最近よく聞くようになった“腸活”。人間だけでなく、犬にも効果的だということはご存じでしたか? 犬の寿命は平均で14、15歳ぐらいと言われていますが、少しでも長くそばにいて欲しいという気持ちは飼い主なら誰でも思うものです。
そんな要望に応えて林美彩獣医師が考案したのが犬に長生きしてもらうためのご飯。林先生は病気にならない体作りを目指し、東洋医学を取り入れた代替療法を提唱しています。今回は最新刊『獣医師が考案したワンコの長生き腸活ごはん』(世界文化社)から、腸活に効く成分や、むかない成分をまとめてご紹介。犬とのより良い生活のために参考にしてみてください。
文/林 美彩
ワンコの健康長寿のために……腸活に効く成分は?
日々の食習慣を見直しながら、いつまでも健康的な体でいられるよう腸活におすすめの成分を紹介します。
【食物繊維で腸活を!】
ワンコの腸活は、「畑を耕して、土の状態をよくする」というところから始まります。
まずは大腸の状態をよくして、さまざまな腸内細菌に棲みついてもらい、バランスよく働いてもらう必要があるのです。そのための畑づくりに欠かせないのが、不溶性と水溶性の2種類に大別される食物繊維です。
水に溶けない不溶性食物繊維の代表的な成分は穀類やいも類、豆類、野菜類、きのこなどが挙げられます。主な役割は、便のかさ増し。便の量が増えることで腸管の螺動が活発になり、便通を促します。そして、腸管の掃除も担います。大腸の中を移動しながら腸壁にくっついた便カスを絡め取ってくれます。
一方、水溶性食物繊維には、海藻のフコイダンやごぼうのイヌリンなどが挙げられます。主な役割は便を柔らかくして、なめらかな便を排出すること。また、腸内の細菌のエサとなることも挙げられます。大腸に棲む有用菌の多くは、水溶性の食物繊維が大好物。水溶性食物繊維が多く届けば、こうした腸内細菌はそれをエネルギー源に自分たちの活動や勢力を広げていきます。
ただし、食物繊維はワンコにとって消化が悪いのが特徴です。ワンコに与えるときは、必ず細かく刻み、基本、加熱してからあげましょう!
【今、注目しているのはレジスタントスターチ】
そして、わたしが注目しているのは、レジスタントスターチです。体内で消化されない(=レジスタント)でんぷん(=スータチ)のことで、「難消化性でんぷん」とも呼ばれています。
でんぷんでありながら、食物繊維不足を補うといわれている成分です。さらにすごいのは、ただの食物繊維ではなく発酵性食物繊維ということ。食物繊維という言葉は、よく聞くかと思いますが、〈発酵性食物繊維〉という言葉は、まだ耳慣れない人が多いかもしれません。
発酵性食物繊維は、善玉菌のエサとなって発酵し増殖をサポートするとともに、善玉菌に有用物質(短鎖脂肪酸)を作り出したり、腸内を弱酸性に保って悪玉菌の増殖を抑え、腸管のバリア機能を高めて免疫機能を調整してくれたりします。また、脂肪細胞に働きかけて脂肪の蓄積を抑えたり、血糖値の上昇を抑えたりする作用から肥満を防ぐ効果も!
ワンコの腸にとって減らすべきは? 腸活にあまり向かない成分は?
人間がよく食べる食材でも、ワンコにとっては大量に食べないほうがいい成分はたくさんあります。
今、世界でも「腸活にはよくないのでは?」と話題となっている成分をお教えします。
【カゼイン(α型)、乳糖】
主に牛乳やヨーグルトなど。カゼイン(a型)を頻繁に摂取すると、下痢・便秘などの腸の症状が起きるワンコは注意が必要です。なぜなら、消化できないカゼインが多くなり、腸の炎症を招き『リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)』が起こるから。さらに牛乳やヨーグルトに含まれる乳糖によって下痢を起こすことも! ちなみに山羊のミルクにはカゼイン、乳糖の含有量が少ないのでおすすめです。
【添加物や酸化脂質を多く含むもの】
添加物は人間にとっても避けたい存在です。良質な脂質も酸化してしまうと体内の炎症を加速させてしまいます。
【グルテン(レクチンの一種)】
グルテンフリーをしているワンコも増えていますが、その理由はグルテンを摂取すると、ゾヌリンというたんぱく質が過剰に分泌され、腸に穴があいてしまっている状態に(リーキーガット)。その結果、本来、腸の中にあるべき食べ物や腸内細菌が細胞のすき間をすり抜けて、腸の外に出てしまうことが原因となり肥満やアレルギーといった症状を引き起こします。涙焼け、外耳炎、肢先をなめるなどの症状もグルテンが影響しているかもしれません。小麦の大量摂取は、腸活を重要視するなら向いているとはいえません。
ワンコの腸内環境に悪影響を与えるかもしれない原因を紹介します。
【レクチン】
植物性たんぱく質の一種で、アメリカではレクチンフリーという言葉も流行りつつあります。豆、玄米、そば、じゃがいも、トマト、なす、きゅうり、とうもろこしなどの食材にも含有されています。レクチンが恐れられている理由は、『難消化性(消化されにくい)』であること。食べすぎや体質に合わなかった場合、腸にくっついたままになってしまい、腸に炎症を起こして、リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)を発症することも! ワンコが食べたら、便秘や下痢が多いという場合は避けるようにしましょう。心配な方は獣医師に相談を!
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『獣医師が考案したワンコの長生き腸活ごはん』
著/林美彩 監修/古山範子
世界文化社 1,925円(税込)
林 美彩(はやし・みさえ)
獣医師。毎日の食べるもので体が作られていくという両親の教えのもと、学生時代に飼っていた愛犬・茜を迎えたことをきっかけに、手作り食を学ぶ。大学卒業後は、西洋医学、代替療法両方の動物病院の勤務、サプリメント会社での相談対応に従事。西洋医学と代替療法の良いところを融合させた治療、病気にならない体作り、家庭でできるケアを広めるため、2018年3月に「chicoどうぶつ診療所」を開院。現在、全国より数々の相談を受けている。獣医保健ソーシャルワーク協会、比較統合医療学会所属。
古山範子(ふるやま・のりこ)
獣医師。麻布大学獣医学部獣医学科卒業。愛猫と保護猫と暮らし、手作り食を中心に犬猫の養生法を提案する、「犬猫養生Harmony」を主宰。中山動物病院(茅ヶ崎市)非常勤獣医師。アニマルホリスティックケアセラピスト養成講座講師。日本獣医ホメオパシー学会認定獣医師。日本ペット栄養学会会員。日本獣医動物行動研究会会員。国際薬膳師。獣医保健ソーシャルワーク協会所属。