
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第29回。秀吉(演・池松壮亮)と光秀(演・要潤)の決戦の火ぶたが切って落とされました。
編集者A(以下A):なんといっても衝撃的だったのは、山崎の戦いで敗北した光秀が生け捕りにされて、秀吉の面前に連行されてきたことです。「史実重視派」の視聴者の方はモヤモヤしたかと思います。私はこの「密会」場面をみて、1976年の大河ドラマ『風と雲と虹と』主人公の平将門(演・加藤剛)と藤原純友(演・緒形拳)が京で密会する場面を思い出しました。同作は、作家の海音寺潮五郎さんの原作をもとにしていますが、藤原純友が平将門に国家の政(まつりごと)の根幹だった公地公民の制のはずが、皇族や貴族、官位の高い人々が公の土地を片っ端から自分の私有地にしている問題を熱く語った名場面になりました。
I:2024年の『光る君へ』では紫式部(演・吉高由里子)と清少納言(演・ファーストサマーウイカ)が仲良しという設定でしたし、2004年の『新選組!』では、近藤勇(演・香取慎吾)と坂本龍馬(演・江口洋介)らが江戸で顔見知りだったという展開でした。やっぱり物語の中で会わせたくなっちゃうんでしょうね。
A:ということで、秀吉と光秀をこのタイミングで対面させるという展開はありだと思います。長い大河ドラマの歴史の中で、極めて斬新な場面になりました。反発する人も多いかもしれませんが、「もしふたりがこのタイミングで対面したらどんなやり取りをするのだろう?」という話題のタネには恰好のシチュエーションだったと思います。秀吉は光秀に対して、なぜ上様を討とうと思ったのか尋ねていました。なかなか奥深いやり取りだったかと思います。
I:光秀は、「わしが見たかったのは足利義昭様の世じゃ」と、はっきりと言明しました。
A:もともと足利義昭(演・尾上右近)を将軍にするために信長(演・小栗旬)に近づいたわけですからね。光秀は、足利の幕府を再興したかったのでしょう。往々にして義昭はダメ人間のように描かれることが多いですが、幼少の頃から20年以上、興福寺の塔頭一乗院で修行した身ですからね。よくよく考えたらダメ人間なはずがない。
I:ダメ人間だったら、信長におんぶにだっこしていたほうがいいと察知したと思います。信長と衝突したのは、自分なりの「政権構想」があったのかもしれないですね。
A:尾上右近さんの義昭、要潤さんの光秀。光秀が主人公だった『麒麟がくる』を除けば、過去最高の「義昭・光秀」コンビだったと思います。もっとふたりのやり取りを見たかったです。秀吉と光秀のやり取りを見て、そんなことを思いました。そして、そんな義昭に思いを馳せて、鞆の浦にでも行ってみようかと思ったりしています。

本能寺でさらされた光秀の首
I:実際の光秀は、「本能寺の変」後、どんな感じだったんでしょうか。
A:実際の光秀は、公家の吉田兼見と対面した際に、変の子細を語り合ったと『兼見卿記』に記されています。同書には光秀が実際に何を語ったのか記されていませんが、「今度謀反之存分雑談」と記しています。どんなことを語り合ったのか、もっと詳しく書いて欲しかったですね。
I:劇中の秀吉は、農民に襲われた首級が秀吉陣営に届けられたということにしようと家臣に命じます。ここで実際の史実と辻褄が合うような流れになりました。
A:劇中では触れられませんでしたが、光秀の首は本能寺でさらされたそうです。さらに光秀に遅れて斬首された斎藤利三の亡骸とともに粟田口で磔刑に処されたといいます。わざわざ首と胴体を縫い合わせて、裸のまま磔にされたといわれます。当時としては当たり前の作業です。
I:光秀が本能寺でさらされたというのは、感慨深いですね。本来、信長の亡骸をさらすことができていれば、こんなことにはならなかったのですけどね。
A:多くの庶民もこの磔刑に処された光秀のことを見たはずです。それを見た庶民の雑感は、今日に伝わっていません。さて、「本能寺の変」から山崎の戦いを経て、光秀が討たれるまでの一連の流れに関心がある方は、『明智光秀』(中公新書/福島克彦著)がおすすめです。2020年の『麒麟がくる』の際に刊行されたものですが、著者は山崎の戦いの合戦場に近接する大山崎町歴史資料館館長です。
I:俗に明智光秀の「三日天下」ということがいわれます。
A:6月2日早朝に信長を討った光秀ですが、秀吉軍との戦いに敗れ、討たれたのは6月13日です。わずか11日間の「天下」だったことになります。
光秀と利三にデフォルメされたのはなぜか?
I:ところでひとつだけ気になったのですが、光秀の陣では、光秀と斎藤利三(演・内藤剛志)がふたりだけでした。いつもは明智秀満や藤田伝吾、溝尾庄兵衛などの重臣が同席しているんですけれどね。
A:確かに「デフォルメ感」がありましたね。これは意図的なものでしょう。予算面なのか、敢えてふたりだけにしたのか、気になりますね。
I:そして番組終盤、秀吉が小一郎に「ここだけの話」として、すごいことを口にします。自分が信長の意思を継ぐ、というのです。Aさんが前から気にしていた、「本能寺の変」後のキャラ変、なるでしょうか?
A:目つきが違っていましたよね。それにしても要潤さんの明智光秀の退場、わかっていても惜しいです。以前、『麒麟がくる』の時に光秀ゆかりの地を巡りましたが、久々に京都の光秀の首塚にお参りしたくなってきました。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











