚塗りによる物質的な強度を画面に取り入れています。「暗い世相の中で、今こそ底抜けに明るい絵画を描きたい」と太田さん。

村尾優華さん

村尾優華さんは、ライフワークである登山の体験をもとに、日本画に多様な手法を融合させた絵画を制作しています。自身の脚と目で捉えた山の姿を拾い集めるように、山道の樹木や地衣類、道祖神、野生動物の気配や痕跡などがモチーフとして取り込まれています。自然がかたちづくる模様への関心は強く、それらはときにパッチワークのように画面に構成されます。写真上の右にある作品は、御岳山の神社に並ぶ狛犬がモチーフ。立ち並ぶ狛犬に感じられる不穏さと、思い思いのポーズをとる犬の愛嬌とが同時に立ち現れています。山に立ったときに感じる畏怖や圧、気配のようなもの――そうした感覚を、作家は「energy」として捉えています。

吉田 果歩さん

吉田果歩さんは、リアルな動物の姿を通じて、時間や感情、感覚に触れる作品を制作しています。本作は、作者が昨年冬に出会ったヤマトという一頭の馬がモチーフになっています。馬搬に使われるこの馬は、作業を終えたあと、地域の子どもたち八人を乗せて歩いていました。子どもたちの笑顔と、その力強い歩みは、恵みや幸福を思わせる光景として、作者の中に強く残ったそうです。本作は、約1mmの銅板を叩き、変形させて成形する鍛金の絞り技法によって制作されています。一枚の金属板が立体へと立ち上がるまでには、時間と技術が積み重なっていきます。「金槌の一振り一振りが大きなエネルギーとなり、作品を生み出している」と吉田さんは語ります。

作田 美智子さん

作田美智子さんは、ガラスの透過性を手がかりに、光と影そのものを作品として扱っています。ガラス内部に刻まれた線や質感は、光を受けて影となり、内部に風景のような像を立ち上げます。時間や光の角度に応じて、像は絶えず移ろい続けます。ガラスの内部に現れる奥行きは、トンネルや通路のように先へと続く気配を帯びています。そこには、不安と期待が交錯する感覚や、ふと心が静まる瞬間が重ねられています。作田さんにとっての「エネルギー」とは、強く発散するものではなく、静かに持続する状態であるもの。本作は、光の変化に応じて像を更新しながら、鑑賞者の感覚を緩やかに整え、ニュートラルな地点へと導く試みとなっています。

柿沼 美侑さん

柿沼美侑さんは土偶の制作を軸に、万物に魂が宿るというアニミズム的な思考のもと制作を行っています。自らの手で生み出したかたちに生物のような意思や気配を見出し、土を焼く行為を通じて古代の人々とつながるような感覚を覚えると柿沼さん。 技法面では、野焼き(約800〜1000度)という低温焼成を用い、融点の低い素材や独自に調合した土・釉薬を実験的に取り入れることで、表現の幅を拡張しています。焼成の過程には強い偶然性が伴い、火や熱のふるまいが作品に豊かな表情を与えています。 好奇心を原動力に、人類のものづくりの起源を見つめながら、野焼きの可能性を探求しています。

今井 完眞さん

今井完眞さんは、「生命」を主題に制作を行う陶芸家です。無機物である粘土が焼成によって変化していく過程を自然現象として捉え、土と火、そして人の手が関わる中で生じるかたちや質感をもとに造形を展開しています。京焼の系譜を背景に、多様な技法を取り入れながら制作を行っています。「リアルファンタジー」という考えを根底に、現実を超えた生命の気配、 現実と想像の境界にある世界を、陶という素材で形にすることを意識していると語ります。原寸大の鰐亀のダイナミズムや、タコと蟹が絡み合う様子は、生物に内在する力が表現されています。

藤田 野々さん

「布団を頭からかぶると、外の気配が遠のき、方向感覚が少し曖昧になる。」藤田野々さんは、そうしたごく身近な身体の出来事を出発点に、人物像をかたちづくっています。顔や身体は覆われ、性別や言語といった手がかりを遮断することで、他者の視線から距離をとり、静かに存在するあり方に関心を寄せています。一木造りにはこだわらず、制作の過程でかたちを加え、異なる素材を取り入れながら像が組み立てられていま。皮膚にあたる部分は滑らかに仕上げられ、他の部分との質感の違いが際立ちます。目に見えない力や気配、自身の内側から湧き上がるものが、静かな佇みに込められています。

佐治 真理子さん

佐治真理子さんは、金属による鋳造技法を用い、小さな人型の像や茶道具を制作しています。お面のような無表情の顔をもつ人型は、約16年にわたり取り組んできたモチーフ。あえて表情をそぎ落とすことで、しぐさや佇まいに意識が向けられます。「鋳金は素材を一度溶かして型に流し込む技法で、そこには再生の意味合いがあります。鋳造は古くから祭事の青銅器にも用いられ、祈りや願いのエネルギーと結びついてきました」と語ります。本展では、しめ縄や狛犬など、神社の景色をモチーフとしています。日常のなかでふと立ち止まり、気持ちを切り替える。そうしたささやかな瞬間に寄り添い、静かに支える存在として、本作はかたちをあらわしています。

※なお、紹介している作品は通販(銀行振込)での購入も可能です。以下のメールアドレスに問い合わせを。
メールアドレス:artplaza@and-next.jp

「Energy エネルギーってなんだろう?」詳細

会期:2026年3月28日(土)〜5月10日(日) ※展示入れ替えなし
定休日:月曜日(祝日の場合は営業、翌火曜日が休業)/5月4日(月・祝)は営業
営業時間:10:00-18:00
※営業日時が変更になる場合があります。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください。
入場料:無料
会場:藝大アートプラザ(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
公式Instagram / 公式X(Twitter) / 公式Threads
協賛:大塚製薬株式会社

 

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