「使う人がよりよい生活を送れるように」と、製作現場での職人達の思いはひとつ。

世界的な補聴器メーカーであるソノヴァ社と『サライ』が立ち上げた、補聴器による「きこえ」の改善を通じて生活の質を向上させていく取り組み『Sonova×サライ ACTIVE LIFE PROJECT』。 これまでに開催された様々なイベントで、最先端テクノロジーを搭載したソノヴァ社の補聴器の優れたクオリティは、アクティブシニアの方々から非常に高い評価を獲得している。

さて、補聴器には主に、耳の後ろに本体を掛ける「耳かけ型」と、耳の穴にすっぽりと収まる「耳あな型」がある。耳かけ型がここ数年のトレンドになっているが、ソノヴァの主要補聴器ブランドである「フォナック」では、耳かけ型に加えて、完全オーダーメイドで製造される個々の耳の形にぴったり合わせた、耳あな型補聴器も根強い支持を集めている。

中でも、昨年9月に登場したフォナック初の充電式フルオーダーメイド補聴器『バート I-R』は非常に好評で、発売当初から予想を上回る反響を呼び、本モデルをきっかけに補聴器を装用するユーザーも急増しているという。

充電式フルオーダーメイド補聴器『バート I-R』はこちら。一人ひとり全く異なる耳の穴や形に合わせて作られるので、補聴器の形状やスピーカーの位置などがすべて違ってくる。

オーダーメイド補聴器をゼロから作る「天王洲オペレーションセンター」を訪ねて

そんなソノヴァの耳あな式補聴器の製造拠点となるのが、東京・品川区という都心にある「天王洲オペレーションセンター」だ。ソノヴァ・ジャパン本社と同じビル棟にあり、製作から検品、梱包、配送までを一貫で行っている。今春にリニューアルを行い、センター内は各製作プロセスに応じてエリアが最適にゾーニングされ、作業効率を最大限に高める生産レイアウトを実現。総勢80名の技術者が、日々補聴器作りに取り組んでいる。

オーダーメイド補聴器は一体どのように作られているのか。「天王洲オペレーションセンター」を訪ね、ふだんは見ることのない、もの作りの舞台裏をじっくり見学させてもらった。

今回、現場を案内してくださったのは、長きにわたって補聴器作りに携わった製造部門の技術者である同社オペレーション部のプロダクション シニアマネージャーの松島匠さんと、プロダクション マネージャーの三好則和さん。お二人のナビゲートのもと、技術者のこだわりが詰まった各工程の現場を回った。

(左)オペレーション部 プロダクション シニアマネージャーの松島 匠さん。(右)オペレーション部 プロダクション マネージャーの三好 則和さん。

耳型が届いてから、補聴器を製作するまでの工程

1.耳の型どりをチェック

全国の補聴器販売店から送られてくるのが、ユーザーの「耳型」。このスタートから、職人たちは使う人へ思いを馳せていく。

オーダーメイドによる耳あな型補聴器の製造は、まず補聴器専門店でのユーザーの耳の型どりから始まる。安全なシリコン素材の注入剤を使用し、作業はわずか2〜3分で完了。型が固まったら耳から取り出され、この「天王洲オペレーションセンター」へと届けられる。同センターでは、この届いた耳型をベースに、精密な製作工程を開始する。

「オーダーメイド補聴器を作る上で、最も重要な土台となるのがこの『耳型』です。販売店の方々も非常に高い技術を持って、日々お客様の耳型を取ってくださっています。この補聴器作りは私たちメーカーだけの仕事ではなく、販売店様との共同作業によって初めて成り立つものだと感じています」(松島さん)

2.耳型のスキャン

耳型から不要な部分は、手作業でカットする。

「天王洲オペレーションセンター」で行う最初の工程は、販売店から届いた耳型を整え、3Dスキャンしてデジタル化するという作業。スキャンを行う前に、耳型の不要な部分を手作業でカットして、ユーザーの外耳道を忠実に再現した状態を作成する。これを3Dスキャナーにかけ、パソコン上へ精密な3Dデータとして取り込んでいく。

「耳型は作り直しがききませんから、カットする作業も多くの経験を積み、耳の構造を熟知した技術者が担当します。まれに耳型の一部が欠損しているケースもありますが、その際は技術者が本来の形状を予測し、シリコン剤を盛り足して修復することもあります」(松島さん)

3.モデリング

デジタルな作業だが技術者の経験値が最も必要となる。

次の工程では、パソコン画面上で設計・編集ができる「CAD(キャド)」を使い、3Dデータを見ながら補聴器のシェル(外殻となるケース)を設計していく。シェル内部に補聴器の心臓部を詰め込むため、どの位置にマイクや電池を配置すれば、一番小さく、かつ耳に快適に収まるのかを、専門の技術者が1ミリ以下の単位でシミュレーションしながら、慎重に形を決めていく。

「耳あな型を注文される方は、装用時の“目立たなさ”を重視されているため、正面からはもちろん、斜め横から耳を見ても、補聴器が見えにくい設計を大前提としています。これがCADデザインにおいて最も気を配る点です。さらに、外耳道にある2つのカーブに引っかかることなくスムーズに出し入れができ、かつ耳の中でズレずに安定する形状をゴールに置きます。

ある程度のガイドラインは決まっていますが、最終的にはモデラーが3Dデータを見ながら個人の耳に合わせて詳細を判断していき、形を作り上げます。ここは職人技の領域であり、オーダーメイド製品を作る上で最も重要な工程です」(松島さん)

4.3Dプリンターによるシェル製造

3Dプリンターで作成されるシェル。

CADで設計されたデータは3Dプリンターへと送られ、肌触りの滑らかなシェルが形作られる。

「素材には医療用にも使われるアクリル樹脂を使用し、窒素ガスを充填して硬化させていきます。成形にかかる時間は20分ほどです。この段階で、ご注文時に選んでいただいたシェルの色も反映されます。肌馴染みが良く目立ちにくいため、約7割の方がベージュを選ばれますが、このほかにも黒、クリア、赤/青が選択可能です。左右で色が異なる赤/青は、装用される方がひと目で左右を識別できるようにするためのもので、補聴器の世界では右耳用が赤、左耳用が青と世界共通で決まっています」(三好さん)

5.刻印・くり抜き(DCC)

レーザーで彫った刻印に色を重ねる作業は手で行われる
補聴器のフタとなるフェイスプレートをくり抜く。

シェルが完成すると、次はレーザー照射マシンを使ってシリアル番号などの刻印に進む。オーダーメイド補聴器は一つひとつ形状が異なるため、レーザーを照射する高さも、その都度ジグ(治具)を使って手作業で微調整しなければならない。刻印作業を行うシェルは1日に約150台。正確かつスピーディーに進めるには、高い熟練度が求められる。

「刻印と同じ機械を使って、モデリングの形状に合わせて、補聴器のフタとなるフェイスプレートをくり抜く『DCC』という作業も行っていきます」(三好さん)

6.組み込み

超小型のシェルに電子部品を配置していく。

続いて、できあがったシェルに精密な電子部品を組み込んでいく。レシーバーに専用のチューブを接着し、ここからシェルの中にマイク、アンプ、レシーバーなどの精密な電子部品を組み入れていく。

「基本的にはCADでのモデリング配置を参考にしますが、最終的な位置決めはベテラン技術者の経験に委ねられます。特に、音が出るパーツであるレシーバーは、最大出力にしても内部でハウリングを起こさない位置を手作業で見極め、固定していきます。一度シェルの中に部品を収めてしまうと外からは位置が見えなくなるため、ここも熟練の技術者が担当する重要なステップです」(三好さん)

7.削り

経験や感覚を頼りにサンドペーパーで削っていく。

組み立て直後は、くり抜いたプレートにシェルが乗っかっている状態。ここからは、はみ出た余分な部分を手作業で削り、段差をなくして平らにしていく。

「入り組んだ部分をくり抜いたり、現物の状態を細かく見極めたりしながら、サンドペーパーを使って1台ずつ削り上げていきます」(三好さん)

8.ラッカーリング

ラッカーに使用する液体は、ヨーロッパの非常に厳しい安全規格をクリアした人体への影響に配慮したもの。

最後の仕上げとなる「ラッカーリング」の工程。余分な部分の削りを終えた後、表面の汚れをアルコールで念入りに拭き取る。その後、塗りムラや気泡、塗り残しがないかを目視で厳しくチェックしながら、手作業で専用のコーティング液を塗っていく。

「塗布した液体が流れてしまわないよう、すぐに紫外線照射器という、塗った部分を固める特殊なライトをあて、窒素ガスを中に注入して固めています」(三好さん)

9.品質検査

品質検査でも人の五感が非常に重要となる。

いよいよ最終工程となる、音響特性や本体の検査を行う。補聴器1台1台が本来の性能を発揮できているかを、独自開発された専用の検査ソフトウェアと検査装置を使って確認。あらゆる周波数の音が正しく出ているか、マイクは正常に反応しているか、スピーカーの音に歪みがないかなど、すべてのデータを徹底的にチェックしていく。周囲の雑音を遮断する防音ボックスに補聴器を入れ、測定にかかる時間は約3分。

「データ測定だけでなく、外観の仕上がりも手作業でチェックします。ルーペを使って傷や汚れがないかを確認し、プログラムボタンの反応もテストします。最終段階ということもあり、チェックの基準は非常に厳格です。音響テストや動作チェックで少しでも基準値に満たないものがあれば、この段階まできていても、すべてNGとなります。万が一エラーが出た場合は、先ほどの組み立て工程へと戻り、部品の交換や位置の微調整といった修正作業を再び行います」(三好さん)

この品質検査を経てようやく製品となり、梱包、発送という流れになる。通常は型取りから約1週間〜10日で手元に届くという。

先端技術と真心が紡ぐ--ソノヴァが誇る至高の「きこえ」とは

オペレーション部 オペレーションディレクターの瀬戸口 慎さん。

製造現場というと、一般的には機械が自動で部品を組み立てる光景をイメージしがちだが、今回の見学を通じ、「天王洲オペレーションセンター」で行われているオーダーメイドの補聴器作りは、一人ひとりの耳の形に合わせるため、人間の高い技術や技能に負うところがとても大きいことがわかった。

これまで日本と海外、99社の工場に足を運び改善してきた、同社のオペレーションディレクター瀬戸口 慎さんもソノヴァの製造体制を、現代に生きる日本の職人たちの世界そのものと語る。

「例えば重要な工程の一つであるモデリングでは、すべてのお客様の耳の形が異なるため、モデラーが毎回一つひとつ異なる設計図を描いていきます。基本的なマニュアルは存在しますが、最終的にはそれぞれの補聴器に合わせて微調整を行います。また、その後の削りやラッカーリングなども基本的にはすべて手作業です。いわば、最先端の『工業製品』でありながら、その中身は人の温かみのある『手作り』のような世界。マニュアルだけではどうしてもカバーできない部分があるからこそ、それぞれの工程で経験豊かな熟練の技術者が若手を育てていく、昔ながらの『師弟関係』に似た文化も息づいています」(瀬戸口さん)

 もの作りの美学として、伝統工芸さながらの『匠の息吹』を感じるともいう。

「日本のもの作りの面白さは、伝統的な匠の精神が今なお引き継がれている点にあります。たとえば漆塗りは、お吸い物のお椀などの食器でありながら、わずか10ミクロンの薄さで塗りと研磨を何度も繰り返し、鏡面のような美しさに仕上げます。私たちも同様に小指の腹で触れたわずかな凹凸を感じ取り、滑らかになるまでラッカー塗装をしています。補聴器として要求される基本機能を超えた「人生の伴侶」として“使い手に喜んでほしい”という純粋な想い。それこそが、日本の伝統から脈々と受け継がれてきたもの作りにこだわるソノヴァの強みなのだと感じます」(瀬戸口さん)

「天王洲オペレーションセンター」を見学して強く感じたのは、もの作りに関わるすべての技術者が、“聞こえのバリアがない世界の実現〟というソノヴァのビジョンにリスペクトをもってもの作りに切磋琢磨し、ソノヴァの補聴器に深い愛情と、「ユーザーにより良いものを届けたい」という真心にあふれていることだ。世界にたった一台しか存在しない自分だけのオーダーメイド補聴器は、最先端の技術と、ユーザーが喜ぶ顔を思い浮かべながら作る技術者たちの熱い気持ちによって作られていた。

『フォナック バート I-Rとは』

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高機能かつ充電式の耳あな型補聴器。耳の形や聴力に合わせ最適な音質、形状、フィット感をAIが分析しすべてオーダーメイドで製作する。取り込んだ3Dデータから耳の穴の構造を1600箇所以上も解析し、耳本来の形による音の集まり方を計算することで、それぞれの人の耳に最適化された音の方向感や、よりシャープな聞こえ方を実現する独自の「バイオメトリックキャリブレーション」設計を採用。「きこえ」の精度も大幅に向上している。
24万9000円(片耳・非課税)~。

問い合わせ先/ソノヴァ・ジャパン株式会社(フォナック補聴器)0120・06・4079

 

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