感じのいい人に憧れる人は多いのではないでしょうか? 話しやすい、仕事がスムーズに運ぶ、いつも和やかな空気感を持つなど、一緒にいて心地が良く、誰からも信頼されている、そんな感じのいい人なら人間関係に悩むことも少なそうです。

では感じのいい人になるには、どうすれば良いのでしょうか? 千利休を祖とする茶の湯の家に生まれ、仏寺で修行した茶人の千 宗屋さんによると、いつも感じのいい人が実践しているのはたった6つの習慣。
「思いやる」「敬う」「感謝する」「きれい好きになる」「ご縁を大切にする」「我が身に置き換える」。
この6つの思考習慣を身につけることで物事がうまく動き出し、人間関係も良くなると言います。

そこで今回は、千さんの最新著書『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)から、千さんがいつも心に留めおきたいと思っている千利休による茶の湯の要点をまとめた「利休七ケ条」をご紹介します。そこには茶の湯だけではない、人づきあいのヒントとなる言葉が詰まっています。

文/千 宗屋

日本人の生き方のヒントが詰まった「利休七ケ条」

人の輪の中にあって、派手ではないけれど涼やかな存在感を持ち、たしかな信頼を得ている「感じのいい人」。そんな人たちの日頃の習慣の前に、私の専門分野である茶の湯の世界から、「人生のヒント」とも呼ぶべき言葉をご紹介したいと思います。

それは「利休七ケ条」と呼ばれるもので、千利休が教えた茶の湯の要点を、後世の人たちの手で7つに整理したものと言われています。

もともとは、茶席で客を迎える時に気をつけるべきことを説いた内容ですが、ひとつひとつ日常生活の中でもたいそう理にかなった言葉です。私自身も生きていく上での「人づきあい」の心得として、いつも心にとどめ置きたいと思っています。

それでは、七ケ条と私なりの意訳をご紹介しましょう。

1.花は野の花のように→繕(つくろ)わず自然な姿を心がけなさい

茶席に入れる花は、技巧を凝らしてわざとらしく飾ったりせず、野に咲いていたそのままの姿を移し替えなさい、という言葉ですが、これは、いつも自然にあるがままにふるまいなさいという意味でもあります。

茶の湯では「手なり」という言葉をとても大切にします。茶碗や茶道具をあつかう時にも、自然にすっと手を伸ばしたところにその物があるように、無理のないあるがままの所作が美しいとするのも、同じところを目指しています。

2.炭は湯のわくように→段取りをよくしなさい

茶席では、食事や菓子を出したあとにお茶を差し上げますが、その時にちょうど具合よくお湯が沸いているよう火加減を整えておきなさい、という言葉です。

これは「タイミング」のことを意味しています。日常生活を送る上で、さまざまな段取りをタイミングよく整え、常にベストな状態になるよう準備しておきなさい、という内容になります。

考えてみれば、人間が他の動物と一線を画した始まりは、火を使うという行為からでした。茶席というのは、炉に炭をおこして湯を沸かし、それを囲んで人が集うことが主体なので、人間の営みの原点を表しているとも言えるかもしれません。

3.夏は涼しく、4.冬は暖かに→心地よく過ごせるよう整えなさい

季節や気候にふさわしく、客が一番快適に過ごせるように支度を整え、その時にふさわしいもてなしをしなさいという言葉です。これは、必要な時に必要なものを用意し、必要なふるまいができること、そしてそれが過不足なく行えることの大切さを説いています。

ここにはまた、季節の花を入れたり、夏には打ち水をしたりガラスの器を使ったり、冬にはお饅頭を蒸して出したり、お茶が冷めにくい深い筒形の茶碗を使ったりと、現代の冷暖房に頼るだけではない心尽くしの工夫の大切さも読み取れます。

5.刻限は早めに→先を読んで行動しなさい

常にタイミングを推し量り、早め早めに準備をしてお客様を迎えなさいという言葉です。客を迎える側の準備もそうですが、招かれた側もまた、少し早めを心がけます。たとえば、茶席の開始が正午だとしたら、その15〜20分くらい前には到着し、身支度を整えて案内を待つといった具合です。

これは時刻のことばかりではありません。日本には昔から、季節を少し先取りする文化があります。この考え方は潔さにつながるものであり、人には潔さというのがとても大切な要素であると、私は考えます。

この言葉には、日常生活でも先を見て、先を読んで行動しなさいということも含まれていると言えます。

6.降らずとも雨用意→不測の事態に備えなさい

常に万端整えて、急な雨降りにも傘など備えておきなさいという意味ですが、これは、雨ばかりではなく、いついかなる不測の事態が起きたとしても、すぐに対処できるように用意を整えておきなさい、という言葉です。

日常生活にひきつけて考えれば、これは災害対策にまで広げて参考にすべき教えかもしれません。

7.相客に心をつけよ→人間関係に最大限に気をつかいなさい

準備万端整えて、よい茶席が用意できたとしても、肝心の客が楽しんでいただけたか、がいちばん重要なポイントです。つまり、相性の悪いお客様どうしを相客にしてはならない、という教えです。

言い換えますと、人間関係が何よりも大事であり、そこに最大限気をつかいなさいということを意味しています。人とのご縁を大切にすることは、茶席はもとより、生きていく上で最も重要なことではないでしょうか。

私が茶席にお招きする時も、お客様どうしの関係や相性にはたいへん悩みます。招く側、招かれた側の全員が心を通わせ合い、その日を楽しむことができれば、まさにそれがお茶の醍醐味(だいごみ)だと感じます。

また、本当に自分が心を許している方を一人だけお招きし、一対一でほとんど言葉は交わすことがなくても、その場の空気、空間、所作だけで互いの気持ちを伝えられ心を通わせ合えたら、それは究極のもてなしではないか、などと夢のようなことを常々思っているのです。

このように、「利休七ケ条」とは、人と人とのつきあいをあらためて考えさせてくれる言葉であることに、お気づきいただけたでしょうか。それでは現代に置きかえて、日常生活のちょっとした心がけで心地よくなる習慣を考えていきましょう。

写真提供/(公財)武者小路千家 官休庵

いつも感じのいい人のたった6つの習慣
著/千 宗屋
小学館 1,760円(税込)

千 宗屋(せん・そうおく)
茶人。千利休に始まる三千家のひとつ、武者小路千家家元後嗣。1975年、京都市生まれ。2003年、武者小路千家15代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名し、同年大徳寺にて得度。2008年、文化庁文化交流使として一年間ニューヨークに滞在。2013年、京都府文化賞奨励賞受賞、2014年から京都国際観光大使。2015年、京都市芸術新人賞受賞。日本文化への深い知識と類い希な感性が国内外で評価される、茶の湯界の若手リーダー。今秋、「人づきあい」と「ふるまい方」を説いた書籍『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。一児の父。Instagram @sooku_sen

 

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