食後の血糖値が急激に上がりにくい食事「低GI食」は、ダイエットにいいと注目されてきました。しかし、最新の研究では、低GI食を摂ることは「継続的な集中力や記憶力アップにつながる」ということがわかってきました。そこで、脳科学者・西 剛志先生の著書『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる低GI食 脳にいい最強の食事術』から、仕事や勉強の効率を上げる食事術をご紹介します。

文/西 剛志

記憶力に影響する、糖質から生まれた「脳グリコーゲン」とは

脳に関する研究は、最新技術の発達とともに、現在加速度的に進んでいます。脳のエネルギーに関しても、最近の研究で、今までの常識が大きくくつがえった例があります。

2012年の第26回管理栄養士国家試験でこんな問題が出ています。

Q 健常成人の脳における代謝に関する記述である。正しいのはどれか。

・脳は、グリコーゲンを貯蔵する (グリコーゲンとは、主に肝臓に貯蔵されている糖分のかたまり。カロリー不足のときに糖に分解されて体のエネルギーになります)

ほかにもいくつか選択肢はあるのですが、グリコーゲンが貯蔵されるのは、肝臓と筋肉だけということで、当時この選択肢は間違い(×)とされていました。

ところが、最新の研究によって、このグリコーゲンが脳にも貯蔵されていることがわかってきました。しかもこの「脳グリコーゲン(脳に貯蔵されているグリコーゲン)」は、私たちの記憶力などに、影響を及ぼしているというのです。

長期記憶も短期記憶も、脳グリコーゲンが大切

私たちの記憶は、あらゆる情報がいったん海馬(かいば)に送られて整理整頓され(短期記憶)、そのあと大脳皮質(だいのうひしつ)に送られて記憶として定着します(長期記憶)。つまり、海馬が働かなくなると、私たちは、新しい情報を何ひとつ覚えられなくなります。そして、この記憶の中枢である海馬に脳グリコーゲンが存在します。

記憶の実験から、脳グリコーゲンは、物事を覚えるときに消費されることが明らかになり、記憶力の原料であるともいわれているのです。脳グリコーゲンがないと、長期記憶として定着することもありません。脳グリコーゲンが貯蔵されずに、海馬がエネルギー不足になると、記憶に大きな影響が起きるというわけです。また、脳グリコーゲンは、実行機能(課題を段取りよくこなす能力)とセルフコントロール力にも強く関連しているという報告もあります。

そんな重要な役割を担う脳グリコーゲンを枯渇させないためにはどうすればよいのでしょうか。それは、食事で糖質を摂取し、脳グリコーゲンを貯めるしかありません
 
以上のことから考えると、糖質をある程度摂らなければ、長期記憶から短期記憶まで影響を受けてしまうといえるのです。

出典:『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる低GI食 脳にいい最強の食事術』

「血糖値スパイク」で血液中のブドウ糖が不足すると、脳もエネルギー不足を引き起こす

脳には糖質が大切ということですが、そうすると、脳を十分に働かせるためには、糖質をたくさん摂ればそれでよいのでしょうか?

単純に考えると、毎回の食事でエネルギーとなる糖質をたっぷり摂っておけばいい、ということになりますが、精密機械以上に精密な人間の体は、そう単純ではありません。実は糖質をたくさん摂りすぎると、逆に「血糖値スパイク」という現象が起き、脳のエネルギー不足を引き起こしてしまいます。

スパイクというのは、鋭く尖ったという意味で、シューズのスパイクの先端のように血糖値が急上昇して、急降下する様子を意味しています。

食べすぎて満腹になると、頭がぼんやりしたり、集中力が切れたり、やる気が起きなくなったり、簡単なミスをくり返したり……。そんな経験はないでしょうか。これこそ、食べすぎによる「血糖値スパイク」が引き起こす低血糖が原因なのです。どういうことなのか、見ていきましょう。

糖質が多く含まれているのは、白米、パンといったいわゆる私たちが主食として食べている食品です。砂糖やはちみつといった甘いもの。それらを材料として使ったケーキや甘いお菓子にも、糖質が含まれています。さらに、私たちの祖先の話で登場したでんぷんが含まれている食品にも、糖質は含まれています。いも類やかぼちゃ、せんべいなどもそうです。

食事で摂った糖質は、胃や腸の消化管で分解・吸収され、ブドウ糖として血液に流れ込みます。大量にブドウ糖が入ってくると、すい臓はインスリンというホルモンを分泌して、細胞に「糖を取り込め」と指令を出します。その結果、細胞が糖を吸収し、一時的に高くなってしまったブドウ糖の濃度(血糖値)が元に戻っていくのです。

インスリンについて、理解していただいたところで、話を本題に戻しましょう。なぜ、食べすぎると、エネルギー不足になるのか。これには、ここまで説明してきたインスリンが大きくかかわってくるのです。

たくさん食べて血中に大量のブドウ糖が一気に流れ込むと、すい臓が「間に合わない!」と慌てて、インスリンを大量に放出します。すると大量のインスリンの働きによって、急上昇した血糖値が急激に下がっていきます。これが「血糖値スパイク」です。

九州大学の研究では、40代以上の住民8000人に対して調査したところ、約2割の人にこの血糖値スパイクが見られたそうです。同じような状況が起きているとすると、日本全体では1400万人以上もいる計算となります。

血糖値スパイクで、血液中のブドウ糖が不足すると、脳もエネルギー不足を引き起こします。つまり、どんなにたくさんのエネルギーを補充しても、脳のエネルギーとなるブドウ糖が一気になくなってしまい、集中力、記憶力、実行機能、認知力、セルフコントロール力など、脳が司っている多くの力が衰えてしまう可能性があるのです。

出典:『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる低GI食 脳にいい最強の食事術』

低GIと高GIの見分け方

GI値とは、食後の血糖値の上昇度を表す指数です。100に近いほど血糖値が急激に上昇し、低いほど血糖値の上昇がゆるやかになります

1981年に、カナダのトロント大学のジェンキンス博士らが、同じ糖質量でも食品によって血糖値の上がり方に違いがあることを発見し、提唱しました。このGI値を利用して「血糖値スパイク」を起こさないように脳に糖質を安定供給し、脳がベストパフォーマンスを発揮できるようにするのが、「低GI食」です。

今日は1日パフォーマンスを上げたいというとき、どのようにGI値の高い食品と低い食品を見分ければよいのでしょうか。ポイントは3つ。

低GIと高GIを見分けるポイント

  • 甘すぎるものは要注意
  • 炭水化物は、白い食べ物より黒い食べ物を選ぶ
  • 食物繊維が多いものを選ぶ

これがおおよその見分ける基本になります。甘さは、そのほとんどがブドウ糖に起因しています。当たり前ですが、あまりにも甘いものを食べると、血糖値が急上昇します。砂糖をそのまま原料に使ったお菓子、甘すぎる果物も、それだけたくさんの糖質を含んでいるということになります。

スーパーなどで「糖度〇度」といった広告やチラシを見たことがあるかもしれませんが、糖度とは糖質がどれだけ含まれているかを表す数値です。15度なら、100g 中に15g の糖質が含まれています。
 
2つ目のポイントは「炭水化物は、白い食べ物より黒い食べ物」を選ぶこと。炭水化物は三大栄養素の1つで、さまざまな食品に含まれています。なかでもたくさん含まれているのが、米やパン、そしてうどん、パスタといった麺類などの穀類。私たちが日常、主食として食べているものです。炭水化物は糖質と食物繊維で構成されていますが、そのほとんどが糖質です。

しかし、含まれている糖質の量が食べ物の色によって異なるのです。例えば、お米なら白米よりも茶色の玄米、白い食パンより茶色のライ麦パン、うどんよりそばのほうがGI値は低くなります。精製されていない色のついた炭水化物は糖の消化吸収をゆるやかにしてくれる食物繊維を多く含むため、血糖値の上昇をゆるやかにしてくれるのです。砂糖も、精製された上白糖より、黒砂糖のほうがGI値は低くなります。

3つ目のポイントは、白米と玄米の違いのように、その食品に食物繊維がどれだけ含まれているか。

糖質がたくさん含まれている果物も、食物繊維が豊富な、例えばりんごやいちごなどは、食物繊維が少ないメロンやスイカよりもGI値が低くなります。GI値の面でみると、フルーツジュースや果物ジャムは糖質が高くなります。使用されているのが果汁のみになると、食物繊維が失われた食品になるからです。食物繊維が豊富とされる野菜の中では、でんぷん質を多く含むじゃがいもや里いもなどのいも類は高GI食品になります。

低GI食品がどんなものか、なんとなくわかっていただけたでしょうか?

もちろん、高GI食品も食べてよいですが、仕事や学習などここぞというときは、低GI食品をうまく使うことが大切です。例えば、肉や魚、乳製品などは糖質がそれほど含まれない低GI食品。積極的に摂りたい食べ物です。ただし、低GI食品だからといって、いくらでも食べていいというわけではないので食べすぎには十分気をつけてください。

* * *

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西剛志(にし・たけゆき)
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。1975年、宮崎県高千穂生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、知的財産研究所に入所。2003年に特許庁に入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など最先端の仕事を手掛ける。その後、自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、2008年に世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウを企業や個人向けに提供する会社を設立。現在は脳科学を生かした子育ての研究も行い、大人から子どもまで、才能を伸ばす個人向けサービスから、幼稚園・保育所の先生、保育士、保護者向けの講演会、分析サービスなどで10000名以上をサポート。横浜を拠点として、全国に活動を広げている。著作に『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)などがある。

 

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