ライターI(以下I):関ヶ原合戦での戦勝を報告するために徳川家康(演・松本潤)が大坂城の豊臣秀頼に挨拶する場面が描かれました。秀頼が上段から降りてきて、茶々(演・北川景子)に「父と思え」と促されて、家康を「父上」と呼ぶ、といった会話が交わされました。
編集者A(以下A):秀頼は満7歳、現在でいえば小学一年生です。この時の家康の態度を見てもわかる通り、秀頼を主君とした主従関係が継続しています。関ヶ原では豊臣恩顧の福島正則(演・深水元基)、黒田長政(演・阿部進之介)、浅野長政(演・濱津隆之)、藤堂高虎(演・網川凛)などが家康に味方をしていますが、彼らは秀頼を見限って家康についたわけではないのが複雑なところです。
I:劇中では「天下を獲る」と高らかに宣言し、関ヶ原合戦終了後に井伊直政(演・板垣李光人)が〈天下を取りましたな〉と言いましたが、名実ともに天下を我がものにするのはもう少し先の話になるのですよね。
A:この頃の「豊臣・徳川」の関係を二重公儀体制と説明したのは笠谷和比古(国際日本文化研究センター名誉教授)です。初めてこの説に接した際は「なるほど、なるほど」と感服したのを覚えています。その後異論も多く提起されていますが、本作では家康が〈徳川は武家の棟梁、豊臣はあくまで公家〉という台詞を発していましたから、二重公儀体制説の影響を受けている印象を受けました。
I: 二重公儀体制というのを説明した方がいいのではないでしょうか。
A:まさに家康の台詞で説明されているのですが、極めてざっくりと説明すると、「武家を束ねる徳川」「公家を束ねる豊臣」という二重の公儀があったという説です。家康と本多正信(演・松山ケンイチ)が征夷大将軍をめぐるやり取りをしていましたが、このスキームを念頭におくと、この段階の家康は、豊臣家と徳川家の共存を志向していたという考えで脚本が書かれているのでしょう。
I:秀頼に対する諸将の態度も従前と変わらなかったですね。
A:劇中でも秀頼のもとを諸将が訪ねてにぎやかに接するという場面が描かれました。三成とその一派が排除されて、あとは何も変わっていないというのが「現在地」ということなのでしょう。
I:秀頼側の賑わいを見ての心中穏やかではない家康の様子も興味深かったですね 。
秀頼と千姫の縁談
A:豊臣と徳川が共存していこうということで、まだ幼い秀頼と家康の孫娘千姫の縁談が進められることになりました。秀頼の母は茶々、千姫の母は江(演・マイコ)ですからふたりはいとこでもあります。江が主人公だった2011年の大河ドラマ『江 姫たちの戦国』では上野樹里さんが江を演じ、茶々は宮沢りえさんでした。
I:懐かしいですね。
【さようなら平八郎と小平太。次ページに続きます】