文/鈴木拓也
「整形外科 スポーツ・栄養クリニック」の院長を務める武田淳也医師のもとには、毎日多くの患者が訪れる。
痛みや不調を訴える患者の多くは、「知らず知らずのうちに、誤った日常の動作や姿勢によって、自分の体を痛めてしまっている」のだと武田医師は語る。
家電を購入すると、それがどんなにシンプルな装置であっても、必ず取扱説明書がついてくる。なのに、はるかに複雑な我々の身体の取扱説明書というものはない。だから、日常生活の中で、知らないうちに自分の身体の使い方を誤り、やがてそれは不調・故障となって顕在化する。
武田医師は、その発想を展開させて『カラダ取説』を刊行したのが12年前のこと。さらに、自身が運営するピラティスのスタジオにて、「カラダ取説」プログラムをスタート。これまで8千人以上の受講生に、正しい体の使い方を指導してきた。
今では、企業・官庁の研修や教育の現場でも採用されるほど好評。今年の6月には、これまでの知見を盛り込んでバージョンアップした『新装改訂版 カラダ取説』(徳間書店)を上梓している。
正しい呼吸が不調を改善
本書の特徴は、前著と同様ピラティスのメソッドが盛り込まれていることだ。武田医師は、日本ピラティス協会・研究会の会長として、ピラティスの啓発活動にもあたっており、本書の構成もピラティスのエクササイズが主体。その全容をここで取り扱うことは無理だが、その1つ「正しい呼吸が体をよみがえらせる」という興味深いテーマを紹介しよう。
人間が呼吸をするのはなぜかと問われれば、「酸素を取り入れ二酸化炭素を出すことで、エネルギーを生み出すため」と答えるだろう。実は、呼吸の目的はそれにとどまらない。姿勢を保ち、動作を導くという何気ないことにも、呼吸が大きく関わっているという。
例えばわかりやすい例として、猫背の悪姿勢でいるときは、思いきり息を吸い込もうとしても難しく、浅い呼吸になる。逆に、背筋を伸ばした状態で思いきり息を吸い込んだときは、猫背姿勢になろうとしても、難しくなる。また、思いきり息を吐き出したときは、自然と体全体で背骨を前に曲げる。反対に息を吸い込んだときは、体全体で背骨をそらす動作が導かれる。
武田医師によれば、「正しい呼吸」とは、これら3つの目的が十分に果たされている呼吸を意味するという。「正しい呼吸」ができれば、身体にどのような影響があるか。武田医師は次のように説明する。
そこから私たちが得られるメリットは、免疫力強化、頭痛・肩こり・腰痛の軽減、美肌効果、心身のリラクゼーション効果、体幹(医学的には体の幹にあたるところで、頭部や手足を除いた胴体部分のこと)の安定、代謝アップによるスリム効果、安眠効果、尿漏れ予防など、計り知れないほど大きいのです。(本書より)
「骨盤のトライアングル」で正しい姿勢になる
その「正しい呼吸」のエクササイズの前に、マスターしておきたいのが「正しい姿勢」。それには、以下の写真のような立ち方が基本となる。
両手を腰に当て、左右の腰骨の出っ張った部分と恥骨の3点を結んだときにできる三角形を「骨盤のトライアングル」と呼ぶ。立姿勢では、この三角形が床に対して垂直になるようにする。
この骨盤のトライアングルをつねに意識することによって、背骨のひとつひとつの骨や関節が正しい位置にキープされ、さまざまなエクササイズや日常動作を安全に行うことができます。(本書より)
呼吸のエクササイズを実践
では、呼吸のエクササイズの1つをやってみよう。下は、「呼吸で体幹と脚の動きを調和させる」もので、大腿四頭筋を鍛える効果もある。
1. こぶしが1つ入るくらいの足の幅で立つ。頭頂と尾骨を上下反対方向に引っ張り合って、背骨を引き伸ばすような感覚で背骨の軸を意識して立つ。骨盤のトライアングルは床に対して垂直を保つ。
2. 1の姿勢を保ち、お腹は平らに引き込んだまま、息を吸いながら片脚を膝の後ろを伸ばし、股関節だけを使って前に出す。
3. 2の姿勢を保ちながら、その脚を、息を吐きながら元の位置を通って後ろへ。また息を吸いながら元の位置を通って前へ。2~3を繰り返し行う。反対側の脚でも行う。
肩こり・猫背を改善するエクササイズ
本書には、特定の目的・症状に合わせたエクササイズもある。その1つが、多くの人が悩んでいる肩こり。武田医師は、肩こりの原因には、「頚椎の椎間板ヘルニアや加齢によって出てくる神経の症状がからんでいることもある」と指摘するが、ほとんどの場合、姿勢の不良が原因だという。そこで、日頃から正しい姿勢を習慣づけ、不良姿勢を改善することが基本のキとなる。
では、肩こり・猫背を改善する次のエクササイズをやってみよう。
1. 四つんばいになり、息を吐きながら背中全体を丸めてお腹を引き込む。
2. お腹は平らに引き込んだままで、腰をサポートしながら息を吸って背中全体を均等に反らす。
* * *
本書には、上記のような体の各部・不調に応じた様々なエクササイズが収録されている。まずは、自分が気になるポイントに対応したエクササイズから取り組んでみるのが良いだろう。その努力は、あなたを裏切らないはずだ。
【今日の健康に良い1冊】
『新装改訂版 カラダ取説』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。