ふと目にした海外ドラマのセリフや英語ニュースの一文。何気ない動詞が、思いがけないニュアンスで使われていて、思わず「へえ」とうなってしまう。そんな経験はありませんか?
今回は、日常の中で出会える、ちょっと意外でおもしろい英語の表現を取り上げます。
さて、今回ご紹介するのは “Seeing is believing.”です。

“Seeing is believing.” の意味は?
“Seeing is believing.” を直訳すると、
“see” は「見る」、 “believe” は「信じる」の動詞ですが、そこから転じて
正解は…
「百聞は一見にしかず。」
となります。
日本語でもおなじみのことわざですね。『ランダムハウス英和辞典』(小学館)にも、「((ことわざ)) 百聞は一見にしかず.」と書かれています。
何度聞くよりも、実際に自分の目で見るほうが信じられる、という意味になります。
例えば
“You must visit the museum yourself! Seeing is believing.”
(その美術館は実際に訪れてみるといい。百聞は一見にしかずだから。)
“Photos look amazing, but seeing is believing.”
(写真も素晴らしいけれど、やはり自分の目で見てこそ実感できる。)
動名詞ってなに?
“Seeing is believing.” のように、動詞に「〜ing」をつけると、名詞のように使える「動名詞」になります。「〜すること」と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。文章の中で主語・目的語・補語として使うことができます。
1. 動詞の意味を持ちながら、名詞の役割をする
【例文】
“Swimming is fun.”
(泳ぐことは楽しい。)
2. 主語や目的語になる
主語:
【例文】
“Reading is important.”
(読むことは大切です。)
目的語:
【例文】
“I enjoy reading.”
(読むのを楽しむ。)
3. スローガンや格言
【例文】
“Smoking is harmful. ”
(喫煙は有害だ。)
“Thinking is easy, acting is difficult. ”
(考えることはたやすいが、行動するのは難しい。/ゲーテの言葉)
動名詞はリズムがつきやすく、覚えやすいため、キャッチコピーやスローガン、また、警告や一般的な真理を表す文としても広く活用される表現です。

最後に
“Seeing is believing”(百聞は一見にしかず)という表現は、1609年に刊行された英語のことわざ集に初めて収められたといわれています。
もともとは、
“Seeing is believing, but feeling’s the truth.”
(見ることは信じること、だが感じることこそ真実だ)
という一文だったそうです。「見ることは信じること」の後に、「だが感じることこそ真実だ」と続いているのは、とてもおもしろいと思いました。
この「感じること」に通ずる一節を、イギリスの詩人ウィリアム・ワーズワース(1770–1850)の代表作『ティンターン寺院の数マイル上で作られた詩』にみることができます。
ワーズワースは湖水地方を愛し、素朴でありながら情熱を秘めた自然讃美の詩を数多く残しました。
Lines Composed a Few Miles above Tintern Abbey
By William Wordsworth…
For I have learned
To look on nature, not as in the hour
Of thoughtless youth; but hearing oftentimes
The still, sad music of humanity,
Nor harsh nor grating, though of ample power
To chasten and subdue.『ティンターン寺院の数マイル上で作られた詩』より
(略)
私は学んだ
(出典:100 Selected Poems, William Wordsworth (Poetry), Hardbound: Collectable Edition, Fingerprint! Publishing, 2018)
思慮のない若い日のように、自然をみつめるのではなく
時折、人間の静かで悲しい音楽が聴こえることを
それは荒々しくなく、耳障りでもなく
むしろ豊かな力で人を謙虚にし、静めてくれる
ワーズワースは久しぶりにワイ渓谷を訪れ、少年の日に目にした光景を思い出します。若い頃に見た自然は、ただ楽しい眺めにすぎませんでした。
けれど、大人になった彼にとって、自然はより深く心に響き、生命や無限へとつながる感覚を呼び起こします。この詩には、そうした静かな思索と豊かな感受が描かれています。
「見る」ことは大切ですが、そこからさらに「感じる」ことができれば、世界はよりひらかれるのかもしれません。
次回もお楽しみに。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
