「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉がある。『大辞泉』(小学館)によると、親が生きているうちに孝行しておけばよかったと後悔することだという。では親孝行とは何だろうか。一般的に旅行や食事に連れて行くことなどと言われているが、本当に親はそれを求めているのだろうか。

ここでは家族の問題を取材し続けるライター沢木文が、子供を持つ60〜70代にインタビューし、親子関係と、親孝行について紹介していく。

東京近郊のマンションに住む光則さん(75歳)は「外ヅラの親孝行なら、ウチの息子(43歳)は100点満点だ」と苦笑する。息子は同じ歳の妻との間に3歳と5歳の男の子がいる。光則さんは2歳年下の妻と共に、事業で成功した息子から10日間のハワイ旅を招待される。

息子一家が全額を負担しての10日間のハワイ旅行。妻は隣近所に自慢して回り、ハワイへと旅立つ。しかし成田空港のラウンジから、不吉な予感は漂い始めていた。

【これまでの経緯は前編で】

機内で孫が大騒ぎすることを心配していたが

ラウンジで孫から「はい、ロンパ(論破)!」と言われた光則さんは、孫が機内で騒ぐことを心配していたが、幸いにもすぐ寝てしまったという。

「直前までギャーギャー騒いでいたのに、寝てしまったから不思議に思って息子に聞くと、子供用の睡眠改善薬を飲ませたという。そこまでしなくてもいいのではないかと言うと、お嫁さんが口出ししてきて、“日本では子供も大人も我慢して辛い思いをするのが美徳ですが、海外は違います。これは私が海外の信頼できる医師から頂いた薬なので、全く問題がありません”と言い切る。そう言われると黙っているしかないよね。実際、孫たちは着陸まで一切目を覚ましませんでしたから」

宿泊は最高級コンドミニアムだった。ホノルルの街が一望できて、妻も大喜び。虹が何重にも見えて、感動的だったという。

「私たち夫婦と、息子一家の2部屋かと思ったら、私たち夫婦と孫2人、息子夫婦の2部屋だったんです。嫁は“これから10日間、じいじ、ばあばと楽しく遊んでね”と言って出て行ってしまった。私たちは“は?”という顔をしていると、息子が申し訳なさそうに私たちを拝む。そのときに、私たちは10日間孫の世話をさせるために呼ばれたシッターだったんだと全てが腑に落ちました」

その後の10日間は体力を限界まで削られて、へとへとになった。

「息子たちはゴルフだ、経営者仲間との食事会だと出歩いている。だから孫たちを私たちが面倒見るしかない。なれないハワイで、孫の手を引いてスーパーマーケットに行ったり、動物園やビーチに行ったり。女房は年齢とともに日光アレルギーが出てしまうようになってしまったので、昼間は私が遊びに連れて行くしかない。孫とはいえ、“お嫁さんの子”だから、怪我をさせてはいけないし、海難事故なんてもってのほか。ビーチにいる間は生きた心地がしませんでした」

孫の好き嫌いや食物アレルギーに気を遣いながら、妻は3度の食事を整えた。

「夫婦2人なら、料理なんて気が向いたときにしかしなくていいんですよ。年寄りだからそんなに食べないですしね。でも、孫が一緒だと別。パンケーキを作ろうとしたら上の孫は乳製品がダメ、サーモンのソテーを作ろうとしたら、下の孫はサーモンと玉ねぎやネギなどに含まれる硫化アリルのアレルギーだという。また2人の孫は偏食も激しい。我が子なら引っ叩くところですが、他人様であるお嫁様の息子様たち。そもそも今まで一緒に暮らしたこともない孫とずっと同じ部屋ですよ。だから、粗相があってはいけない。夫婦で力を合わせて頑張りました」

ただより高いものはない、とは、まさにその通りだ。

「親のお金のことばかり聞いてくる息子なのだから、そこは警戒すべきだったんです。でも、息子からの親孝行の申し出が嬉しくてホイホイ出かけてしまった。さらに腹が立つのは、お嫁さんが私たちに“可愛い孫と一緒にいられて、楽しかったでしょ”と言ったこと。あのときは、ちゃぶ台をひっくり返してやろうかと思いました」

妻はハワイアンキルトの教室に申し込み、楽しみにしていたが、疲れて行けずにキャンセルしたという。光則さんもかつての部下がハワイに移住して事業をしており、会うことを楽しみにしていたが断念した。

「孫の世話はとても疲れる。航空チケット代と宿泊費で1人30万円だと言っていましたが、そっくりそのままお返ししたいと思いましたよ」

【娘の親孝行が身に染みた……次のページに続きます】

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