写真はイメージです

親が子どもに接するとき、「怒ってはいけない」と思っても、つい感情的に怒鳴ってしまうことがあるものです。こういった行動の背景には、親自身に原因があることがあります。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『怒鳴り親 止まらない怒りの原因としずめ方』から、親自身が自分でできるアンガーコントロールと、怒鳴らない子育ての知恵をご紹介します。

文/土井髙德

まず親自身の問題を振り返る

愛情ゆえに発生する親子のトラブル。その原因の1つは子ども自身がかかえる問題であり、もう1つは養育者である親自身が抱えている問題です。

子どものとき、自分と親との間で不全感を抱え、解決できないまま大人になり、親になった人は少なくありません。幼少期に解決すべき課題を大人になっても解決できずに抱えている。そんな親はなぜ怒りが止められないのか、もう少し考えてみましょう。

通常、人間の子どもは、空腹になったり、おしめが濡れたりと、不快な状態になると泣いてメッセージを発します。これを受けた親や周囲の大人は、適切に対処して子どもの不快を快に変えてあげる。つまり、子どもの不安や混乱といった情動がしずまるように整えてあげるのです。

こうした適切な対応、育児を通じて、子どもは周囲の人に対する信頼感を養います。そして、自分が価値ある存在であり、信頼に足る人々に守られている、安全な空間にいるといった、自分と周囲の大人への基本的な信頼感を確立します。

空腹などの不快な場面や困難に遭遇した子どもが、親をはじめ「特定の親密な大人」に接近することを「愛着(アタッチメント)」といいます。

子どもは親という安全基地にアタッチメントし、徐々に探索行動をとりながら自分の世界を広げていきます。砂場で遊んでいる子どもはよく、親の視線や存在を確認しながら遊びに夢中になって、行動の範囲を広げていきますよね。そこには親子の信頼感があるからです。

その逆で、子どもの頃に親を含めた他者との間に基本的な信頼感を養うことができない場合、生涯にわたって影響する困難を抱えてしまいます。こうした困難は、子どもの場合は愛着障害、親の場合はボンディング障害と呼ばれます。

子どものときに機能不全な家族の中で育った親から、理不尽な対応や、激しい叱責、体罰を受けて育った大人。彼等の中には、過去の出来事への怒りの感情にフタをしたまま、親になった方もいらっしゃることでしょう。普段はフタをしている怒りが、子どもが泣き止まない、言うことを聞かない……そんな場面で沸点に達して、つい体罰や虐待を加えてしまった。そういうケースはとても多いのです。

現在は過去の投影

自分自身の行動を制御できない「セルフコントロール」の困難を抱える人は、一度自身の育ちを振り返り、感情を整理することをおすすめします。

まず、生まれてから今日までの出来事を時系列で箇条書きにしてください。次に、人生の節目で起きた出来事を書き、そのときの周囲の反応や自分の感情を書いてみましょう。どんな環境で育ち、どんな人に出会ってきたか、どんな人に育てられたのかで人の価値観は大きく変わります。たとえば、以下のような関係性を振り返ってみてください。

・幼少期の親との関係はどうだったか?(虐待の有無・会話や教育の様子など)
・両親同士の関係性はどうだったか?(仲が良かったのか対立していたのか)
・兄弟姉妹がいた場合、関係性はどうだったか?(どのような遊びや会話があったのか)

特に大事なのは、どのような体験によって自分自身の現在の「習慣」が形作られたかということです。それによって無意識のうちに生じる思考や行動のパターンがわかります。

たとえば、父親から母親へのDVが日常的にあった場合、その環境が苦しくても子どもはそこから逃げることができません。そして、自分を守るため、必然的に感覚を止めて感じないようにします。そうした解離と呼ばれる対処方法で一時的に乗り越えても、その環境が変わった後も「感じないようにする」という心のクセがついたままだと、心の滓(おり)がやがてストレスとなり、過呼吸や依存などのひずみとして表れるケースがあります。

子どもにとって食べ物や愛情を与えてくれる存在は必要不可欠です。その人がいないと生きていけないから、その人に愛されるために必要な考え方や価値観を無意識のうちに身につけていきます。たとえば、はしゃいだり、泣いたり、笑ったり、素直な感情を表現したときにいつも怒られていると、子どもは「表現しなければ愛されるんだ」と考
えるようになります。こうなると、いじめられたときにも「イヤ」と言えず、表現ができないためにいじめの対象になりやすくなる恐れがあります。

このように、自分の過去を丁寧に振り返ることで、現在の自分の性格、能力、思考が浮かび上がってきます。皆さんの現在は過去の投影なのです。こうした視点で自分史ノートを作り上げてみてください。1人では難しいようなら、安全な場所で、信頼できる人に自らが抱える困難についての話を聞いてもらうことをおすすめします。

* * *

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小学館 9月29日発売

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土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。一般社団法人おかえり基金理事長。学術博士。福岡県青少年課講師、産業医科大学治験審査委員。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。実家庭や児童福祉施設で「養育困難」と判断された子どもたちとともに暮らし、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。その活動はNHK「九州沖縄インサイド」、「福祉ネットワーク」、「クローズアップ現代」で特集されたほか、テレビ東京、読売新聞、西日本新聞などで紹介されるなど全国的に注目を集めている。ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞、福岡キワニスクラブから第24回キワニス社会公益賞、北九州市表彰(社会福祉功労)を受賞。著書に『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(小学館新書)など。

 

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